晴れやかな空。
遠くに映る丘陵。
過ぎ去っていく景色はそのほとんどが緑色で。
開け放たれた窓からは、自然の匂いと言うべきか、澄みきった空気が入り込んでくる。
一時間に一本しかないローカル鉄道。
たった二両編成の電車に乗って、俺たちは目的地へ向けて旅をしていた。
「良い景色だな」
「ええ。これが本当の旅行だったら幸せでしょうけど」
対面に座るシグレの言葉には全面的に賛成だ。これが日々の疲れを癒すための小旅行であれば、どれほど良いことかと思う。
けれど、この旅の終着点は安息の地などではなく、激戦地に他ならないのだが。
鈴音町を出て、かれこれ一時間半ほど。
都会の色もすっかり消え去って、いよいよ終点を知らせる音楽が車内に鳴り響く。
鏡ヶ原。幾人もの魂が弄ばれ、そして奪い去られた場所。
ようやく俺たちは、ホストからの招待を以てその地に辿り着く……。
「はー……、着きましたね」
電車から降りてすぐ、シグレくんが大きく伸びをする。長旅だったので、体が凝るのは仕方ないことだ。俺も軽く腕を回してみたりする。
「都会と違って空気が綺麗だなあ……」
それには俺も同感だが、シグレは二年前にもここへやってきているはずだ。
「こういうのはお決まりのセリフなんですよ」
「まあ、漫画とかじゃよくありそうだが」
現実にそういう発言をするのは中々ないんじゃないか、という気がする。
とりあえず駅を出ようかと口にしかけたところで、シグレくんが遠慮がちに咳をする。乾いた咳で、少し調子が悪そうに見えた。
「……大丈夫か?」
「ええ、体は元気なんですけど……」
「……逆じゃねえ?」
「気持ちは元気なんですけどっ」
ピンと体を張りながら、シグレくんは慌てて訂正する。その仕草は何となく小動物のようで、こんなことを言うと怒られるかもしれないが、やはり可愛らしいという言葉がしっくりくるのだった。
「……でも、ソウヘイさんを誘わなくて良かったんですかね?」
「頼りになるし、迷いはしたけどな。ここで情報を掴んでからでもいいんじゃないかってことで呼ばなかった。あいつの目的はあくまでも妹探しなわけだし」
シグレは俺と一蓮托生を決め込んでくれているが、ソウヘイは事情が違う。協力を頼めば来てくれそうだとは言え、彼の妹であるモエカちゃんに行き着くかは全くの不明なのだ。
せめてその目撃情報があれば誘っていたかもしれないけれど。
「――ったく、遠慮し過ぎだっての」
声は突然、背後から投げ掛けられた。
驚いて振り向くと、件の人物の姿がはっきりとそこにあって。
「ソウヘイ……」
「よ。……俺も俺で来ちまったぜ」
ソウヘイは相変わらず軽薄な笑みを浮かべ。
けれどもその眼には確かな意思を宿してここに立っているのだった。
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