ズィミウルギア

風月泉乃
風月泉乃

【オンライン】16話

公開日時: 2020年11月3日(火) 23:00
文字数:3,975

 


 色々と勝負した結果。

 こちらが二勝の勝ち逃げ、あとは勝って負けての攻防が続いている。

 勝負内容の大半が、なんか健康診断っぽいものが多い気がするけど気にしない。

 ちっさい妖精姿のオレでは殆ど役立たずで、計測やら他のウサギさん達と場の用意が主な仕事というか手伝いと化している。


「さすがに疲れた~、休憩~」

 シュネーはコロンと地面に寝転がって息を整えている。

『じゃあオレは次の準備してくる』

「よろしく~」

 軽く手を振っているシュネーには、体力回復に専念してもらう。


 勝負していたリーダー格のウサギも、少し離れた位置で仰向けの大の字になって空を見ている様子だ。


 数で勝負されたら不利だったけど、こちらがほぼ一人で勝負しているからか分からないけれど、シュネーと勝負していたのは一匹のウサギだけだった。


 あの最初に絡んできた、生意気にウサギだけだ。

 ほかのウサギさんはオレと同じ様にコース作りや的になるモノを作ったり、記録やら測定をしたりという感じでだ。

 つつがなく進行していった。


 ――さて、ようやく障害物競走的なものやる訳だが……ここからどうしよう。


 平均台みたいなものって頼めば用意してくれたりするのだろうか? まぁ、無理なら他の案を考えよう。

 あとは走りにくいように土を柔らかく………… いっそ畑っぽい感じに広げようかな。

 そんな事を考えて空中をふらふら飛びながら、周りの広さとどういうコース取りにしようかと考えているところに、数匹のウサギさん達がこっちに寄ってくる。


「「「「くぅ~」」」」


 何を言っているのかは分からなけど、大体は「次はどんな勝負にする」的な事だろう。

 という、勝手な解釈をして話を進める。


『次は障害物競走をしようと思います』


 オレの言葉に「なにそれ?」的な感じで首を傾げるウサギさん一同は、無駄に可愛い。

 抱きしめたくなる衝動を押さえつつ、話を進める。


『え~、このくらいの広さでコースを作って、走りにいように土を柔らかく、穴を掘ったりして進路妨害をします。足場の悪い場所から、幅の狭い足場を通ったりする感じですね』


 浮いている体をいったん地面に下ろして、小枝を拾って絵を描いて説明する。

 ウサギさん達は頷いたり、顎に手をあてるように前足をあてて考えている。


『それで平均台……、長い丸太とか、木があればいいんですが』


 何匹かのウサギさんが「任せろ」という鳴き声を上げて、走り去っていく。

 やっぱり普通のウサギじゃあないんだよね。

 普通に前足を手として認識している感じで見てしまう。


 器用に動かしては人の様に道具を扱っているんだから、今も休憩しているウサギとシュネーを団扇のような大きな葉っぱで仰いでくれているし、飲み物も普通に木で出来たコップを使って飲み食いしている様子だ。


 さすがに食べ物は前足で…………。

 濡れタオルで両前足を拭いて、ホークとナイフで切り分け、果物を食べている。


「きゅいっ!」

 近くにいたウサギさん達に「急にどうした!」と突っ込まれた。

『あぁ、いえ、なんでも、ないです』

 せっかくここまで来たのに、ここで不信感やら不快感を与えては、ちょっと考えているオレの計画が水の泡になってしまう。


 ――いや、可愛いんだけど。


 鼻をピクピクさせてモシャモシャ食べている感じは可愛いんだけどね、こうリアル感を持たせられると、何か違って見えてしまう。前足で一生懸命に食べる姿も可愛いと思うんだ。


