深い深い地下に隠された闇。
GHOSTなる機関の、罪深き実験場。
奥へ奥へと長く伸びる部屋の両端には、大きな培養装置が幾つも並んでいて。
その中には人の形をした人形もあれば、実際に人であったものの残滓も漂っているのだった。
現実とは思えぬ光景の中。
辿り着いた俺たちはまず、床に倒れ伏していたシグレ君の姿を認めた。
「シグレくん! 無事か!?」
無事、とはとても言えない惨状が広がっている。俯せに倒れたシグレくんは、その背中を執拗に刃物で切り裂かれており、床には血溜まりができていた。赤く染まりすぎて、最早服と肌の区別もつかないまでに傷付けられた背中は、直視できない有様だった。
「レイジ、さん……」
息も絶え絶えに、シグレくんは俺の名前を呼ぶ。
意識を保っていることすら奇跡的なくらい、彼の状態は危うかった。
「……ごめんな……遅くなって」
「……えへへ……いいんです。ボクは……レイジさんなら来てくれるって……分かってました、から」
だから、とまで言いかけて、シグレくんは動かなくなる。息はあるが、その起伏はとても僅かなもので。
「君の大事な友達は残しておいたよ」
声。
遠くから聞こえてくるのは、支配者の声だった。
この館を支配し、そして俺たちを蹂躙した、事件の犯人。
「何せ、君のために考えられたゲームなんだ。きっちりと答え合わせくらいはしてほしいと思ってね?」
部屋の奥に立つそいつは、嘲るような笑みを浮かべながら俺たちを見下している。
そこに、かつての面影はまるでないように思えた。
全てが幻影だったかのように。
「……お、おい……そんな……」
ソウヘイが、驚きのあまり絶句している。
俺だって認めたくなかった推理だ。けれど、事ここに至って推理は真実になった。
「……俺のため? ふざけんなよ……全部、お前のためでしかないだろうが。徹頭徹尾、気味の悪いほどに仕組まれた、お前のためのお遊びだったんじゃねえか」
「それは心外だよね、せっかく練りこんだプロットなのに。確か、霧夏邸の事件を参考にしたんだったかな、うん」
「……知らねえよ。俺たちはお前の遊び道具じゃねえ!」
悲しみと、それを塗り潰すほどの怒りを込めて俺は叫ぶ。しかし、そんなものは奴の心に何らも響かないらしい。
「遊び道具というより、駒かな。おかげで、ここでの目的は達した。感謝しているんだよ」
「感謝……だと?」
「そうさ。君たちは……君はよく働いてくれた。おかげで私は、パーツを手に入れることができたのだから」
「何を言ってやがる……」
ソウヘイの言葉を無視して、というより最早ソウヘイなど眼中にないかのように、奴は再び口を開く。
「……さあ、せっかくの解決篇だ。犯人のお話から入っても仕方ないだろう? 桜井令士くん、謎解きをしてくれるかい。君たちの命をかけてね」
それは、頼みでなく命令だ。
奴自身の享楽のため、俺の推理を聞きたいというだけ。
話さなければ死。話したところで間違えたり気に入らなければ死。
理不尽極まる、いっそのこと笑いたくなるような状況だった。
「なあ……本当に、あいつが……?」
未だに眼前の真実を受け入れられないソウヘイが、俺に問いかけてくる。
けれど、俺が返せる答えは頷きだけだ。
それが、疑いようのない事実なのだから。
他ならぬ犯人があの場に立ち、俺たちにその事実を誇示しているのだから。
「望み通り話してやるさ。俺が辿ってきた道のりを」
そして俺は、探偵のように謎解きを始める。
役者が四人だけになった舞台で、犯人に命じられるままに。
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