蜂とウサギさん達の全面対決は目下、激闘中。
『ん~、とりあえず…… 放置で』
色々と考えた挙句に出たオレの結論が、これだった。
まだ皆は、あ~だこうだと現状をどうするかの作戦会議中だったのを、オレのこの一言で部屋の中が静まり返った。
数秒間の沈黙の後に、ティフォのヤツが軽く握った拳で優しく頭を小突いてきた。
「説明を省くな。なんで、放置って結論になった」
無表情で迫って来るのはやめて欲しい。
――ちょっと怖いから。
他の皆も同じなんだろうか、ティフォの言葉に頷いている。
『住み分けをするにしろ、蜂さんもウサギさんも家が無い』
「確かにないよね、家って。ウサギさんたちは巣穴的な所に住んでるし」
シュネーが言われてみれば確かにという感じで、オレの言葉の補足をしてくれる。
オレの言葉で改めて気付いたのか、他の三人も確かにといった感じの顔をしている。
「放置するのは良いとして。じゃあ、どうする気よスノーちゃん? このままって訳でもないんでしょう。それ以前に放っておいても大丈夫なの?」
口元に手当ててちょっとだけ考える。
――ケリアさんの疑問も、もっともだけど。
『多分だけど、大丈夫だと思う』
オレはチラッと外を盗み見てから、きっぱりと言い切った。
「どうしてそう思う?」
「なんで大丈夫(でぇじょうぶ)だと言えるだ、嬢ちゃん」
ティフォとボウガさんの声が少し被った。
『ケリアさんが来るまでの一日』
「あら、私が来るまでの間?」
『オレ達が此処に来るまで、少なくとも数日』
「あぁ、そんくらいはたったか?」
『シュネーに見てきてもらった情報が、未だに変わってない』
「え、ボクの情報? 変わってないって?」
周辺マップを開くと白い点、青い矢印、緑色の点と最初に浮かび上がって、次に周囲に数多くの黄色い点が無数に広がっていく。
少し遠くには赤い点がちらほらと映っている。
「マップ広げてどうした?」
ティフォが不思議そうにオレを見ている。
『え、だから今からコレを見て貰えれば分かるかなって』
「これって、マップ? 私達しか映ってないじゃない」
「俺には何も見えねぇんだがねぇ」
――あれ、また何か認識の違いが出てきた。
『ねぇシュネー? シュネーにはコレって見えてる?』
黄色い点や赤い点を指さして、シュネーに聞いてい見る。
「え、う、うん。普通に見えてるけど?」
オレの指した位置を同じくティフォとケリアさんに聞くと、
「何も見えん」
「ただの草原が広がってるだけね、なんのマーカーも出てないわ」
二人ともが言う。
『オレには周辺の敵の位置と、蜂さんとウサギさんの位置がマップに出てるの』
「ボクのにも同じく出てるよ~」
ケリアさんとティフォが驚いた顔をして、互いに顔を見合わせてまたオレを見る。
そんな二度見するほどに驚かなくても良いと思う。
「ねぇ、スノーちゃんかシュネーちゃんは【狩人】か【盗賊】のスキルを持ってるの?」
何を聞いているのか分からないが、オレ達は二人そろって首よ横に振る。
ケリアさんの言葉に最初、小首を傾げたのを見ていたのか、ティフォが説明書を取り出して補足して説明を開始してくれる。
「分かってないようだから言うが、簡単に説明するならサポート系の戦闘職だな。まぁ、中にはガチガチの戦闘職として戦う人も多くいるが、その説明は省く。それでだな、敵の位置やら周囲の状況を知るためのスキルは【気配察知】【聞き耳】などのスキルが必要だ」
「その外にも色々とあるけど、今は良いわね。大まかなのはこの二つよ」
「他には五感系のスキルがあれば、色々と習得できるし、創れたりする」
ちなみに、説明書には補足として、五感系のスキル、もしくはその応用技の取得条件というのは【ゲーム内での修業】と、大きく書かれている。
どちらもオレのステータスにもシュネーのにも書かれてはいない。
「ってことは、これはファーマーの隠しスキルってことね」
シュネーと一緒にステータスの確認をしていると、ピコンと耳元で音が聞こえた。
《隠しスキルの確認に成功しました》
というアナウンスと共に『この音声は貴方達のみに放送されています』チャット欄に追伸という感じで、普段とは違う色の文字が浮かび上がった。
【情報マップ】というスキルらしい。
映し出されたスキルを触ると、補足説明という感じの文が飛び出す。
==自分、もしくはパーティーメンバーが敵を視認、確認した情報を聞くことで発動。
敵や採掘場所の位置をパップにて表示される。
注意・周辺マップ、もしくは探索を行った地図を持っていないと、発動しません。
出てきたスキルの説明を皆にし終える。
「ま、まぁとりあえず、状況は分かったわ」
『ん、オレが言いたいのは、その数がさっきから変わってないの』
色々と分かったところで、話を元に戻して進める。
「じゃあ力関係は互角ってことか?」
『ん~、ちょっと違う気がする。でも大体同じかな?』
「もうどういうこと~? お姉さんにも分かるように説明してんっ!」
『個で言えばウサギさんの方が上、でも数で蜂さんが有利、けど数じゃあウサギさん達の策を突破できない、突破は出来ないけど数で大きく勝る蜂さんに迂闊に攻撃出来ない』
簡単に纏めてみた。
「じゃあ互角なんじゃないの?」
シュネーの一言に、オレは首を振る。
『肝心なのは、いくら攻撃しても相手を倒せない事だと思う』
「あ? どういうことだ嬢ちゃん、いくらなんでも攻めれば双方に死者は出るだろう」
『分かんないけど、多分……此処だから? だと思うよ』
「いや、それでも――」
ケリアさんの言葉を遮って、オレは続けて文字を打つ。
『正確にはファーマーの保護下、だからって、ことだと思う』
ケリアさんは驚き、目を見開いて、マジマジとオレを見る。
他の皆も同様の顔をしている。
――あ、あれ? おかしなことを言ったのだろうか?
皆がジッと見てくるものだから、不安になって一人一人の顔を見ながらキョロキョロと挙動不審な動きをしてしまう。
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