メインホールに戻ると、モニタールームの前にソウヘイが俯せで倒れていた。
一瞬だけ心臓が止まりそうになったが、どうやら気絶しているだけのようだ。
頭を殴られたのか、金髪に少しだけ血が付いているのが分かる。
「ソウヘイ!」
駆け寄りながら呼びかけると、ソウヘイは呻き声を上げながらも体を動かした。軽い脳震盪を起こしているのか、四つん這いになったまま中々起き上がることができないようだ。
「すまねえ……レイジ」
「謝るな。しばらく横になったままでもいい」
俺の言葉にソウヘイは僅かに首を動かし、体の向きを変えて仰向けになる。
「そっちに行こうとしたんだが、突然シグレくんの呻き声が聞こえて……振り返ろうとしたら、多分何かで殴られた」
「シグレくんは……?」
「分かんねえ。連れ去られたにしても、まだそう遠くには」
悲鳴が聞こえてまだ時間は経っていない。犯人とシグレくんが近場にいてもおかそくないはずだ。
と、どこかでドアが開閉する音が聞こえた。慌てて振り返ると、俺がさっき出てきた廊下の扉がちょうど閉まっていくところが見えた。
「……今、ドアが動いてたよな?」
「ああ、間違いなく誰かが入った……!」
痛みに顔をしかめながらも、ソウヘイは答える。自分がいながらみすみす犯人にシグレくんを連れ去られたのが悔しくてならないのだろう。
まだ回復はしていないようだったが、ソウヘイは何とか立ち上がった。それからピシャリと両頬を叩いて自らに気合を入れる。
「行けるか、ソウヘイ?」
「……大丈夫だ、行こう!」
犯人はすぐ近くにいる。
手がかりは揃い、犯人の腕を引っ掴むこともできる。
ゲームセットのときは近い。
ただ、これ以上の犠牲が出ないことだけを願う。
扉を開けたとき、同時に嫌な音がした。
警報と防壁の音だ。
「マジかよ、起動しないようにはしたんだぜ!?」
「向こう側からも操作できるのかもしれない。施術室だったから、万一の場合怪物化した被験者を出さないようにとか配慮されてたんだろうな……」
向こうにあったマニュアルには、凶暴化だの怪物だの記載があった。内外どちらからでも防壁を出せるようにすることで非常時に備えていたということだろう。
何にせよ、再び壁は閉ざされたということだ。
「……すまねえ。俺がついていながら、シグレくんをみすみす」
「過ぎたことを言っても仕方ない。とにかく犯人を追わないと」
「もう一度解除しなくちゃな」
俺たちは急ぎモニタールームに向かい、防壁の解除を行う。ソウヘイがさっきも操作してくれていたらしく、ボタン一つで問題なく防壁は開かれていった。
「時間稼ぎなんだろうな……シグレくんが心配だ」
「ああ……早く助けよう」
廊下に戻り、防壁が人の通れる幅だけ開くとすぐに、それをすり抜ける。
奥にあるエレベーターの案内ランプは下にカゴがあることを表示しており、犯人とシグレくんはこれに乗って下りていったことが分かった。
ボタンを押してカゴを呼び、俺たちも乗り込んで下へ。駆動音のほとんどしないエレベーターは、静かに俺たちを地下へと運んでいった。
「……なあ、レイジ」
「うん?」
「お前……分かったのか?」
ソウヘイは、俺の表情を見て何かを感じ取ったらしい。伊達に親友じゃないというか、察しのいい奴だ。
「分かったのかどうか。ただ、そうなっちまうってだけなんだよ。ヒカゲさんの残した資料の通りだとすれば」
魂魄の実験。
決して純粋に受け入れられない記録を、それでも認めて考えたのなら。
導き出される答えは一つに収束してしまうのだ。
「だから……確かめるためにも、行かないといけないんだ」
俺たちを恐怖に満ちた幻影へ誘った、犯人の元へ。
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