ちょっとぼんやりとした意識が急にはっきりしてきた。
多分、琥珀が表に出ていたんだろう。オレの意識とは関係なく琥珀が何かを書いたノートを無意志に双子へと渡していた。
何を書いていたのかは知らない、この場合は覚えていないと言った方が正しいのだろうか?
琥珀が何かを書いていたのは確かに覚えがある。
葉月って子だったっけ、大人しい感じのする方の女の子がノートをジッと眺め。
ノートパソコンを開いて何やら色々とやっている様子だ。
葉月ちゃんはチラリともう一人の片割れの子を見てアイコンタクトをして、オレを見る。
「これ、少し借りるね」
桜花という子だったと思う。
彼女はオレの持つヘッドギアを持つと、小さめのドライバーをポーチから取り出してカチャカチャと弄り出す。
ノートパソコンとヘッドギアを繋ぎ、物凄い勢いでキーボード操作を始めた。
「む~、後は父様の仕事」
葉月ちゃんはノートパソコンを眺めながら唇を尖らせて、何故か悔しそうに唸る。
――いやいや、君はオレより年下だよね。そんな子がプロ顔負けのプログラミングをするとか、最近の子供は末恐ろしい。
「じゃあ、明日にはちゃんと返すから、色々と調整し直してからお渡しするからね」
オレがコクンと頷くと、二人とも笑顔でパタパタと部屋を出ていった。
やはり双子だけあって似ているのか、葉月ちゃんが頭の上にノートパソコンを持って出ていく後に続いて、桜花ちゃんもヘッドギアを頭の上に持ってトテトテと出ていく。
何か書くモノが無いか自身の周りを探してみるけど、ノートはさっき渡してしまって身近に書くモノが何もない。
「あっ、はいコレ」
小鳥ちゃんから真新しい携帯電話を手渡された。
緑色の本っぽいカバーに入れられた薄型の携帯電話だ。
「退院祝いだってさ。机の処に置いてあったの、これから必要でしょう。私のアドレスとお兄ぃのアドレスと電話番号は登録しといたから、あと咲沢姉妹のも入ってる」
『え、あ、うん』
「必要そうなアプリとかセキュリティ関係は姉妹がやってくれたから、ちゃんとプロテクトロック掛けておかなくちゃあダメだからね」
さっきからまくし立てて小鳥ちゃんが言ってくるけど、正直、半分以上なにを言っているのか分からない事が多い。
――アプリってなに? セキュリティって携帯電話に必要なのか? やっと画面タッチなるモノに慣れてきたばかりなのに。
というよりも、オレの携帯電話を本人より先に弄るのはどうなのだろう。
「あ~、小鳥ちゃんってば勝手に渡しちゃって~、後で驚かせようと思ってたのに」
咲沢姉妹が下に下りていったからか、母さんがオレの部屋を除いて声を上げる。
「すいません。でもその代わりに防御は万全にしてありますから」
「まぁ、その事はさっき双子ちゃんに聞いたから良いんだけど」
「あっと、コレが使い方の説明書、分かりやすく要点とかアプリの事について分かりやすく纏めといたから、後は注意事項なんかも書いておいたから」
手のひらサイズの小さめなノートを手渡された。
パラパラとめくるって見てみると、確かに分かりやすく書かれているようだ。
文字だけでなく絵を駆使して分かりやすく纏めてくれている。
最後の方のページにはちゃんと専門用語的なモノの説明書きがされていて、本当に解りやすく辞書的なモノに見えてくる。
『ありがとう、ここまで書くのは大変じゃなかった?』
「ううん、全然。翡翠ちゃんがゲームしてる時にチョチョイっと書いたモノだしね」
小鳥ちゃんは照れた様子で言う。
「もう、なんか双子ちゃん達や小鳥ちゃんに美味しいとこ全部持ってかれてない?」
「え、そ、そんな事はないですって。私達だって何かしてあげたかったんですもん」
頬を膨らまして拗ねている母さんに、慌てた様子で手を振って否定する小鳥ちゃん。
