ガラガラと荷車の車輪が回る音と、馬の足音が心地良い風と共に聞こえてくる。
ただ一つの欠点は、道は悪いし揺れが激しいせいで気分は最悪ということだ。
自動車という文明に慣れ過ぎたオレ達には辛いものでしかない。
オレが手綱を握り、エフケリアさんが隣で道案内をしてくれている。
『ねぇ、目的地はまだですか?』
「もう、スノーちゃん……気持ちは分からなくは無いけどね。もうすぐだから我慢なさい」
実際問題、一定距離進むと疲労という感じでTPが1減っていくのだ。
今のところ20は減っている。
『シュネーは良いよね、浮いてるんだから』
出発時点ではオレの頭に乗っていたくせに、と心の中で文句を垂れる。
走り出してからちょっとして飛んで付いて来るようになったシュネーに、「代わってよ」という恨みを込めて見つめる。
「無理無理、ボクは騎乗のスキル使えないも~ん」
こういう所で便利に使えないな、この【チェンジ】って。
魔法を覚えてないくせに、魔法よりの基礎能力値に全部のポイントを振ったという。
「ゲームでもケツが痛くなってくるよな、精神的に」
荷台に寝っ転がっているだけの癖に、空を見上げながらそんな事を呟くティフォを睨んでいると、ワザとではないが大きな石に台車が乗り上げて、大きく揺れた際にティフォが頭をぶつけて悶えだした。
『ふふ、ざまぁ』
そうやってくだらないやり取りをしているうちに森のエリアが見えてきた。
「大森林や湿地帯のジャングルと比べちゃうと地味だけど、雰囲気としては良い森よ」
入口手前で馬を止める。
「なんて場所なんだ?」
ティフォナがエフケリアさんに尋ねると、頬に手を置いて「え~っと」と悩み始めた。
「そうね、東の森としか聞いたことないわ」
聞かれて気が付いた様子だった。
「普通、名前とか付いてるだろう?」
「まあね、でも最初は何処も名の無いエリアだったのよ~」
『名の無い?』
「そっ、名が付くのは大勢が呼び始めた事だったり、そのエリアもしくはフィールドで実績やら“やらかしちゃった”人の異名だったり、ユニークモンスターの名前だったり。とにかくプレイヤーが大勢絡んで決まっていくの」
「はじめっから決まってないだね~、ちょっと驚き」
「東西南北の呼び名だってそうやって決まったんだから」
「それって初めから決まってたんじゃなかったのか」
初心者なオレ達三人はそろって「『あ~』、そういえば?」的な声がそろって漏れ出た。
「そもそも、こっち側ってば全然攻略が進んでないもね~、エリアの名前だって全然ついてないんじゃないかしらね」
『ふ~ん、取り合えずオレ達には関係ないし。早く原木手に入れに行こう』
「ゴーゴーレッツ冒険」
オレとシュネーはそれよりも早く森に入ってみたいという気持ちが強く、エフケリアさんの話半場で荷馬車を進める。
そんなオレ達をほっこりした顔で、エフケリアさんが見つめていた。
「さ~って、それじゃあ先に~、この森のセーフティーゾーンである泉を登録しなきゃね」
森に入って更に揺れが強くなって辛かったが、森の深くまで来ると開けた場所に出て、そこには木漏れ日に反射する綺麗な泉があった。
「そこに小さい祠があるでしょう、100スィアを入れて手を翳すかお祈りすれば登録完了によ。そうすると、この森でやられたらリスポーン地点が此処に、城下町から此処へテレポートできるようになるわ」
エフケリアさんに言われた通りにオレ達はお賽銭を入れて、オレとシュネーは祈った。ティフォは手を翳す様にして登録を完了する。
「ここまではアクティブモンスターは居なかったけど、こっから先、あっちの方とあっち側は特にわんさかと出るから気をつけなさいよ」
泉から更に東の方と東というより東北東の辺りを指さして教えてくれる。
エフケリアさんが指さした東の方は木漏れ日が一切なく、薄暗い道になっている。
北東方面は開けて見えるものの、より一層に生い茂った木々が荒れ果て、道というような道は見えない軽く凸凹した道が続いている。
どこぞの樹海なイメージだ。
「私達が行くのはアッチ、アクティブモンスターも疎らに居るから、気を抜き過ぎは注意」
『どんなモンスターなの?』
「んふふ~、それは自分で確かめなくっちゃね」
「え~、けち~」
どんなモンスターなのかは教えてくれないらしい。
シュネーはちょっとふくれっ面だが、そういうのも初心者の内から知っておきなさいってことなんだろうな、と思う。
ティフォも笑っているだけで、何も言っていないしね。
「そういえば、ティフォナちゃんってばテイマーよね? モンスは居ないの?」
「あぁ、気にしないで」
何か遠くを見上げながら、たそがれる様に気にするなと言ってくる。
「シュネーは採取が出来ない、俺を手伝えちゃんとした戦い方ってヤツを教えてやる、良いかニンジンなんてアイテムで敵は倒せんのだ」
『ええ⁉ そうなの⁉』
「ニンジンでも頑張れば」
「良いか、ログを見ろログを…………お前がウサギに与えたダメージは0だ」
なんと、今更になって絶望的な真実が知らされたよ。
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