爺ちゃんがギュッとオレを膝上に抱っこして、動かない。
「お~い、いい加減に放してやってくれよ」
「むぅ、もう少し良いではないか」
「良かねぇよ。まだ色々と行きたい場所があんだから」
「お前もどうじゃ? ユキの抱き心地は最高だぞ~」
樹一は一瞬だけオレを見て、目が合ったのを気にしてか慌てて顔を背けて咳払いを一回。
「お前も大人しく座ってんじゃねぇ」
今度はちょこんと座っているオレが標的にされた。
「んっ、ふぁ~」
思わず出た欠伸、大きく口を開いて涙を手で擦ろうとするが、パッと腕を掴まれてお母さんに止められてしまった。
「こ~ら、目をこすっちゃダメよ」
ハンカチを取り出して優しく目元を拭いてくれる。
秋堂家の縁側でかれこれ三十分は繰り広げられているだろうか、もしかしたら一時間くらいは軽く過ぎているのかもしれない。
「ねぇねぇ、兄ぃ? なんで翡翠ちゃんにアレの使い方を教えないの?」
小鳥ちゃんがオレの腕時計……じゃなくてリルギアを指さしている。
『コレ? 使い方は習ったよ』
確かに全部の機能を使いこなせている訳ではないけど。
「あぁ~、いやそのなぁ」
「どうしたの? 今から教えておいても良いんじゃないの?」
「いや、あまり翡翠に教えてもあまり意味がないんだよなぁ~」
「へ? なんでよ」
「翡翠はファーマ―だから、創れる技や魔法って今のところ無いと思うぞ」
「えぇっ⁉ なにそれ」
――二人だけに解る会話は止めてほしいな、ちょっと寂しいぞ。
いや、分かっていないのはオレだけで、桜花ちゃんも葉月ちゃんも会話の内容は分かっている感じの反応をしているようだった。
彼女たちは目を大きく開いてオレをガン見している。
『オレにも分かる説明を求む』
スケッチブックに大きく字を書いて、爺ちゃんの膝上から飛び降り高くに掲げて見せる。
離れた後に爺ちゃんをチラッと見たら、やっぱり少し寂しそうにオレを見てくる。
「俺達のやっているゲームはな、自分で考えた技や魔法を創る事が出来るんだよ」
「すみませんが、スケッチブックを使っても良い?」
オレは言われるままにスケッチブックを差し出して、手でOKマークを作った。
鉛筆でササッとやけにコミカルなキャラを描いて説明してくれる。
「「もちろん、強すぎるモノは幾らか修正や作れなかったします」」
ゲーム内のAIはもちろん、ゲームマスターや運営の人達と、吟味されて創られる。
「「作り方は色々で、絵で描く人もいれば、文章で作る人も居ます」」
ゲーム内でも創る事は可能で、魔法研究所という所に行けば魔法を、技能系は総合訓練所という場所に行けば良い。
もちろん、創るには色々なリスクや必要なアイテムだったり。
リルギアを使って必要な素材となる写真だったり動画を撮ったりしなくてはならない。
その他にも色々なポイントやスィア(ゲーム内のお金)が必要とされる。
「ちなみに創られた技や技能を【ギア】、魔法は【スフィア】と言うぞ」
「創られた技や魔法、これらは進化させることも可能?」
そう言い終えると同時に、もう絵が出来上がっている。
「進化には個人個人の考えや使い方で変わったりしますよ」
葉月ちゃんの絵には分かりやすく、火の玉の初期魔法を野球の様に投げて爆発させる人から矢印が二つに分かれ。
弓矢の様に変化していたり、ブレスの様に進化していたりした。
「ファーマ―は戦闘系スキルをほぼ取得が出来ないから、人気がないの」
「ファーマ―の人気は今や底辺」
「まぁ、ゲーム内でも説明したが、ファーマ―にしか出来ない事が多くあるんだがな」
「簡単に言っちまうと、創れる技や魔法が無いってことなんだ。基礎スキルが無いと、そもそも魔法も技も使えないからな」
『ふ~ん、でもファーマ―にしか出来ない事も多いんでしょう?』
「そうだが…… 現実(リアル)でするような事が多いからな、それの影響もあるんだろう」