「まぁ、そうよね~」
何故か母さんは頬に手をあてて、意味深にオレをチラッと見て直ぐに小鳥ちゃんに視線を戻して、
「ん~っ」と考え深そうに唸る。
何かに気付いたのか急にオレと母さんを交互に見てから、小鳥ちゃんが慌てた様子で話題を変えようと喋り出した。
「あ、あのゲームはどうだった?」
チラチラと母さんの様子を窺いながらも、オレの気を逸らせたいのだろうか? 話題はオレに向かって振られた事に驚く。
一体、何を気にしているんだか。
『楽しかったよ。本当にリアルな感じだったし』
「そうなんだ。どこまで進んだの?」
『ん~、全然。ウサギさん達と戯れたぐらい?』
「ん? レベルは?」
『まったく上がってないけど? まだ1のままだった気がする』
「えっと、ごめん。幸兄ぃは、お兄ぃと何やってたの?」
『ウサギ達と戯れてたよ』
「楽しかったの?」
『楽しかったよ?』
「ファンタジー系の世界だよね? ネットワークゲームでしょう?」
『え? うん、多分?』
確かに言葉にしてみると、楽しそうには聞こえない気がしてきた。
「レベルって普通に上がらないの?」
『普通は上がるモノなの?』
基準が良く分からないオレには何も言えないな、最初の段階でウサギに負けていたしな。
あれ、そう考えると普通は負けない感じの敵なのかな、負けていたオレってかなり弱いのだろうか? いや、それなら樹一がフォローしてくれているはずだ。
「まっ良いや、つまり全然進んでないって事で良いんだよね、……それなら問題ないかな」
『ん? なにが問題ないの?』
「気にしないで、後で驚かせるつもりだから」
それを言われて気にしないでいる方が難しい気がする。
「も~、勝手に盛り上がってぇ。上手く誤魔化しちゃって可愛くないの」
「なんのことですか千代さん、言い掛かりは止めてください」
「まぁいっか。とりあえず今日は皆で夜通し騒ぎましょうか」
母さんが徐にオレを抱き抱え、ちょこんと膝元に座らせる。
『えっと、あの、母さん? 夜通し騒ぐって――』
「まずは夜食だけど、昼の残りも合わせて秋堂家と我が家でパーティーよ」
「その後はお風呂ですね」
「あら、分かってるわね。せっかくお風呂を広くしたんだから皆で入らなきゃね」
『皆って…… オレは――』
「まずは、女の子の体に慣れなきゃダメよ翡翠ちゃん♪」
『母さん、だからオレは――』
「大丈夫です、私も一肌脱ぎますから」
それは文字道理に捉えても、確実に脱ぐ方にいくよね。
『いや、小鳥ちゃん、脱いじゃダメだから!?』
とくに君は一番脱いじゃダメな立ち位置にいるよね。
「これも試練よ、琥珀ちゃんだって超えてきたんだから我慢なさい」
「そういえば、翡翠ちゃんになった体って幸兄ぃは全身くまなく見たことあるんですか?」
その小鳥ちゃんの一言にビクッと反応してしまう。
「そうよね、自分の体くらいは見慣れてくれなきゃ困るわね」
ビクビクと反応を楽しむように、小鳥ちゃんと母さんがニヤニヤした笑みを向けてくる。
「とりあえず、もう下の方の準備は済んだでしょうから、行きましょうか」
「じゃ、行きましょうね~」
『じ、自分で歩けるから放してよ』
「あら~、良いじゃない。それに、下手に男どもの処に逃げられても面倒だしね」
母さんは確実にオレで遊ぶ気満々の様子です。オレが子供の時以来でしょうか、弄りに弄り倒してくれた恐怖の日々を思い出します。
助けて樹一っ! お父さんと叫んでも女性陣にはかなわない御様子で、結局オレは脱衣所でひん剥かれて、咲沢姉妹と小鳥ちゃんやらお母さんと裸の付き合いを…… しました。
――男どもが頼りにならないと、初めて知った気がします。
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