「……これから、どうすっかな」
外に出てすぐ、ソウヘイが溜め息交じりに呟く。
「ワケ分かんねえまま、一人ひとりやられていっちまってる。何にやられてるのかすら……」
分からない。悪霊の呪いなのか、ヒトの悪意なのか。
どういう方法で殺されているのか……何もかもが理解不能だ。
考えるだけで、頭がどうにかなりそうで泣きたくなる。
「アヤちゃんは、以前この黒影館が霊に関する研究所で、実験体にされた人たちがいるんだって言ってた。そして、その人たちの魂が今もここに残っているんだと。その霊を払うことが、脱出の糸口かもしれないんだと……」
「実験、ですか。むしろテンマくんやアヤちゃん自身が、実験でもされてしまったような感じが……」
「……一応、聞いとくけど。根拠は?」
「いえ。二人の最期が普通じゃないから、としか」
状況証拠というか、単なる印象でしかないわけだが、シグレくんの言うことも頷けはする。
二人の死は、まるで体内に時限爆弾でも仕掛けられたかのような悲惨さなのだ。
人体実験というワードが浮かんでも無理はない。
「どうなんだろうな。非現実的すぎて……簡単にゃ受け入れられねえや。アヤちゃんなら……迷わず肯定したんだろうかな」
「……かもね。あの子は大好きだったから……非現実が」
ソウヘイの言葉に、ランが頷く。
他ならぬミステリ研の部長として。部員であるアヤちゃんと関わってきたランは、彼女のことをよく分かっているのだろう。
「……探索、続けましょ。これ以上、誰かが犠牲になる前にここから出なきゃ」
早口でそう言うや否や、ランはすたすたと歩いて行ってしまう。
それがあまりにも一瞬のことだったので、俺は彼女の手を掴むこともできなかった。
「お、おい……」
ランの突然の行動に、どう対処すればいいか分からず固まってしまう俺。
そんな俺に、シグレくんは囁きかけるようにこう告げた。
「……ランさん、泣いてましたね」
「……あいつ……」
あいつは。
自分一人で、責任を背負いこんでいるのか。
俺たちをこの館へ誘った張本人という事実に、彼女は苦しんで。
二つの命が消えていった重みに、圧し潰されそうになっている……。
「……悪い、二人とも。ちょっと二人だけで探索を再開しててほしい」
わざとらしく大きな溜息を吐いてから、俺はソウヘイたちに向き直る。
「実は、調べてほしいところがあってさ。アヤちゃんの部屋の、絵画なんだけど」
「絵画……?」
「ああ。ニガナって花の描かれた絵だ。その裏かどこかに、脱出の手掛かりがありそうなんだよ」
「……探索で何か掴んだんだな。それは了解したが、お前は?」
「俺は……アレを宥めてくるさ」
面倒臭そうに言ったつもりなのだが、ソウヘイもシグレくんも見透かしたように笑って、
「……はは、素直じゃねえな。ま、行ってやった方がいい」
「ですね。しばらくは、ボクたちで調べてますから……レイジさんは、ランさんを」
急に生暖かい目で見られてしまったわけだが、演技が下手な俺が悪いな。
まあ、俺が適任だと送り出してくれるのなら、有難い。
「そっちは頼んだ」
「ああ。じゃあな」
二人に感謝して、俺はランの後を追いかける。
あの大馬鹿野郎に、きついお灸を据えてやらなくちゃいけない。
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