オレが出したものを手に取って、初めは不機嫌そうだった顔が徐々に変わっていく。
徐々に見開かれた目は、何度も瞬きをしてチケットを確認し、オレを二度見する。
そんなに何度も見られても……。
そのチケットは偽物とか別のチケットじゃあないですよ。
『えっと、あの……なにか?』
「い、いえ。しつれいしましたっ!? しょ、少々お待ちください」
受付嬢は一礼すると、カウンターの奥の方へと消えていった。
隣の受付嬢もオレの出したモノに驚き、やさぐれていた受付嬢の後を追う様にして、カウンターの奥に引っ込んでしまう。
「さて、ちょっと時間があるから、今の現状を簡単に説明しておくわね」
「現状? なんの現状?」
シュネーがころんと頭の上で寝転がりながら、エフケリアさんに聞き返す。
「四つの島については、それぞれ聞いたでしょう。その島のちょっとした現状ってやつよ」
「それって、町やら村を大きくって感じのか?」
「えぇ、それぞれに大きな町があるのよ――
火山や鉱山などが多い険しい土地。
まず、ここにあるのが【ヴァルマイン】って国よ。
ドワーフの作った山丸々一つに洞穴を開けて何層もの洞窟で出来ている変わった国ねぇ。
ここの連中は変人が多いわね。
ただ屈強な人が多く居るのよ、強敵との戦いを好んだり、誰よりも強い武具を作る事に精を出す者達が多くいる場所よ。
実際、少し山に入って行けばランクの高いモンスターがウジャウジャ居るわ。
ただ、家作りは下手ね、大体の人が山小屋や洞窟内に住んでるわ。
運河やジャングル、湿地帯が多い土地。
綺麗な街並みが特徴かしらね【ジャンシーズ】という水の都があるの。
ここの連中はクラフターよりね、美味しい食べ物やセンスの良いアクセサリーが数多くあるわよ。
効果の高いアクセサリーはもっぱらここで生まれるわね。
街並みは、そうねぇ~。ベネチアに近いかしらね。移動に小舟を良く使う所とかね。
深い森と荒野が広がり、魔力が多く特殊なモンスターが多く住む土地。
ここは【フォレストヒル】って場所なんでけど。
ちょっとここは面倒な連中の集まりね、森と荒野に分かれていて東西で毎日のように領地を求めて争っている場所ね、
荒野の方は機械を生み出そうと研究やら実験を繰り返しているのよ、ちょっと前に記者を作るのには成功したらしいけど、
まぁ、ロボットはいつ作れるのか分からないわね。
逆に森の方は魔法の研究を中心にやって居る感じ。
どっちも相いれない油に水って感じで中の悪さは、この世界で一番有名な場所よ。
荒野の町はヒルフォっていう、西部映画みたいな街並みね。
森の方はフォレルって世界樹って巨大な木に寄り添うように町が作られているわよ。
草原や山や川と豊かでも、モンスターが数多く住む土地。
ここは残念ながら国と呼べる大きな都は無いわね。
皆は【グランスコート】って呼んでるわ。
小さな町が点々とあるだけ、
このゲームのβテストや正規版が発売されて一週間ぐらいはここから始めようとホームを構えた人が多かったんだけど、ちょ~っと色々と問題ありな場所で、みんな挫折して止めてしまったわ」
「え? でも豊かな土地なんでしょう?」
シュネーがチョコンと顔を出して聞く。
「えぇ、豊かで良い土地よ、あそこで育つ作物はかなりのモノだったのよ」
思い出すように頬に手をあて腰をくねらせるエフケリアさんは、美味しかったわ~なんて頬を染めながら呟くように言った。
「いまは居ないのか? 一人ぐらいは……」
ティフォの問いに残念そうに首を振って答える。
「居ないわ。正直、初めは運営側のバグなんじゃあないかって皆が騒いだんだけれどね、運営からの返答は「コレは仕様です」だもの」
「バグってそこまで酷いのか?」
「ひどいって言うか、なんていうか、その名残でグランスコートに住むこの世界の人達は、私達の様な冒険者を毛嫌いしてるのよね~」
