「モエカ!」
西条創平は、事件現場から逃げ出した妹の後を追っていた。既に仲間の姿は見えない。彼らは教会前の献花台近くまでやって来ていた。
ピタリと止まったモエカの背中に、ソウヘイは続けて声を掛ける。
「……なあモエカ、正直に答えてくれ。お前がミコちゃんを殺したのか」
「……違うわ」
背を向けたまま、モエカはゆっくりと首を振る。
「私が戻って来たとき、あの子はもう……死んでいたの」
「……それは、信じるよ」
心からの言葉かと問われれば、自信はない。
何故なら、ソウヘイには一つの疑念が蟠っていたからだ。
二人の関係性そのものを否定するような、疑念が。
「……じゃあ、モエカ」
意を決したように彼女を見据え、ソウヘイは訊ねる。
「お前は――本当にモエカなのか?」
「何ですって?」
流石に意表を突かれたらしく、彼女は目を丸くして驚く。
普通なら、同じ顔貌をしていれば本人であることはほぼ確実だ。相手が肉親で、双子などがいないことを知っているなら尚更に。
それでもソウヘイが、彼女を自分の妹でないと疑うには相応の理由があった。
「……俺はさ。夕方お前と話したとき、お前に嘘をついてたんだ。お前がオカルトに興味を示し始めたのは、中学生の終わりくらいのときだから……俺とそういう場所へ探検に行ったことなんて、ただの一度もないんだよ」
「え……」
失策。
一瞬でそれを理解したのか、明らかに彼女は狼狽えた。
演技の綻び。
ソウヘイはその僅かな綻びを見逃さなかったのだ。
「騙すような真似をしたのは悪かった。でもよ、分かった以上聞かせてほしい。お前は一体何者なんだ? お前の目的は……何なんだ?」
真っ直ぐなその視線と問いに。
モエカの姿をした何者かは、やがて観念したように口を開いた。
「私は――」
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