ズィミウルギア

風月泉乃
風月泉乃

第一章:開拓の準備にイベント大騒動

【オンライン】1話

公開日時: 2020年11月23日(月) 08:00
文字数:2,410


「ふむ、大体の事情は分かったのだが…………、メリットとデメリットの釣り合いが取れてない気がするですな。分かっていない部分がメリットなのは分かるとしても」


「調べる方法は追々だろうな」

「して……ティフォナ氏よ。アレは何ですかな?」

「何って? 見て分かれよ。蜂の巣だろう」


「はははは、バカかねティフォナ氏。蜂のモンスターは確かに確認されているが、ビーというモンスターの巣は一つとして発見されていないんだぞ。巣の欠片や蜜などは蜂のモンスターが落とすが、あんな非常識なモノを見たという報告は一切上がってないんだな」


「アレを見るとビックリするわよね~」


 現実での蜂は大きいのでギターくらいだろうが、マイホームに出来たハチの巣なんてもう殆ど家を飲み込んでいるモノになっている。

 まぁ、ゲームの蜂は人間の子供くらいの大きさだし、あんな大きな巣になるのは間違ってはいないんだろうけどね。

 敵対関係に無いからか、警戒中の蜂が自分達の周りを飛ぶだけだ。


「あら? よく見るとこの子達はもこもこなのね」


『戦闘に特化したのは、現実に居る感じのタイプ。警備や巣を育てたりマモルのは可愛い感じのタイプ。それで、女王蜂はもこもこドレスを着こんだぬいぐるみ』


「めっちゃ可愛くデフォルメされてるヤツだね」


 遠くかこちらを見つけて、周りにいるオレ達を無視するようにしてティフォの周りを飛び回っている。


 自分の可愛らしさを振りまく様に、自身に興味を持って貰おうと媚びうるぶりっ子のごとくアピールが凄い。近くにいたはずのガウが弾き飛ばされて荷馬車の方へと転がされているほどだよ。ケリアさんはそそくさと荷馬車に避難してる。


「あはは、人懐っこいなコイツ」

 女王蜂の羽音がすっごい優しく甘える感じに聞こえる。


 おい、気付いてやれよ。

 お前の初めての相棒が嫉妬全開で殺気立ってきてるから。段々と毛が鋭く尖ってるからさ。ねぇ、お願い気付いてよ。


「修羅場だね」

『人の懐に避難しないでよシュネー⁉』

「無理無理、だって怖いし」


『ねぇ、手綱を持って逃げられないのに、なんで誰も助けてくれないの⁉』


「ふっ、無理よ。愛の戦場を割って通るなんて鬼にも出来やしないわよ」

「拙者。人の恋路には踏み込まぬ主義でしてな」


 何か過去にあったのか、ガウの顔が青くなってガクブルと震えだしている。


『ねぇ、お馬さん。助けて』


 荷馬車を引く馬がこちらを見て、仕方ないなぁという感じで鳴き声をあげる。


 二頭が一瞬だけ合わせたかのように速度を変化させ、車輪を道の凸凹にワザと落として引っ張りあげるというテクニックで、オレの体が宙に浮いて馬に跨る感じになった。


『えへへ~、ありがとうね』

「サンキューだよお馬さん」


 鼻を誇らしく鳴らしながら、気にすんなという感じでオレ達を載せて前へ進む。


「なっ! 何故っ⁉」


 その一部始終を後ろから見ていたガウが、驚いた様子でオレ達を凝視していた。


『ん? どうしたの?』


「この馬はスノー姫の獣なのかな!」

 乗り出したガウを慌てて支えるケリアさん。


「何言ってるのよ、見れば分るでしょう? 唯の借りた荷馬車と馬よ」

「まぁ、確かにスノーには良く懐いてるとは思うが。誰だって借りられる馬だろう?」


 周りの様子からようやく気付いたティフォは、スパイクを宥めながらもちゃっかり女王蜂を可愛がっている。


 膝上を独占したスパイクだが、女王蜂はティフォの肩に乗って顔を擦り付ける様にして下に居るスパイクを煽っている様に見えるが……気のせいだろう。


「違うでござるよ、確かに普段は大人しく荷馬車を引くだけなら問題は無いでござるが、人が自身に乗られるのは極端に嫌うのでござる。それに、大人しいだけで実際には言う事は聞いてはくれないはずで」


「あら? でも初めっからスノーに対しては良く言う事を聞いていたぞ?」


「拙者も試したが、酷い目にあったのであるぞ」


 ガウは調子にのって馬に乗ろうとしたらしいが、体力を半分削られたらしい。無理やり言う事を聞かせようとした者達の末路も大体が似通ったもので、酷いのになると装備を破壊されたり。ある者は死に戻りされるまで踏みつぶされた者もいる様だ。


『いい子達だよ?』

「だからあ、それが不思議なんでござるがな⁉」

「まぁまぁ、そろそろ着くからそれからで――」


 あれ? そういえば蜂の女王が此処に居るってことは、ウサギさん達はどうした。


「ねぇねぇ、スパ君と女王蜂があんな感じでしょう……あれにウサギが加わるんだよね」


 シュネーも気付いたか。


「そうね、どうなるのかしらね」


 ケリアも日汗を掻きながら、横目にティフォを見るが視線を合わせようとはしなかった。


 オレは始めっから無視だ。後ろ何て振り向かない。


 きっと今のティフォは皆を交互に見ながら、誰も視線を合わせる事無く焦っている。


「おいガウ」


「拙者、いま自分の装備の確認で忙しいんだな」


「てめっ! 助けろよ」


 気付くのが遅かったねティフォ。もう着いちゃったよ。


 ガウに伸ばした手は虚しく空振り、何も捕まっていなかったティフォだけが急停車した勢いで地面に投げ出されていく。


 地面に顔面から埋もれる……事はなかったが、ウサギさん達に連れ去られていった。


「た、助けてマジでっ⁉」


『ティフォ――』

「な、なんだ、助けてくれる――」


 オレが助けてくれるとでも思ったのか、キラキラした視線を向けてくるが、残念ながらその数と猛獣達には敵わないのだ。


『友好の証に、彼を差し出しますので皆さんのリーダーと住み分けに付いてのお話など』


「清々しい程に売ったね」

「まぁ、悪い選択しじゃあないわよね」

「物事が進むには、きっと犠牲も必要なのでござるな」


 近くに居た女王蜂には木から取れた蜜やら、道中にあった花を差し出し。

 ウサギさん達には、道中で見つけたタネやら木々を数点を献上する。


「裏切り者どもが~~~~」


 とりあえず、モンスター達は目の前に献上したアイテムを持ち帰っていく。

 リーダーらしきウサギさんと女王蜂がその場に留まってくれた。


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