ズィミウルギア

風月泉乃
風月泉乃

【オンライン】14話

公開日時: 2020年10月20日(火) 08:00
文字数:4,030

 



「他の場所はどうだったのさ? ケリアさんが開拓を手伝った場所とかさ」


「他の場所ではそんな事は無かったのよ~、畑を作ればそこでは敵は湧かない、ホームから一定距離にはモンスターが湧くことはないのよ。普通は、ね」

 

 ちなみに、この辺りの草原に出現するモンスターは大体把握した。

 ラビットの群れ、鶏っぽいモンスターのコッコというらしい。まぁ、まんま鶏だ。

 あとは定番のスライムと、ちょっと奥地に行けば羊と牛のモンスターがいる。

 オオカミの群れという危なっかしいアクティブモンスターと共に。

 

「むしろ、ホームの近くにいっぱいいる感じだもんね」

 

 シュネーがウサギを眺めながら、ため息交じりに言う。

 むしろホームの近くの方がモンスターが多い気がする。

 それと、やっぱり何処の家の周りにも離れた位置にもまともな畑が無い。

 田畑の後は多く見てきたが、どの畑にも何かが育っている様子が皆無だ。

 誰かが作ろうとした畑にはモンスターが湧き、あっちこっちを踏み荒らしている。

 あんな事をやられちゃ、そりゃあやる気も削がれていく。

 

『……シュネー、ちょっと放して』

「え、あ~うん」

 

 名残惜しそうにオレのことを開放してくれた。

 ゆっくりと真上に向かって飛び上がって、辺りを一望する。

 気持ちよく風に乗っているようで、飛んでいるというのは不思議な感覚だった。

 

「こら~、危ないから下りておいでよ~」

 

 結構に高い位置まできて下を向くと、シュネーがぴょんぴょん飛び跳ねていて、オレを心配そうに見ている。

 改めて家の位置から、モンスター分布の様子を窺う。

 木があまりないこともあって一面を確認しやすい。

 上から見下ろしてみると、白いのが鶏、灰色がウサギ、青がスライムと分かる。

 思った通り、やはりホームに近い場所にモンスターが多く集まっている。

 というか、モンスターがグループを作ってホームの周りに居る。

 それぞれ種族ごとに一グループずつだが、固まりで纏まって居るのが分かる。

 この事を報告するために、シュネーの胸元まで直ぐに戻る。

 

「もう、スノーの甘えんぼさん」

 

 シュネーは声を出さずに薄笑いを浮かべて、オレのことを見ている。

 

『なにいってるの?』

「だって、態々ボクに抱かれに来るなんてさ」

 

 またギュッと優しく、けどしっかりと抱きしめられた。

 

『ち、違う。シュネーが名残惜しそうにしてたから』

「ん~、そういう事にしといて上げよう」

 

 なにがそういう事にだよ、名残惜しそうにしていたのは事実じゃないかよ。

 

 ――まぁ、落ち着くっていうか、安心できるけど。

 

 シュネーのことを思っての好意なのに、まったくもって、侵害だ。

 

『別に良いんだよ、離れて飛んでても』

「もう拗ねない拗ねない」

『拗ねてない!』

「じゃあ、離れる?」

 

 そう言われて、なんかムカッとするも、抱きしめられた腕が弱められていくと、自分でも分かる程に、チラチラとシュネーの事をチラ見してしまう。

 

『別に、このままで良いって言ってる』

「もう、可愛いんだから」

 

 ギュッと抱かれると、安心して体を委ねてしまう。

 その事に安心した自分も、それを見てニヤニヤ顔をシュネーにも、ちょっと悔しく思う。

 

「それで、何かわかりそうか?」

 

『とりあえず、一回ホームに戻ろう、そこでオレの考えと上から見た感じの情報の整理をしてから、次に実証研究? ってやつかな』

 

「良いわね~、もうワクワクしてきちゃうわ」

 

 

 ホームに戻りながら、軽く見て感じた事を話した。

 

『普通のモンスターはホームに湧いてないと、オレは思う』

「ウサギはこのフィールド内での普通モンスターだろ?」


『ん~、オレが感じたのは、ワザとホームにモンスターを沸かす? 感じで、周りのモンスターを集めてるかなって思ったの』

 

「集める? なんで?」


 オレを抱いているシュネーが首を傾げながら聞く。

 

『や、知らないけど……ホーム周りのモンスターが極端に少ない気がするし』

 

 極端に少ないというよりも、この家周辺のウサギに関しては編隊を組んで統率されているイメージの方が強い。とくに、オレを足蹴にしたようなあの生意気なウサギを思い出す。

 

「そういえば、スノーちゃん達に対してだけリンクして襲ってたわね」

 エフケリアさんが思い出したように言う。

 

 ――リンク? ってなんだっけ?

