ズィミウルギア

風月泉乃
風月泉乃

【オンライン】13話

公開日時: 2020年10月19日(月) 08:00
文字数:3,125

  


 ――数秒後。


 

 清らかですっきりとしたお姉さま系な美女になった。

 

「あとはお化粧に」

「もう、すきにしてくれ」

 乾いた笑いを浮かべたティフォは、もう死んだ魚の様な目をしている。

 

 

 服を変えるだけでも印象が変化するのはちょっと面白い。

 

「ねっ、スノー……ボクの事を誘ってるの」

 いままで大人しかったシュネーの体が、プルプルと小刻みに震えている。

 

『シュネー? あの、何言ってるのかな?』

「気付いてないの? それともワザと? ボクの事を試すにしても、それは反則級だよ」

『ごめん、シュネー? 本当に何を言ってるのか理解できない』

「へぇ~、天然? 無意識かな。流石にボク、我慢できない」

 

 ――あれ? そういえばなんでオレはシュネーの二の腕に抱き着いてんだろ。

 

 本当に無意識に抱き着いている自分に、オレ自身が一番驚いている。

 

「はぁはぁ、スノーってばふらふらトテトテと歩きだしたと思ったら、ボクの腕に甘える感じに抱き着いてくるんだもん」

 

 大慌てで抱きしめていた両腕を解いて、自分の両手を後ろ手に組んで隠す。

 

『あはは、ゴメンね』

 

 人肌がそんなにも恋しかったのか、自分でも良く分からない。

 ただ、無性に気恥ずかしくって小さく舌を出して誤魔化すように笑う。

 きっと頬が赤くなっているんだろう自分でも分かるほどに、熱くなっている気がする。

 

「あぅ、もう無理」

 なにかプツンって切れた音が聞こえた、そんな気がした。

 

『ほぇっ! わ、ちょシュネー!?』

 

 オレはまだ宙に浮いて飛び回る、そんな感覚に慣れていない。

 逃げようにも手足をバタつかせるだけで、前に進んでくれないのだ。

 すぐに捕まって、後はもう人形のように頬ずりやら抱きしめられて、されるがまま。

 ケリアさんのお化粧講座が終わるまで、オレもシュネーから解放される事は無い。

 

 

「さってつぎは貴方達ね……って、どうしたの?」

「ううん、きにしないでください」

『はい、キニシナイデください』

「そ、そう。それにしても、どうしようかしらね~」

 

 ケリアさんは頬に手をあてて考え込む。

 

「元々、スノーちゃんを中心に考えてたか……シュネーちゃんにこのあたり?」

 

 動きやすそうなデニムの見た目はスカートに見える、ショートパンツ、全体的に動きやすさ重視のラフな格好でも上着が妖精イメージかヒラヒラした感じの装飾が多めだ。


 ちなみに、オレの衣装も同じ感じのモノが用意された。

 

「えへへ~、スノーとおそろいだね」

 子供のような無邪気な笑顔で言われると、さっきまでの事を怒るに怒れない。

 

『……妖精用の着替えもあるんだ』

「いいえ、分かれてからちょっと速攻で作って見ただけよ。初期装備みたいなモノだし、デザインだけ決まれば作るのは簡単なのよ」

 

 ある程度のレベルになると、クラフターの能力で面倒な工程が省けるらしい。

 料理で言えば、下準備のされたモノが出てくる料理番組みたいな感じ。

 

『ねぇ、別に初期装備のままでも良いのでは?』

「あら、その装備にしたのはちゃ~んと付属の効力があるのよ」

「え! 良いのかそんなもん貰っちまって」

 

 あ、ティフォが復活した。

 

「べつに良いの。初期装備に比べたら良い装備ってだけよ。実際、この装備はあまり他のプレイヤー達からしたら意味の無いモノだから、使ってもらえる方が良いでしょう」


『そういうことなら、ありがたく遣わせていただきます。ありがとうケリアさん』

「どうしたしまして~」

「スノーとおそろい、サンキューですケリアさん」

 

 オレ達はそれぞれにケリアさんにお礼を言う。

 この装備、確かに戦い向きでは無いモノらしい。

 泥汚れなどに強いようで、汚れに対しマイナスされる効果が付いている。

 そして肉体労働などにも、疲労度の蓄積地にマイナスが付くらしい。

 

