「えっと、一つ質問いいですか」
ティフォが手をあげて声を上げる。
「なぁにティフォナスちゃん?」
「そういった情報はどこから? ゲーム外での情報交換はそうそう出来ないはずです」
「えぇ、知り合いじゃないとゲーム外では無理だけど、ゲーム内の公式掲示板や、え~っと、確か何処かに今月号があったはず」
ケイアさんがアイテムボックスを開いて何やら探している。
「あぁ、あったあった。こういった新聞を作るプレイヤー、あるいは情報屋っていう集団、ネトゲで言うならギルドってやつかしら? そういう連中が情報を売り買いしているわ」
「じゃあ次、ボクが質問です」
なんか授業をしているようで、ちょっと和むな~。
「冒険者が町を開拓すれば済むんじゃあないの?」
「冒険者になったらホームチケットは使えないの、それに町の開拓は必ずその街にマイホームを借りる、もしくは作るなどをして拠点としなければダメなのよ~。
そして、ファーマーはいまのところ、私の両手で数えられる人数しか居ないらしいわ」
『冒険者から一般人にはなれないの?』
「端的に言えば成れるわ。でもね村人との好感度は上がり辛いし、ホームチケットは無いのよね、それにファーマーの初期能力は一々覚えなくちゃならない手間があるのよ」
『初期能力?』
ステータス欄を見ても、どこにも能力があるとは書いていない。
「それは隠れ技能でね、シュネーちゃん、ティフォナスちゃんも説明書を開いてみて」
言われた通りに二人が本を取り出す、シュネーのはオレ達のよりも少し小さめ。
「そこにこの世界の逸話が載っている最後と最初のページ。シュネーちゃんとティフォナスちゃんは読めないんじゃないかしら?」
そういわれてる、二人は確かめる様に何度も見る。
「確かに読めねぇ」
「なに、このミミズがのたうち回ったような字は、棒人間みたいな絵もあるし」
自分も同じページを見てみるが、二人とは違い、普通に読める。
《この世界は二人の天神によって作られた、塔を作ると彼らは四枚の花に似た大地と四の大神を生み出し、十二の小神に世界を管理させることにしたのが起源だという》
それ以上先は敗れたページ感じになっていて読むことができない。
「えぇ~~っ!? なんでスノーは読めるのさ」
「さっきエフケリアさんが説明したろうが……」
「他にもファーマぁーには隠し技能があるんじゃないかって言われているわね。ちなみに技能の【言語解読】っていうのを覚えれば、この世界の本や文字が書けるようになるわ」
「ったく、また。とんでもないもん引いたな、お前は」
『ごめん、説明を聞いてもいまいちピンと来ない』
「ボクも、スノーがレアな存在だってのは分かったけど」
希少なモノを欲しがるというのは理解できる。
こういうゲームをした事のないオレには理解しやすい比較達翔がパッと思い浮かばない。
ただ漠然と、本当に何となくてティフォやエフケイアさんの言っていることを理解している程度の認識でしかない。
「お前、ゲームやらんも――」
くぅーっと小さくお腹の音が、ティフォの言葉を止めた。
皆の視線がオレの一点に集中する。
………………なにも、皆に聞こえる大きさで鳴らなくても。
徐々に顔が熱くなって、すぐにボンッと火が上がる様な熱さに変わる。
なんだ、この気恥ずかしさは、顔が熱いし、なんか皆の顔をまともに見れない。
目の前に出ている説明書でゆっくりと顔を隠す。
「あら、けっこう話し込んじゃったから仕方ないわよ。此処は私が奢るから好きなモノを食べなさいな、お友達になった記念にね★」
そういってエフケリアさんは、近くのウエイターさんを呼んだ。
「覚えておきなさい、この世界で空腹になると体力・精神力・気力は半分以下でそれ以上は回復しないし、パラメータも半減して状態異常になったりするからね」
そういう事は、オレのお腹が鳴る前に言ってほしかった。
「さてと、腹ごしらえも澄んだし、行きましょう。まずは……管理塔かしらね」
