幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

45.解決篇

公開日時: 2021年6月27日(日) 00:42
文字数:1,422

 深い深い地下に隠された闇。

 GHOSTなる機関の、罪深き実験場。

 奥へ奥へと長く伸びる部屋の両端には、大きな培養装置が幾つも並んでいて。

 その中には人の形をした人形もあれば、実際に人であったものの残滓も漂っているのだった。

 現実とは思えぬ光景の中。

 辿り着いた俺たちはまず、床に倒れ伏していたシグレ君の姿を認めた。


「シグレくん! 無事か!?」


 無事、とはとても言えない惨状が広がっている。俯せに倒れたシグレくんは、その背中を執拗に刃物で切り裂かれており、床には血溜まりができていた。赤く染まりすぎて、最早服と肌の区別もつかないまでに傷付けられた背中は、直視できない有様だった。


「レイジ、さん……」


 息も絶え絶えに、シグレくんは俺の名前を呼ぶ。

 意識を保っていることすら奇跡的なくらい、彼の状態は危うかった。


「……ごめんな……遅くなって」

「……えへへ……いいんです。ボクは……レイジさんなら来てくれるって……分かってました、から」


 だから、とまで言いかけて、シグレくんは動かなくなる。息はあるが、その起伏はとても僅かなもので。


「君の大事な友達は残しておいたよ」


 声。

 遠くから聞こえてくるのは、支配者の声だった。

 この館を支配し、そして俺たちを蹂躙した、事件の犯人。


「何せ、君のために考えられたゲームなんだ。きっちりと答え合わせくらいはしてほしいと思ってね?」


 部屋の奥に立つそいつは、嘲るような笑みを浮かべながら俺たちを見下している。

 そこに、かつての面影はまるでないように思えた。

 全てが幻影だったかのように。


「……お、おい……そんな……」


 ソウヘイが、驚きのあまり絶句している。

 俺だって認めたくなかった推理だ。けれど、事ここに至って推理は真実になった。


「……俺のため? ふざけんなよ……全部、お前のためでしかないだろうが。徹頭徹尾、気味の悪いほどに仕組まれた、お前のためのお遊びだったんじゃねえか」

「それは心外だよね、せっかく練りこんだプロットなのに。確か、霧夏邸の事件を参考にしたんだったかな、うん」

「……知らねえよ。俺たちはお前の遊び道具じゃねえ!」


 悲しみと、それを塗り潰すほどの怒りを込めて俺は叫ぶ。しかし、そんなものは奴の心に何らも響かないらしい。


「遊び道具というより、駒かな。おかげで、ここでの目的は達した。感謝しているんだよ」

「感謝……だと?」

「そうさ。君たちは……君はよく働いてくれた。おかげで私は、パーツを手に入れることができたのだから」

「何を言ってやがる……」


 ソウヘイの言葉を無視して、というより最早ソウヘイなど眼中にないかのように、奴は再び口を開く。


「……さあ、せっかくの解決篇だ。犯人のお話から入っても仕方ないだろう? 桜井令士くん、謎解きをしてくれるかい。君たちの命をかけてね」


 それは、頼みでなく命令だ。

 奴自身の享楽のため、俺の推理を聞きたいというだけ。

 話さなければ死。話したところで間違えたり気に入らなければ死。

 理不尽極まる、いっそのこと笑いたくなるような状況だった。


「なあ……本当に、あいつが……?」


 未だに眼前の真実を受け入れられないソウヘイが、俺に問いかけてくる。

 けれど、俺が返せる答えは頷きだけだ。

 それが、疑いようのない事実なのだから。

 他ならぬ犯人があの場に立ち、俺たちにその事実を誇示しているのだから。


「望み通り話してやるさ。俺が辿ってきた道のりを」


 そして俺は、探偵のように謎解きを始める。

 役者が四人だけになった舞台で、犯人に命じられるままに。

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