「アレはリアルに作りすぎた、それも原因」
「そうだね、箱庭要素とは言い難いね」
ゲームとは言え、好き好んで面倒な農業やら人間関係の整理なんてしたくない、そういうことだろう。
樹一と双子ちゃんが色々と掻い摘んで説明してくれたが、箱庭的な要素を含むシミュレーションゲームは色々な事が簡単に短縮されているから楽しいのであって、それらを現実的に再現してしまっては誰もが嫌になるという。
周りに住まう人達の人間関係から隣国との関係に、冒険者と呼ばれるプレイヤー達との関係も絡んできたりするという。
一つ一つを言われてみて、初めて理解出来た気がする。
――確かに、それは面倒そう。
「初めはそれなりに人数も居たんだがな、そういうのが嫌になって辞めた人が多い。戦う事にも向いてない、面倒な事柄は多いし、管理しなきゃならない問題なんて山積みだ」
『そこまで色々と分かってるなら修正とかは?』
色んな人からの苦情なんて沢山届いているはずだ。
「大本を変える気は無いの」
「でも、ファーマ―には特典や、隠し要素を増やしたっていう告知をしたり、色々な修正自体はされたの。ファーマ―を育てていけば、色々な人に必要とされる要素だってある」
「それでも、人は戻ってきてないのが現状だけどな」
『上手くいっているファーマ―も居るんでしょう』
確か、自分以外にもファーマ―が数人ほど居たはずだ。
「あぁ、そうみたいだが、アレ等は例外だな」
樹一がバッグからタブレットを取り出して、何か画面をいじっている。
「あった、コレコレ」
差し出して見せてくれた画面には、ズィミウルギアの専用掲示板が表示されている。
専用掲示板というだけあって、外部から覗いたらそくアウト、逮捕されてしまう。
中から外に内容を出すこともダメだ。
それをしてしまったら重いペナルティが課せられて罰金を払う、最悪の場合はアカウントを差し押さえ。
もちろん逮捕だってされちゃう。
一人のファーマ―はトッププレイヤーと呼ばれる人達から守られる様にして、上手く町を創っていった事柄が詳細に書かれている。
今やトッププレイヤー達の集まる街でゲーム攻略組が集う場所として有名。
その場所は【ジャンシーズ】。
もう一人は…… 言わば変人と呼ばれているそうだ。
詳細は分からないが、人前に姿を現さない事で有名らしい。
それでどうやって町を運営しているのかだが、基本的に重要な事柄は自分が決めるそうだけど、後はノンプレイヤーキャラクター達に決めさせて町を大きくした。
それは【ヴォルマイン】。
だけど、他の者達が彼のマネをしたが結局は上手くいかなかったとう。失敗談の記事がこれ見よがしに載せられている。
有名どころはこの二名。
後の者は、運と一言で書かれていた。
その一言で終わらせていることに笑いながら文句が書かれていたが、誰もが最後は納得の一言で終わりを告げている。
「って訳で、点で参考にならない」
此処まで色々と語ってくれる樹一に、ちょっと気になる事が、
『ねぇ、もしかしてオレの為に色々と調べてくれてた?』
そう書いて、樹一に見せる。
樹一は少し気恥しそうに指先で鼻先を軽く擦って、オレから顔を背けてしまった。
『樹一?』
「すまん。今の、その顔で、俺に聞くのは犯罪級に反則だと思う」
樹一の言っている事がイマイチ理解できない。
「「あの顔は、向けられたら離したくなくなるね」」
「我が娘ながら、恐ろしい子」
ただ一人、無言で携帯のシャッターを切っている小鳥ちゃん。
オレが小首を傾げていると、樹一が一回だけ咳ばらいをする。
「まぁ、ちょっとな。ちょっと、暇な時間に聞いたんだ。咲沢姉妹にな」
なんか、遠い目をして空を見上げている。
双子ちゃん達もそんな樹一を哀れんだ目で見ていた。
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