「おう、帰ってきたか」
「あらあら、まぁまぁ~、可愛らしい子達ね」
「…………ども」
ボウガさんの隣に、知らない女性が並んで立っていた。
「俺の妻と娘だ」
「ぶっきら棒な説明ね、もうちょっと愛想良くできないの?」
「無理無理、仕方ないね」
ボウガさんが散々に言われて青筋を浮かべているけど、何も言い返さずにオレ達の方へと寄ってきた。
荷馬車の中身を確認し始める。
『えっと、初めまして。スノーです』
「初めまして、よろしくね~。僕はシュネー」
ボウガさんの娘さんは、すっごくシュネーに興味津々の様子だ。
「ふむ……いい感じの木だな、まぁ合格だな。おい、騎士見習い。運ぶのを手伝ってくれ」
「はっ、分かったんだな」
ボウガさんの家に向かって馬達を誘導していく。
「おめぇ等はそいつらから色々な事を聞いとけよ」
「あの、拙者は?」
「あ? 騎士見習いなら力仕事を手伝えってんだ」
「わ、わかったでござるな」
ちょっと寂しそうにこちらをチラチラ見ながら、一人だけボウガさんに連れていかれる。
「自分はティフォナス。よろしくお願いしますね」
「アタシはエフケリア。可愛く読んでくれると嬉しいわね」
「はい、よろしくお願いしますね。私はウラっていうの。こっちの不愛想な娘がトワね」
「よろっ⁉ 痛い」
シュネーを見ながら、他に興味無い感じで挨拶した瞬間にトワさんに殴られた。
「挨拶くらいはシッカリしな」
「うぅぅ。よろしくお願いします」
殴られた部分を抑えて、涙目で改めてお辞儀をしてくれる。
「……貴方が、ここの主?」
『あ、はい。そうですけど』
無表情でオレの顔を真っすぐに見つめてくる。
「はい、コレ……色々と役立てて」
差し出されたのは、薄い木の板で作られた本だった。
間に羊皮紙が挟まっていて、そこに何やら色々と書いてある。
『ありがとうございます……コレは?』
「ん? あの子達のまとめ」
キラキラの眼差しを向けながら、蜂とウサギさん達を指さして言う。
○ラゴス族。
大人しく人懐っこい性格で土いじりを好む。泥ウサギと呼ばれる種類がいる事から土に関することに特化した才能がある事を確認した。人の真似をして農具を扱える事も確認。
しかし、植物を育てるといった事は苦手なのか、上手く育たたない事が多い。
※「土に関することなら出来ているのに、何故かは今だ分からず」
※「要観察が必要」
○メリサ族。
女王と働き蜂は大人しく友好的な印象。しかし、警備を担当していると思われる戦闘蜂は気性が荒い様子。働き蜂や巣を守る様に辺りを飛び回っている事が多く、働き蜂よりも力関係は下のようで、働き蜂を介してなら戦闘蜂も大人しく従う様子を確認した。
花々の手入れや水やりが上手な様子。水をやり過ぎる事もなく適量の水を散布していた。
※「ウサギとの仲は良くはない様子だが、互いに共存関係が気付ければ、もしかしたら良い感じの野菜や花々が育つかもしれない」
「あら良く書けてるのね……モンスター図鑑にも載ってないようなのが」
「中央都市の図書館にあるモンスター図鑑見たの?」
ケリアの言葉に即反応を示したトワは、ちょっと目を細めて横目にケリアを見て言う。
「えぇ、色々とモンスターの情報を知りたかったからね」
「アレは未完成な不良品。モンスターの使う技や彼らの素材要素しか書かれてない」
「こんな子だけど、モンスターの事に関しては本当に妥協しないのよね。まぁ、御蔭で色々と助かってる事が多いんだけどね」
母親に褒められて、少し照れ臭そうに顔を背けて。小声で「べつに」なんて言う。
「それより、君の事は期待してるから」
『え? あ、はい。ありがとう?』
「この辺に住み着いたモンスターの事なら。いつでも聞いて。環境や時間、種族的な相性とかの観察は続けてく。知りたいでしょう? 知りたいよね」
『は、はいっ!』
「なら、頻繁に君の家に遊びに行ったり観察対象として見る事を許してほしいの」
