「にゅふふ~、ちまいとかわえぇの~」
「なんか、オッサンっぽいぞ」
「妖精バージョンのスノーちゃんも眼福だよ。あぁ、このゲームを作った人達に感謝」
「今日というか、さっきまで会ってただろう」
「会ったのは琥珀でしょ。ボクは直接的に会ってないもんね」
そんな他愛もない会話がすぐ近くから聞こえてくる。
「あ、起きた?」
「おい、なんか変な感覚とかないか?」
まだ上手く回らない思考と、ぼやけたままの視界でゆっくり頭を動かす。
――なんか、大きな顔が二っつ、近くにある。
体に被さっている布を強く掴み、思わず顔半分まで上げて隠れる。
「別に食べたりしないよ、だから隠れないでよ」
なんか見た事があるような、無い様な。声だって知っている気がする。
もう一人の顔は知ってる、樹一のキャラだ。
こんな顔は大きく見えなかったけど。
「ほぇ~、ちょっと怯えているスノーもまた可愛いね」
いまにも涎を垂らしそうな破顔した表情で迫ってくる。
恐怖なんて怖さじゃなくて、何か良く分からない寒気が全身を襲う。
「アホ、余計に怖がらせてどうすんだよ」
「あてっ、うぅ~。そんなつもりじゃあなかったんだけどな」
えへへ、とちゃめっけたっぷりに笑顔でオレに謝ってきた。
『もしかして、シュネー?』
曖昧な見覚えの少女を見て聞く。
「そうだよ」
『ティフォ?』
「そうだ」
『なんで大きくなってるの?』
「大きくっていうか、スノーが小さくなったんだぞ」
「そ、スノーがいま妖精だよ」
掛けられた布を持ち上げて自分の体を見ると、確かにシュネーが妖精と同じだ。
ただ自分では普通のサイズだと思う、けれど周りやシュネー達を見ると自分が凄く小さくなったのだという事が、よく分かる。
いつも当たり前に見ていたモノ全部が巨大に見える、面白い感覚だ。
「あの、さ。気を失ったときのことって覚えてる?」
シュネーが効き辛そう顔を伏せながらも、オレに聞いてきた。
『ん、覚えてる』
アレは確かに驚いたけど、いつもオレの周りの人が必要以上に絡んでくる理由が分かったような、腑に落ちた気がした。
「ボクもお母さんも、別に隠していた訳じゃあないんだよ」
「少しずつ克服出来たらっていう感じで、皆で話し合ったんだ」
『別に怒ってないよ』
「き、嫌いにならない」
『ならないよ、むしろ助けてくれてたんだから』
「う、うん……」
『ごめん、自分のことなのに気がづかなくて』
「いや、お前が悪いわけじゃないだろう」
色々と助けてもらっていただけでも、感謝しかないっていうのにさ。
二人とも完全に落ち込んじゃった様子で、申し訳なさそうにオレを見てくる。
この雰囲気をどうしようかと悩んでいると、タイミング良く明るい声が聞こえてくる。
「ハッア~イ、お待たせしちゃったわね、ちょっと預けていた荷物を……って、なに? この雰囲気は? そしてだぁれ? そこのプリティな子は?」
ガチャっとドアを開いてドアノブに手を掛けた体制のまま固まった。
オレとシュネーの姿を交互に見つめ、ポンっと手を打つ。
「シュネーちゃん? それで妖精ちゃんがスノーちゃんね?」
『正解』
「あたり」
「んふふ~、さすがアタシね。っで、この暗い雰囲気はなぁに?」
オレ達はちょっと迷いながらも、当たり障りのないように説明をした。
ちょっとした事件に巻き込まれ、オレが喋れない状態。
さっき起きたような症状があることや、気分転換にゲームを始めたと云う様な感じに。
シュネーとオレの関係に関しては暈しつつ、双子の様なモノとして話す。
「ふ~ん、まっ状況は分かったわ。け~ど、それなら尚更に今の状況は頂けないわね」
何故かいきなりシナを作りながら、キメたポーズとる。
そうすると無駄にシャンシャンなりながら、星をシャワーみたいに振りまき始めた。
「貴方達、楽しむのでしょう? 起きてしまった事柄には何も言えないけどね……それでも、そんな難しい顔をしていたら~、楽しい気持ちが逃げちゃうわよ」
