幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

26.慰め

公開日時: 2021年5月10日(月) 20:18
文字数:1,303

「……これから、どうすっかな」


 外に出てすぐ、ソウヘイが溜め息交じりに呟く。


「ワケ分かんねえまま、一人ひとりやられていっちまってる。何にやられてるのかすら……」


 分からない。悪霊の呪いなのか、ヒトの悪意なのか。

 どういう方法で殺されているのか……何もかもが理解不能だ。

 考えるだけで、頭がどうにかなりそうで泣きたくなる。


「アヤちゃんは、以前この黒影館が霊に関する研究所で、実験体にされた人たちがいるんだって言ってた。そして、その人たちの魂が今もここに残っているんだと。その霊を払うことが、脱出の糸口かもしれないんだと……」

「実験、ですか。むしろテンマくんやアヤちゃん自身が、実験でもされてしまったような感じが……」

「……一応、聞いとくけど。根拠は?」

「いえ。二人の最期が普通じゃないから、としか」


 状況証拠というか、単なる印象でしかないわけだが、シグレくんの言うことも頷けはする。

 二人の死は、まるで体内に時限爆弾でも仕掛けられたかのような悲惨さなのだ。

 人体実験というワードが浮かんでも無理はない。


「どうなんだろうな。非現実的すぎて……簡単にゃ受け入れられねえや。アヤちゃんなら……迷わず肯定したんだろうかな」

「……かもね。あの子は大好きだったから……非現実が」


 ソウヘイの言葉に、ランが頷く。

 他ならぬミステリ研の部長として。部員であるアヤちゃんと関わってきたランは、彼女のことをよく分かっているのだろう。


「……探索、続けましょ。これ以上、誰かが犠牲になる前にここから出なきゃ」


 早口でそう言うや否や、ランはすたすたと歩いて行ってしまう。

 それがあまりにも一瞬のことだったので、俺は彼女の手を掴むこともできなかった。


「お、おい……」


 ランの突然の行動に、どう対処すればいいか分からず固まってしまう俺。

 そんな俺に、シグレくんは囁きかけるようにこう告げた。


「……ランさん、泣いてましたね」

「……あいつ……」


 あいつは。

 自分一人で、責任を背負いこんでいるのか。

 俺たちをこの館へ誘った張本人という事実に、彼女は苦しんで。

 二つの命が消えていった重みに、圧し潰されそうになっている……。


「……悪い、二人とも。ちょっと二人だけで探索を再開しててほしい」


 わざとらしく大きな溜息を吐いてから、俺はソウヘイたちに向き直る。


「実は、調べてほしいところがあってさ。アヤちゃんの部屋の、絵画なんだけど」

「絵画……?」

「ああ。ニガナって花の描かれた絵だ。その裏かどこかに、脱出の手掛かりがありそうなんだよ」

「……探索で何か掴んだんだな。それは了解したが、お前は?」

「俺は……アレを宥めてくるさ」


 面倒臭そうに言ったつもりなのだが、ソウヘイもシグレくんも見透かしたように笑って、


「……はは、素直じゃねえな。ま、行ってやった方がいい」

「ですね。しばらくは、ボクたちで調べてますから……レイジさんは、ランさんを」


 急に生暖かい目で見られてしまったわけだが、演技が下手な俺が悪いな。

 まあ、俺が適任だと送り出してくれるのなら、有難い。


「そっちは頼んだ」

「ああ。じゃあな」


 二人に感謝して、俺はランの後を追いかける。

 あの大馬鹿野郎に、きついお灸を据えてやらなくちゃいけない。

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