「……ソウヘイ……」
冷たくなった彼の体に、そっと手を触れる。
うつ伏せの体。その表情は分からないけれど、死顔と目を合わせる勇気を、俺は持ち合わせていなかった。
「ごめんな……俺がもし、気付けていたら……」
こんなことにはならなかったのに。
そうだ、結局同じ後悔に苛まれる。何回、何十回と繰り返される懺悔。
ひょっとすれば何百回と繰り返したかもしれない、そんな既視感すらどういうわけか抱いてしまうような、深く刻まれた苦しみだった。
「……レイジくん」
俺の隣で、そっとシグレが囁く。
「そんなの……無理です。分かりっこないことですよ……」
――そうだぜ。
ふいに、シグレの立つ方向と反対側から聞こえてきたのは、紛れもなくソウヘイの声だった。
半透明の輪郭が浮かび上がり、そこに彼の魂魄が確かに存在していることを教えてくれた。
「前も言ったろ。全知全能なんかじゃないんだから……そんなに自分を責めるんじゃねえよ。俺が油断してただけさ」
「でも……」
謝ろうとして、けれども言葉は出てこなかった。今更な謝罪に、何の意味があるというのだろう?
「……なあ、レイジ」
俺が何も言えないのを慮ってか、ソウヘイの方から言葉をかけてくる。
「モエカはの体はあんな風になっちまったが……あいつの魂は結局、見つからずじまいだったが。もしどこかで手がかりでも掴んだら、俺の代わりにモエカの魂を助けてやってくれねえか」
そんなことは、当然の使命だ。
ソウヘイが果たせなかった願いを引き継ぐのは、残された俺たちの責務だった。
「ああ……約束する。そんなの、当然じゃねえか」
お前のためにできることであれば、何だって。
それくらいのことしかもう、お前にはしてやれないけれど……。
「ありがとうな、レイジ」
「……ごめん……ごめんな、ソウヘイ」
ようやく振り絞った謝罪には、彼は何も答えず。
ただ寂しげに微笑んでから、シグレの方に振り返った。
「レイジのこと頼んだぜ、シグレくん。お前がいるおかげで……こいつは頑張れるんだろうから。だから、よろしく頼む」
「……はい。僕も……約束します」
シグレは、声を上ずらせながらもハッキリと答える。ソウヘイを心配させないよう、自身の真っ直ぐな思いを伝えるよう。
それを聞いたソウヘイは、今度は満足げな笑みを浮かべて、そっと肩の辺りまで右手を挙げた。
「――じゃあ、な」
そうしてソウヘイもまた、マキバさんたちと同じように、光に導かれるようにしてあちら側の世界へと消えていったのだった……。
俺たちは、この狂ったゲームのたった二人の生き残りとして鏡ヶ原から生還した。
かつて幼い子供たちの命が無残にも奪われたこの地で、その悲劇を繰り返すようにした殺人劇は、救いのないままに幕を閉じた。
……あの女は言った。
私だって、悲しんではいる、と。
その気持ちは、真実なのだろうか。
なら、それすらも些事だと思えるような彼女の望みとは、何なのだろうか。
その答えはやはり、今もまだ幻影のように掴むことはできなくて……。
事件は、すぐに警察による捜査が行われたが、彼らに犯人を特定することはできなかった。
当然だ。普通に生きる人間の常識では、鏡ヶ原の事件を紐解くことなんて、出来やしないのだから。
生存者である俺とシグレには、毎日のように粘着質な取り調べが続いたが、俺たちはそれを全て、安藤蘭による犯行だと口にするに留めておいた。
……実際、裏でゲームを楽しんでいたのは、あいつなのだから。
……なあ、ソウヘイ。
俺は、お前を救えなかったんだろうか。
お前の慰めを思い出すたびに、どうしてもあれこれと考えてしまうんだ。
でも、もうお前は帰ってこないから。
それならせめて、お前と交わした約束だけは、果たさなくちゃいけないよな。
それが……俺の背負う、十字架だ。
……さよなら、ソウヘイ。
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