幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

ex1.ソウヘイ

公開日時: 2021年7月10日(土) 22:44
文字数:952

「事件から、もう二週間か」


 俺の隣にいたソウヘイが、ふいに呟いた。

 ミステリ研究部前の廊下で、俺は彼と駄弁っているところだった。

 あれからミス研は廃部になったが、使う予定がないことから手付かずの状態で残っていて。

 俺は今でもたまに、放課後ここに来て時間を潰したりしているのだ。


「あれからシグレくんとは、何か話したのか?」

「ああ。これからどうするか……二人で決めたよ」

「意味深なセリフだな」

「うるせえ」


 こいつは相変わらず、茶化すのが上手いというか。

 毎度話のペースを握られてしまっている。


「……で?」

「ん。ヒカゲさんは、鏡ヶ原で使われた機械を三つのパーツに分けたと手紙に書いてた。そしてそれを、息子である俺の思い通りに扱ってほしいってな。だから、俺はそいつを見つけて壊すつもりさ。全然アテはないけども」

「ふーん……なるほど」


 じゃあ、とソウヘイは笑う。


「これからもオカルト的な噂がある場所に出向いたりするわけだ」

「まあ、多分」

「それなら、俺とそう変わらないな」

「ん……?」


 どういう意味だろうとソウヘイの方を見ると、彼はわざとらしく溜息を吐いて、


「俺も手掛かりを見つけなきゃいけないわけよ……モエカのね」

「ああ……」


 西条萌絵香。黒影館で聞いた、ソウヘイの妹のことだ。

 オカルト話に興味を抱き、そしてオカルト話のようにいなくなってしまった妹。


「……今回の件で、モエカが何かに巻き込まれてる可能性も出てきちまったんだよな。鏡ヶ原のように、どこかでGHOSTとやらの関わった事件が起きていたかもしれない。その中にモエカがいたかもしれない。俺は、その痕跡だけでも掴みたいんだ。あいつの生きた証を、辿りたいんだよ」

「ソウヘイ……」


 一瞬だけ浮かべた真剣な表情を誤魔化すように、ソウヘイはすぐに笑みを浮かべる。


「……はは。そういうわけだから、オカルトの噂あるところには駆けつけるさ。俺もシグレくんと同じで、何かあれば連絡するからよ。お互い頑張ってこうぜ」

「……なんだそりゃ」


 まあ、そう言ってくれるのは素直に嬉しいことだ。

 頼りになる男なのは間違いないのだから。


「ま……そだな。頑張ろう」

「おう。じゃあな」


 すたすたと立ち去っていくソウヘイの背中を見つめながら、俺は心の中で呟く。


 ――見つかればいいな。


 いつか彼が、妹と笑える日が来ますように。

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