「さぁ~て、この勝負はガブさんの勝利ね」
木漏れ日の揺れる日差しを眩しそうに、ただ、空を眺めているティフォは大の字になって盛大に寝っ転がっている。
「ふふ、ゲームでは負けないんだな」
さっきの雰囲気とはガラリと変わり、明るく拳を突き上げて勝利のポーズを決めている。
その様子に少しイラッとしている様子のティフォが居る。
ちょっとそれが面白くって、思わずクスクスと笑ってしまう。
「すまんですな、レディー達。貴方様にこういった所を見せるべきでは無かったのでしょうが、何しろ今まで逃げに逃げてきた奴なので、捕まえるのに必死だったのですよ」
見たこともない決め顔をしながら、オレに向かって外国の紳士がする様なお辞儀をしてくれる、丁寧な綺麗なお辞儀だった。
『いや、何か理由があったんでしょう』
一瞬、オレがチャットで返答すると首を傾げながらも、あまり気にしない様子で会話を続けてくれる。
「えぇ、まぁ……ご迷惑を掛け、それだけでなく助けて貰って居ながら私情に巻き込み申し訳ありませんでした。何かお手伝い出来れば遠慮なく言ってください」
跪いて騎士がプロポーズでもするかの如く、オレに向かって手を差し出してくる。
「調子に乗るな」
ティフォが起き上がって、ガブの頭を殴る。
その拳を彼は嬉しそうに笑いながらまともに受けていた。
「いや~、コレですな~」
待ってましたという感じで、笑いながら殴られた箇所を撫でて立ち上がる。
「想像していたよりも、ティフォ氏が今まで通りで良かったんだな」
そう言われたティフォは顔を真っ赤にして。
たじろぎながら赤に染まった顔を隠すようにガブに背を向ける。
「ったく、変わってないね」
「ははは、変わらぬよ。この性格だけは変わらないさ」
ガブが空を見上げて、少し寂しそうに言うのがちょっと胸に痛かった。
「しかし、レディー……そちらの妖精はプレイヤーであろう? 初めて見るのだけど」
『えぇっと、この子は』
「二人でプレイ出来るっていうテスターも兼ねてプレイヤーだよ、ボクはシュネー」
チラッとオレを見て、自己紹介をしろという念を送られてくる。
『オレはスノーです、よろしく』
チャットでの会話の事を聞かずに何か頷きながら、ニコッと微笑んでくれる。
「改めて、トラン・ガウガブ。このティフォナスとはリア友なのですよ。以後、お見知りおきを、よろしくお願いしますなんだな」
スッと自然に手を出されて思わず握手をしてしまう。
シュネーにも丁重に指先を出して、よろしくと言いながら差し出し握手を交わす。
「手伝ってもらっちゃって悪いわね」
「いやなに、自分もこの辺の木材はクエストで必要でしてな。レディ達の手伝いとあれば、男として手伝わない訳にはいかないんだな」
ガブは切り倒した原木をアイテム化せず、丸太のままで馬車まで運んでいる。
「面倒じゃないの? 一々さ丸太のままで運ぶのは」
ガブの往復を何度か見て聞かずにはいられなかったシュネーが尋ねる。
「確かに非効率ではあるんだな、だけどこういう行動から基礎値の底上げやら、強化が出来るのが醍醐味でもあるんだぞ、これが。インベントリに入れてしまうと鍛練値、基礎能力ポイントが上がらないんだ、戦闘における体力、筋力、脚力とこの丸太運びだけで上げる事ができるんだな」
キラキラした笑顔で語りながら、颯爽と往復している姿は何ともシュールだ。
「現実なら、アレだけやってたら痩せるのにな……」
ティフォが物凄く残念そうな目でガブを見て言う。
「ふ、現実でこんな無駄な事に費やす時間は無いんだな」
斜め四十五度、丸太を担ぎながら時間的に影がカッコよく、ガブをカッコ良く飾っているのだが、言っている事が凄くカッコ悪い。
『ねぇ、こんだけ切っちゃって大丈夫なの?』
色々とリアルに作られているなら、木を伐採し過ぎるのは危険なのではないだろうか。
「あら大丈夫よ? 二、三日くらいで新しく木が生えてくるから」
「我も見た事は無いが、情報ではトレントが木を生やしまくっているとのことだそうだ」
「だから中心都市のお国様から定期的に伐採依頼が出回るのよね~、トレント族は私も見たことないのよね、木に化けてるのかしら?」
ケリアもガブも周りの木を軽く叩いてみるが、何の反応もない。
「まぁ、定期的にここには来ることになるんだから、いつかは会えるんじゃないか?」
ティフォが伸びをして、最後の木を伐り終えた。
いつの間にか名前が表示されているハリネズミこと【スパイク】…………。
可愛らしく一生懸命に飛び散った小枝を加えて、ガブと共に馬車まで運んでいる。
そんな姿に癒されながら見ているっと、チラッと横目でティフォを見やる。
「な、なんだよ」
『もっと可愛い名前が良い』
「ネーミングセンスは0点だね」
オレもシュネーと一緒にジト目をティフォに向ける。
「カッコイイだろうが」
『スパイクは無いよ』
「無いね、可愛くないもん」
「可愛くなくて良いんだよ、カッコ良くしたいの、俺は」
『だって雌だよ? 可愛そう』
「女の子にスパイクってつける? 付けないでしょう」
「え? アレって雌なの?」
オレとシュネーの言葉にティフォの動きが止まった。
『ちゃんとステータスを見てみなよ、種族の下の方に性別が書いてあるから』
さすが、物を買った時に説明書を読まないタイプだな。
慌てて確認するティフォの手がプルプルと震えている。
「本当に書いてある」
大きくため息を吐いて、あきれ顔でオレとシュネーは同時にティフォを責める。
『普通、性別って確認するよね』
「名前を付けるのに性別は確認するでしょう」
何かが胸にでも刺さったようなアクションをして、ゆっくりと両膝をついて地面に突っ伏していく。
スローモーションを見ている様でちょっと面白い。
「ちなみに、一度名前を付けると変更は不可能なんだな。この世界のどっかに居ると噂がある獣使いの【育てファーム】って人とフレンドにならない限り」
「あぁ、NPCともフレンドになれるのよ。よっぽど仲良くならないと貰えないのよね」
「ち、ちなみに町人と仲良くなれるのに、どれくらい?」
震えた微かな声で、ケリアとガブにティフォがすがる様に尋ねた。
「唯の町人、通行人みたいな人ならクエストのBランクくらいかしら?」
「重役やストーリーなどに絡むキャラ、何かしらのキーキャラクターならSランクのクエスト内用のモノと相違はないと思うな」
あぁ、更にティフォが地面に沈み込んでいくよに落ち込んでいく。
それを可愛らしくスパイクが慰めている。
頬をペロペロ舐めたり、前足で頭をポフポフしたりしている。
……可愛い、羨ましい、良いなぁ~すっごく良いなぁ~。
ここで近づいてしまうと、何故か威嚇されるんだよな。
「何故、スノー嬢とシュネー嬢は甘いモノでも我慢する娘子みたいに、ティフォナス氏を怨みそうな目で見ているんだな?」
「はぁ、帰りながら話すわよ。ほら、帰るわよ貴方達」
楽しそうに苦笑いを浮かべながら、ケリアさんが誘導してくれた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!