村を作ろうと集められた人達にとっては、たしかにたまったものじゃあないだろう。
信じて来たらほっぽりだされて、そのままそこに住まう羽目になったんだから。
でも、美味しい野菜か、……ちょっと食べてみたいかも。
他の場所じゃあ畑作りは大変そうだしな。
問題があるみたいだけど、作りてが問題なしって言ってるって事は…… 何か解決方法があるって事だよね。
そんな思考を巡らせていると、受付の人が誇りを頭から被って、さっきまで整えられた髪がちょっとボサボサになっていた。
「お、お待たせしてすいませんっ!? こ、こちらがいまお渡しできるマイホームの場所です」
ざっと見ると確かに、各地の至る場所が載っている。
パラパラ見ていって、ある一枚の場所に目が留まった。
『じゃあ、ここで』
「はい、かしこ……まり……まし、た」
「ちょっと、スノーちゃん? 私の話し聞いてたかしら?」
『ん? 聞いてたよ?』
オレは小首を傾げながら言う。
「スノー、なんだってこの場所を選ぶのさ」
シュネーも呆れながら言う。
『え? えっ? なにかダメ?』
「いや、だめじゃあねぇけどよ」
ティフォは乾いた笑いでオレを見る。
「ほ、本当にこちらで宜しいのですか?」
『うん、大丈夫です』
受付嬢の手に渡した場所の紙には【グランスコート】この地に置かれた最初の家。
そう、書かれている。
――大変です、母さん。
ただ、畑を作ろうとしただけなんですが、オレは今、モンスターに追われています。
無駄に可愛いスライムさんに、ウサギさんという雑魚モンスター。
オレは逃げながらテキスト画面に文字を打って、助けを呼ぶ。
だがしかし、そんなオレを微笑ましく見守っている、二人の役立たずがいます。
『ねぇ! ちょっと~~、助けてって言ってるじゃんか~っ!?』
「ひゃあ!? こっち来た。ボクじゃなくて狙うなら、そっちそっち、ひぃっ!?」
シュネーのヤツがオレを盾にしようと必死に逃げ回る。
『裏切者っ!? やっ!? 何とかしてよ、わっわわぁ、ふみゅぅ!!』
ちょっと口論をしていると、ひんやりと冷たくて弾力のある球が複数飛んでくる。
普段はゼリー状の手触りで、子供が遊ぶゴムボールみたいな弾力。
襲い掛かって来るときはテニスボールくらいの硬さで飛んでくる。
地味に痛い上に、数が多いからたちが悪い。
「ぎゃ~、痛い痛い」
マイホームの真後ろだというのに安全地帯がありません。
==ほんの数分前。
「ねぇ~、ほんと~にここから始めるの?」
目の前には小綺麗な一軒家と掘っ立て小屋が一つ。
それを見上げながらエフケリアさんが不安そうな声を上げる。
「無駄無駄、一度でも決めちまったらそうそう変えないから、コイツは―ー」
過去の事を思い出してか「あの時だって」とブツブツ小言を言い始めた。
こういう時の樹一ことティフォには触れず触らず無視が一番だ。
後ろの二人はほっといて、とりあえず家の中を確認しよう。
ドアノブに手を掛けると、光の粒がオレの手に巻き付いて緑色に光る。
すぐに光が収まるとガチャンと鍵が開く音がする。
家の中はモノ一つ無い広いスペースがあるだけ。
水は出る様で、流しと風呂場のシャワーは使えるようだ。
小さい部屋が二つ大きめの部屋が一つ、大きめなのはエフケリアさんに使ってもらおう。
どの部屋も机も何もないから、とりあえずはたきと掃き掃除をしよう。
家の中の倉庫に掃除用具があってよかった。
というか掃除してわかったが、ゲームだというのに無駄に凝っている。ちゃんと履けば埃や塵が出るのだから、これは定期的にゲームの中でも掃除が必要そうだ。
掃除が終わって家を出ようとした時だった。
コンコン――とドアをノックする音が響く。
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