『管理塔?』
「えぇ、家を買ったり借りたり、お店を出す時なんかもそこに行けばいいわ」
そう言いながら「あそこよ」と、ここから少しだけ見える塔を指差す。
塔を核む様にある中央に近い中間のぐらいの大きさだろう。
中央の塔に一番近い塔だということは、見てわかる。
「それじゃ、とっとと行って早く外に出てみようぜ」
「ねぇ、ティフォナ~。その姿と口調があってないよ~」
「五月蠅いぞ、ほらほら、グズグズしない」
半場強制的に椅子から降ろされて、手を引かれる。
ただ、それにちょっと待ったをかけたのがエフケリアさん。
「ねぇえ、ちょ~っときになったんだけど。ティフォナスちゃんは分かるんだけど……スノーちゃんって今までスカートとかって履いた事が無いのかしら?」
しまったな、今まで樹一の事とか琥珀やらこのゲームの世界観で忘れられていたのに。
とりあえず、エフケリアさんの言葉に頷く。
「そう……このゲームって無駄に作り込まれているから。その、見えちゃうわよ」
最後の言葉はオレ達の耳元に近づき、小声で言ってくれる。
見える、という言葉が何を差して言っているのかは分かる。
さっとスカートに手を押さえてしまう。
「あらあわ、まぁ~。二人そろってカワゆい反応ね~」
二人というと、つまり……。
ティフォ……いや、この場合は樹一と呼ぼう。
樹一も顔を真っ赤にしてオレ同様にスカートを手で押さえて俯いている。
「ま、服装に関してはいまは手持ちがないし、次に会った時にでも見繕ってあげるから、今は注意して、大股で歩かないように、お淑やかに歩きなさいね」
それから、管理塔までの道のりは長かった。
エフケリアさんに歩き方を注意される。
風でスカートが揺れ足を撫でる感覚に気恥ずかしさが一々込み上げてくるという地獄のような時だった。
管理塔の中に入ってすぐの広間はフリースペースとなっていて、色んな人が何やら呼びかけをしていたり。
風呂敷を広げて露店を開いていたりする。
中には看板を片手に寝ている人なんて猛者もいた。
……取られたりしないのだろうか。
そんな人達を横目にしながら、壁沿いを添うような螺旋階段を上がっていくと、二階にはまるで銀行の様なカウンターに受付嬢の人達がズラッと並んでいる。
中央には待っている時に寛げるよう、机やら椅子がいくつか並んでいる。
「なぁ、エフケリアさん。あの壁際のデカいの二つ、アレなんだ?」
ティフォが指さした場所には、黒板の様なボードが二つ並んでいる。
一つは緑色の紙が数多く張られていて、もう一つの方には赤い髪が点々と張ってある。
「あぁ、アレはクエストボードよ。緑色はこの世界の住人達から、この城下に住む人々から近くの村々から私達に向けられた、お仕事やらお願いやら頼み事の類ね。赤いのはプレイヤーからの依頼事を示すものよ、主に私の様なクラフターが素材を求める感じね。
紙に書かれている英数は難易度と参加上限人数。SSが一番難しいクエストで、底辺がFランクってところかしら」
なんか凶悪っぽい名前のモンスター討伐から希少な動物? の捕獲とあるのに、下のランクは城下のごみ拾いから庭の手入れと、本当に幅広い依頼があるようだ。
「そんな事よりほらほら、こっちよ」
背中を押され、橋の方のカウンターへ向かう。
「こちらはホーム管理の受付ですよ~、クエストやら依頼事は向こ~うで~す」
やさぐれた様子でオレ達にチラ見した後に、投げやりに言う。
すぐ隣に居る受付嬢が、ワザと聞こえるほどの大きなため息を吐いてみるも、目の間に居る受付の子は全く気にする様子は無い。
オレは不安に刈られながらも、だいじなモノのアイテム欄からマイホームチケットを取り出して、やさぐれた受付嬢に見せる様にして、そっと机に置く。
「はぁ、なに……へ?」
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