ピコンっという音が急に聞こえて。
《トワの要求》という名の項目が現れて、その下に【許可】【拒否】の二択が出現した。
「君にも良い事が多いと思うな」
『きょ、許可しますから。大丈夫だから』
可愛らしい顔がドアップで近づいてくるのは、流石にドキドキする。
シュネーが物凄いジト目で何も言わずにオレを見てくるが、今はとりあえず無視する。
「私からは、こいつをプレゼントだよ」
回覧板と書かれたモノを渡される。
「ボウガに認められたんなら、他の連中も話ぐらいは聞いてくれるようになってるさね。何だかんだ言っても、アンタ達みたいな奴等が居なきゃあ、この集落も纏まらんだろうし。グチグチと過去の事を言うやつが居たら私に良いな。きっちり絞めてあげるよ」
ウラさんが逞しい二の腕を見せながら、にこやかに言ってくれる。
「どこの世も、女は強し」
トワの軽口にすぐさま、コンッと良い音が鳴りそうな拳骨を頭に食らう。
「いてて、仲良くなるなら。貴方ならイーゴさんの所がお勧めかもね」
『イーゴさん?』
「上位街でお兄さんが馬の飼育員をしてる。でも、イーゴさんは魔物や魔獣といった子達のお世話が上手なの。それにイーゴさん所に住み着いた魔物は【デンドロ】って木の魔物。切り株みたいな見た目で、水を掘り当てたりするのが得意だったりする」
トワは魔物の事に絡むと凄い活舌が良くなるな。
「あの畑なら、ギリギリで合格。きっと良い返事を貰える」
「ちょっと変わり者だけどね、悪い人じゃないから根気よく話しかれば大丈夫さ。ちなみに家のとこはスライムだね。基本的に誰かの家に一種類の魔物が住み着いてるよ」
「羊皮紙とか何か書くものをくれれば、知りたい魔物情報を書いてあげる」
「じゃあ、私らの用事は終わったから帰るかね。じゃあ頑張んだよ」
「バイバイ」
何というか、慌ただしい人達だった。
「おい、そろそろ助けて欲しいのだが?」
ティフォがもふもふ達に埋もれている。
『そのまま頑張って』
「交渉が上手く行くかはティフォに掛かってるよ」
一番良い位置に居るのがリーダー的な立ち位置な子達だろうな。
ウサギさんも蜂達も、【間接的に友好関係】という意味不明な関係になっている。
彼等のご機嫌取りは、もうティフォに任せるに限るね。
多分、ホームの仲間に入ってるっていう事で、ティフォ経由での関係なんだろうな。
蜂の巣の関しては、もうこのままで良いとして。
蜂達に必要な花々を育てる場所と、ウサギさん達が自由に使える場所。
やっぱり試験的に共同して育てるスペースの確保が今できる所かな。
ウサギさん達のリーダーと女王蜂にはホーム内に出入りが自由にして、後はティフォに頑張って貰えば。
こちらに有利な条件を呑んでもらえるかも。
とりあえず、皆を畑の位置まで連れ出す。
『じゃあ住み分けはまだ先として、まず畑の両端二面を其々に使っていただいて、中央を皆さんの共同作業区画として、花と野菜を半分半分で育ててみませんか』
森でひろった長めの棒で線を引いて行って、区画を分かりやすく区切って見せる。
まだ両種族とも友好関係には無いから、戸惑いというか、迷っている感じがする。
『花や野菜が育てば、ティフォが何かを作ってくれるかもしれません』
その言葉聞いて、ウサギさんの耳がピクピク動き、蜂の羽が緩やかに揺れる。
数秒くらいお互いを眺めて、握手する。
「魔物の和解って初めて見たわね」
「ていうか、自然に俺を餌にするんじゃあねぇ」
「ティフォは便利な交渉材料だよね……スパイクも可愛がってあげなよ」
争奪戦に負けて部屋の隅でいじけているスパイクに、優しく撫でて上げるシュネー。
アイツ、ちゃっかり慰めるフリして撫でてるな。
オレが近づくと逃げちゃうっていうのに、ズルい。
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