幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

17.5 兄と妹②

公開日時: 2021年9月16日(木) 21:20
文字数:717

「モエカ!」


 西条創平は、事件現場から逃げ出した妹の後を追っていた。既に仲間の姿は見えない。彼らは教会前の献花台近くまでやって来ていた。

 ピタリと止まったモエカの背中に、ソウヘイは続けて声を掛ける。


「……なあモエカ、正直に答えてくれ。お前がミコちゃんを殺したのか」

「……違うわ」


 背を向けたまま、モエカはゆっくりと首を振る。


「私が戻って来たとき、あの子はもう……死んでいたの」

「……それは、信じるよ」


 心からの言葉かと問われれば、自信はない。

 何故なら、ソウヘイには一つの疑念が蟠っていたからだ。

 二人の関係性そのものを否定するような、疑念が。


「……じゃあ、モエカ」


 意を決したように彼女を見据え、ソウヘイは訊ねる。


「お前は――本当にモエカなのか?」

「何ですって?」


 流石に意表を突かれたらしく、彼女は目を丸くして驚く。

 普通なら、同じ顔貌をしていれば本人であることはほぼ確実だ。相手が肉親で、双子などがいないことを知っているなら尚更に。

 それでもソウヘイが、彼女を自分の妹でないと疑うには相応の理由があった。


「……俺はさ。夕方お前と話したとき、お前に嘘をついてたんだ。お前がオカルトに興味を示し始めたのは、中学生の終わりくらいのときだから……俺とそういう場所へ探検に行ったことなんて、ただの一度もないんだよ」

「え……」


 失策。

 一瞬でそれを理解したのか、明らかに彼女は狼狽えた。

 演技の綻び。

 ソウヘイはその僅かな綻びを見逃さなかったのだ。


「騙すような真似をしたのは悪かった。でもよ、分かった以上聞かせてほしい。お前は一体何者なんだ? お前の目的は……何なんだ?」


 真っ直ぐなその視線と問いに。

 モエカの姿をした何者かは、やがて観念したように口を開いた。


「私は――」

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