キレッキレのダンスを踊りながら、一人楽しそうな笑顔で踊る。
「それとスノーちゃん、ここはネットゲームの世界。一人だけでは楽しめない世界よ」
キランという効果音と共に、どや顔の決めポーズでオレ達三人を見る。
エフケリアさんの笑顔がゲームのエフェクトのせいで、また一段と眩しく感じる。
誰かは分からない。
もしかしたら全員だったかもしれないけど、プフッという吹き出すように笑った瞬間から、皆が笑顔になっていた。
「ふふ、そうそう。まず楽しむには笑顔からってね」
いい汗をかいたという感じで、ハンカチで頬の汗などを拭く。
『ありがとう、エフケリアさん』
「ん~、どういたしまして」
恰好は女性的なのに、その動きは紳士的な男性の礼でお辞儀をした。
「そういえば、エフケリアさんはどうして遅くなったの?」
シュネーが聞くと、エフケリアさんが右手の人差し指を振り子のように動かして、
「んもう、ケリアって呼んでよね~」
口を尖らせて、拗ねた様に言う。
「いや、俺達会ってまだ一日もたってないですよ」
「ふふ、なにいってるのよ、この世界ではもう数日は経過したわよ」
軽く片目をつぶって見せた。
――いまはゲームの中の世界、この世界の基準でってことか。
『そう、ですね。じゃあケリアさんはどうして遅くなったの?』
「ん~ん、まだちょっと距離があるけど仕方ないわね。遅れた理由はこれよ」
ケリアさんがアイテムボックスを開いて、大量に取り出したるモノは服だった。
それも、大量の衣服。
「んふふ~、覚悟して~。貴方達を可愛くしてあ・げ・る❤」
大量にある衣服をベッドに並べ、まず先にティフォの体へ次々と手持ちの服をあててみては「う~ん、違うを」とボヤく。
「あの、エフケリアさん?」
服を選んでいる動作は見ていて気持ちが良いほど敏捷で活気がある。
たぶん、ティフォの声は聞こえているだろうけど、聞き流して要るっぽい。
いまだに目をキラキラ輝かせながら、真剣な表情で服を選んでいる。
「ケリアさん、あの~」
「ん~、なにかしら?」
ティフォの声にやっと反応を示す。
あ、やっと反応した。
今後はケリアさんと呼ばないと、反応してくれそうにないな。
「あの、男物の服はないんですか?」
「ないわ」
ケリアさんの返事は脊髄反射のように答える。
「せめてズボン――」
「ごめんなさい、貴方に合うズボンは無いわ」
「え、いや、あの」
「それと、私の勘なんだけどね。貴方の加護の条件って服装込みで関係しているんじゃあないかしらね、女っぽく乙女な恰好やら仕草をしないと発動しないんじゃない?」
言われたことが図星なのか、表情が硬くなり少し悔しそうな顔をして何も言い返さない。
「貴方のジョブって、召喚士や巫女とかテイマー系の職業でしょう」
「テイマーだけど」
「あらやっぱり。まぁ、良いじゃない、似合ってるんだから」
「う、嬉しくねぇ」
「それにしても……そうねぇ~、綺麗な足を見せるようなスカートでも良いけど、ここはあえてロングのチラリと見える感じにするのもアリね」
どうやら方針が決まったように一人で頷いて、パパっと幾つか選び取る。
いろいろな不平と不満を盾にして着替えることを逃れようとしている。
ケリアさんには通じる事無く部屋の隅へと追いやられていた。
「ケリアさん、マジに怖いっす」
「大丈夫、すぐに終わるから」
「そりゃあゲームですからね、装備を変えれば一瞬ですけど」
「あら、いいのよ、美少女変身ヒーローみたいにキラキラな着替えでも」
見えない速度で設置された着替え用のスペース区間のカーテンが閉められる。
「はっ! いつの間に!?」
「ワタシ、自分の趣味には出し惜しみなんてしないの」
「あの、ゲームにトレードという便利なシステムが……」
「ワタシのプレゼントよ、私から手渡すのが普通じゃなくって?」
「ぎゃ~~」
なんて叫び声が、オレのホームにこだました。
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