 

「リンクってのは一匹のモンスターを攻撃すると、近くにいる同種モンスターも一緒になって襲ってくる事だ、まぁゲームの用語だな」

 

 オレの心でも読んだかのようにティフォが説明をしてくれる。

 

『顔に出てた?』

「顔というより、仕草だな」

 

 にかっと笑うティフォを、何故かシュネーが睨んだ表情で見ている。

 

「あの、なぜに睨まれているのかな、俺は?」

 

 ちらっとティフォが助けを求めるようにオレに視線を移す。

 いや、オレに聞かれても困る。

 小さく首を振ってオレも知らないと、伝える。

 

「いまだけ、いまだけ……絶対に追い越す」

 ブツブツを意味不明な言葉を呟くシュネーにどう声を掛ければ良いか分からず。

 とりあえず、この雰囲気を何とかするために話を進める。

 

 エフケリアさんだけが、この雰囲気を楽しそうに眺めている。

 

「でぇ、どういった事を確かめていくのかしら?」

『まず気になったのは―ー』

 

 シュネーとオレのパラメーターは違うけど、その他の能力は同じだ。

 高く飛び上がって上から見下ろしたとき、不自然にモンスターが移動していたのが見えた。

 離れた位置に居たスライムやウサギが、逃げる様にシュネーから離れていった。

 多分だが、俺達の【騎獣の心】が影響しているんじゃないかって思った。


 これは案の定、ホームから離れた位置の小型モンスターは一定距離、近づいてこない。


 ただし、一定範囲内に入ったモンスターはその場からあまり動かず、こちらを監視するよう移動して去っていく。


 その過程で分かったことだが、スライムは《魔力・振動・視覚》の感知能力だということ。

 

 ――…………スライムの目ってどこだろう。

 

 プルプルでゼリーの塊にしか見えないのだが、核となるモノがあるらしいのだけ。

 そこが視覚の役割を持っている、ただ外から見つめているだけでは見えないらしい。

 

 ウサギは《気配・聴覚・視覚》で反応する。

 

 肝心のホームのウサギだが、オレ達が離れた位置からゆっくり近付いても、警戒した様子もなく普通にうろついているだけだ。

 

 いくら大声を出そうと、こっちを見ようとも変わった様子がない。

 

 唯一、ちょっと変わった反応をした一グループがいた。

 これはオレやシュネーに対してではなく、ティフォに対して変わった反応をした。

 ホームに近づいて行くと、すり寄っていくのだ。餌を強請るペットの様に。

 そして、オレとシュネーには何故か……けんか腰だ。

 帰ってくると、何故か待っていましたと言わんばかりに、玄関前で陣取っている。

 もちろん、あの生意気なウサギは腕組みをして先頭で偉そうに立っている。

 

「ザ・リベンジだよ、ウサチャンズ」

『いざ、勝負』

 

 シュネーは巨大ニンジンを取り出し、オレは普通サイズを掲げて飛び出す。

 数では向こうが圧倒的に有利。

 言うまでもなく、オレ達に圧倒できる力は無い。

 数分も経たずに敗北し、こちらのニンジンを取られた。

 これは毎回というか、もう成り行き任せにやっている。

 

「ねぇ、なんならアタシが倒しても良いのよ?」

 

 HPが1の状態では動けず、頭の上から声がする方にチャットを打ち込む。

 シュネーはもう仰向けになって、寝息を立てて寝ている。

 

『ケリアさんは手出ししないでくださいね』

「でも~」

『オレはこいつらと仲良くなってみたいんです』

「仲良くって、テイマーじゃなきゃ使役できないのよ?」

『ケリアさんが言っている事の意味は良く分からないんですけど……試したんですか?』

「良く分からないって、ゲームのじょうしっ――」

 

 急にケリアさんは言葉が詰まったようで、最後まで言わずに終わってしまった。

 いまの状態だとケリアさんの表情なんて見えない。

 どうしたのかは分からないけど、オレはとりあえず言いたい言葉をチャットに打ち込んでいく。

 

『使役ってことは相手に何かを《させる》ってことですよね、別に命令とか主従関係で縛りたいわけじゃあないんですけど。オレはあいつ等の主人じゃなくて友達になりたいって、だけなんですけど。できないんですか?』

 

 しばらく、ケリアさんからの返答がない。

 

「それ、は……分からない、わね」

 

 どことなく震えたようで、やっと絞り出した感じの声だった。

 

『ケリアさん? どうしたんですか?』

「なんでもないわ」

 

 瀕死のボロボロ状態から少しだけ回復して、やっとのことで起き上がる。

 

「スノー、作戦考えよ、作戦っ、このままじゃ勝てないよ~」

『そうだね、なにか考えないと』


 ティフォは相変わらず、オレ達から奪われたニンジンを切り分けて、ウサギ達に丁寧に配っている。

 ヤツの周りはモフモフワールドが出来ていた。

 

「ちょっと、城下に行ってくるわ、何か欲しいモノがあったら買ってきてあげるわよ」

「とくには無いけど……ニンジンを追加でっ!」

 そんなお父さんの飲み友達が来たときの、酔ったオジサン風に言わんでも。

 

『シュネー、まだいっぱいあるでしょう。オレは特にないのですね』

 

 やはり気のせいだったのか、さっきの声音よりも高い声で元気そうだった。

 

「買い物なら、ちょっと俺も付き合いますよ」

「え、いやでも、悪いわよ」

「そんな気にしないで――」

 

 餌を分け終えて、ケリアさんに近づいて何やら、急に聞こえない程の会話をしている。

 

「え~、一緒に作戦考えてよ~」

「そういうのはスノーが一人居れば十分だろう」

「スノーはゲーム初心者なんだよ~、それにボクも~」

「しばらく二人っきりになれるんだぞ?」

 

 数秒の沈黙の後、

 

「行ってらっしゃい」

 

『……シュネーはいったい何がしたいのさ』

「気にしない、気にしない」

 急にオレを抱きしめて、ホームへと向かい始めた。

 

『ちょっと!?』

「さ、次こそはあいつ等をギャフンと言わそうね」

『ねぇ、なんかシュネーが怖いんだけど、助けてよっ!』

 

「すぐもどって来るって」

 

 ギ~っと重い音が静かな部屋に響き、重そうな音と共に閉まる。

 



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