「さぁ、これで畑を作ってしまいましょう」

 

 

『あの、ちょっといい?』

 

 いまだシュノーに抱きしめられていて、仕方なしにそのまま手をあげ、皆が気付いてくれるよう主張して発言する。

 

「どうしたの?」

 

 シュノーの声に二人が振り向く。

 

『気になる事があるから、畑作りよりもそっちを先に調べたい』

「気になる? なんかあったか?」

「こっちを見られても困っちゃうわよ」

 

 ケリアさんの方をチラッとみたティフォに、肩をあげて分からないと主張する。

 

『少し前に来た、このあたりに住んでる村人さん? の言っていたことが気になって』

 

 村と言えるほど人が多いのか知らないけど。

 と言うよりも、このホームの場所から見える範囲に家がぽつぽつ辛うじて見える程度の数くらいしか無いんじゃあないかって思う。

 

「畑作りがどうのこうのってやつだよね、それがどうしたのさ?」

 

 シュノーの問いに自分でも頭の中で整理しながら答える。

 

『畑作りというよりも、なんでこの辺に住む皆が認めちゃうのかってことが気になる』


「あら~、それなら私が言ったじゃない、このフィールドの大地は畑にしようとするとモンスターがわんさか湧いてくるんだって」


『はい、それは前に見ましたから分かっているんですけど、ちょっと気になるんです』


「この辺を見回るだけか?」

「それだけでなにか分かるの?」

『どうだろ、でも多分、なにか分かると……思う』

「そういえば、確かにここに来てからまともに周りを探索してないわねぇ」

「じゃ、とにかくこの辺りを見て回ろうか」

「よ~し、じゃあ決まったなら行こう行こう。さ、行こうね~スノー」

「なんというか、良いのかスノー」

 

 ぬいぐるみのように抱かれたオレを、憐みの目で見てくる。

 

『もう、気にしないことにした。ははっ』

「そうか……、まぁなんだ、頑張れ」

 

 ケリアさんはオレ達を遠目に見ながら、楽しそうに高笑いを上げながら外へ向かう。

 オレ達もその後に続いて出ていく。

 

 

 

 道なんて整備されたものもなければ、何かシンボルになるような大きな建物がある訳でも無い。特徴なんて一切ない草原に離れた位置に家が点在しているだけ。


 転々とある家は乱雑で適当な間隔で建てられている。

 外的から身を守るような柵さえない。


 いや、これは正確な表現ではないか―― 柵が建てられたであろう痕跡はあった。

 

 ここに町を作ろうと、広く大きく囲ったのであろう痕跡っぽい後を見つけた。

 朽ちた木の柵っぽいものが何もない場所で見つかったのが、多分それだろう。


 そしてその名残りなのか、点在する家にはゲームのキャラクター達が住み着いている、その場所で生活している、様子も確認できた。

 

 元々はここに経てたプレイヤーの家が多いらしいけど、管理を放棄した家やきちんと手続きをしていない家には、キャラクターが勝手に住み着いてしまったようだ。


 言付いた人達からのティフォとケリアさんを見る視線は、冷たく敵意を持っている人が多く居るという事も話に聞いた通りだ。

 

「たく、やるせねぇな」

「そうねぇ~、実際に私達が何かしたって訳じゃあないけれど……これわねぇ」

「ボク的にはスノーに被害がなければ何でも良いや」

 

 シュネーやオレに向けられる視線は、敵意は無いけど冷たい感じはある。

 

『ねぇ、なんでファーマーじゃあなくって冒険者が恨まれてるの?』

「そういえば~そだね、ボクらファーマーの方が町作りの力があるんでしょう」

「あ~、言われて見ればそうだな……なんでだ?」

 

 オレ達三人の視線が必然的にケリアさんへ集まる。

 

「ん~、詳しく私も詳しくは知らないからねぇ。確か約束を反故にして裏切ったのが冒険者だったんじゃあなかったかしら……匙を投げたってやつかしら?」

 

 確かバグかと運営に報告して、それがバグではないと言われたんだっけ。

 

『モンスター退治の失敗が原因?』

「でしょうね、倒しても畑とかに湧いて出てくるんだから」

「俺みたいなテイマーで仲間にするっていうのは?」

「無理よ、テイム出来る上限は決まっているでしょう」

 

 ティフォの問いに少し考えたが、ケリアさんはすぐに返した。




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