『じゃあ、オレ達は土を柔らかくしたり、穴を掘ったりと、準備をしましょうか』


 強引に意識を切り替えて、コース作りの話を進める。



 妖精の姿になって解った事だけど、この姿でショベルやクワとか人間サイズの物を扱う時には、多少なりと魔力を消費しながらなら、扱う事が出来るらしい。


 クワを持ってないのに土を耕す動きをする違和感は拭えないけど、大体同じような振りと勢いでショベルは地面に刺さる。


 ウサギさん達が使う道具も、やはり人が使うのと同じ物のようだった。

 ただ、ウサギさん達が使うようだからか、サイズ的にはやはり小さい。

 前足とか使って勢い良く掘った方が効率が良いんじゃあないだろうか。やはり、道具の方が利便性は良いのかな。

 もうウサギというより、子供の人間を見ている感じに近くなっている自分が居る。

 しかしどうも彼らの様子を見るに、道具を使う事自体に問題はないようだが、使い方は様になっていない様子だ。

 力だけでクワを振り下ろしては、すぐに上に上げてしまっている。


『……手先や頭が良いわりに、道具や体の使い方とかって下手なんですね』


 使い方のなっていない様子をジッと見つめていて、我慢ならなくなったオレは徐にそう文字を入力して言ってしまった。


 オレの言葉を見て、ウサギさん達の手が止まる。


「「「きゅい!」」」


 まぁ、多分「なんだとっ!」的なニュアンスだと思う。

 ウサギさん達があまりに使い方の下手だったクワを取り出して、実演してみせる。

 地面へしっかりと刺した後に、掘り返すようにクワを少し起こしてから持ち上げ、手前に引き寄せる感じに持ち上げる。

 これを何回か繰り返しただけでも、さっきウサギさん達が一生懸命に土を柔らかくしようとしていた。

 その倍の範囲を簡単に耕せている。


『クワはこう使うんですよ。あぁ、それと――』


 ショベルに関してもそうだ、力任せに差しては手と腕だけの力で技で掘り返している。

 軽く地面に刺した後に、足を掛けて体重で更に地面に差し込んでから梃の原理使う感じで土を掘り返してから、持ち上げて土を退ける。

 ウサギさん達は目を真ん丸に開きながら黙って、マジマジとオレの使い方を眺めている。


『良い道具があるのに、使い方を知らないとか、宝の持ち腐れに能力の無駄遣いですね。その様子じゃあ、対して立派な野菜とか育てられなかったんでしょう。あぁ、だからオレ達の畑作りの邪魔をしてたんですか? 自分達よりも良いモノを作り出すのが許せなくって。嘆かわしい努力ですね』


「「「き、きゅい、きゅいっ!」」」


『違う? 違うなら、野菜作りで勝負してみます? 互いに不正のないよう、場所はこの辺り一面に畑を作って野菜を作りましょう』

 ウサギ達は、オレの話しに載ったという感じで答えてくれた。



 なんか思わぬ方向に、上手く転んだ。



《スノー様・シュネー様、隠し限定クエストの条件をクリアーいたしました。よって限定称号と限定スキルが付与されます》



  ☆★☆☆★☆




 ちょっと前の出来事を精細に話した。


『とまぁ、そんなことがありまして』


 ちゃんと事細かに話したと言うのに、話を聞いていたティフォもケリアさんも……そして何故かウサギさん達に加えて、シュネーまでもがオレのことをジト目で見てくる。


『なに、この熱い視線は?』

「いやなに、お前が語った内容に嘘はないんだろうけどな、俺の想像だともうちょっと色々とやらかしていそうだなぁ~っと思った、ただそんだけ」


 ティフォが呆れ交じりに言うと、ウサギさん達が「くぅ~」と潤んだ瞳を見せ、何度か頷くようなそぶり御見せている。

 それを見たケリアさんとティフォは、更に冷めた目で見てきた。


 ――まったく、侵害だよ。

 それにしても、やっぱりウサギさん達はオレとシュネーには絶対に甘えてこない。

 もしかしたら、小動物をモフモフ出来るかと思ったのにな。


「そういえば、なんの称号とスキルを貰ったの?」

「えっとね【統一者】って称号と、ボクは【扇動】ってスキル」

『オレは【罠】ってスキル』


 ケリアさんには詳しく見せていないが、ステータス欄には(スノーがメイン時のみ)と、書かれている事から、別々のスキルを貰った訳ではないらしい。いまはシュネーが主軸だから発動するスキルは【扇動】になるのだろう。


 そして【統一者】という特殊称号だが、ちょっとした効果があるようだ。

(この称号を持つ者は、知り合ったNPC・モンスターなどの者達から信仰・友好などに向上しやすくなる)という事らしい。

 ウサギさん達との関係性だが、(交友。ライバルというなの敵視)なんて書かれている。

 仲が良いのか悪いのか良く分からない表記だ。

 ちなみに、【統一者】というスキルを手に入れた事で、ステータスのメニュー欄に一枠【友好・信仰・好感度】なんていう欄が増えた。

 ティフォとケリアさんにそのことを相談したら、


「ギャルゲー?」


 という、謎の単語を発したので詳しく聞こうとしたら、視線をあからさまに逸らされて、「それ以上は聞くな」と言われた。


「んふふ、ティフォナちゃんったらしっかり男の子なのねぇ」

 なにやら妙にテンションが高い感じで、反応を示すケリアさんとは反対に。

「スノーに変な事を教えたら承知しないからね」

 という、凍る様な冷たい目で見ている。


「すまん」

『なんかみんな知っててオレだけ知らないって、何か、やだ』

「ん~、でもスノーちゃんには早いと思うのよね」


 ケリアさん、こう見えてもオレはティフォと同い年なんです。

 なんて簡単に言えない事がこんなにも悔しいとは。


 ―ーそれより、なんでオレが知らないのにシュネーは知っているのさ、おかしくない?

 ジッとシュネーを睨んでいると、多分オレの思っている事が解ったのかゆっくりと視線を外して、顔を背けていく。


「そうふくれっ面になるなって、今度ちゃんと教えてやるから」

『本当? 誤魔化して先延ばしにしない?』

「お、おう。もちろんだ」


 樹一のヤツ、絶対にあれこれ理由とか言って教えない気だったな。

 不意に耳元、というか自分からだろうかピピピッという音が鳴る。

 しばらくしてなり終え、ブンッ電子音が鳴ると目の前に文字盤が浮き出てきた。


『そろそろご飯よ~、お風呂もあるし。終わりにして下りてらっしゃい』


 そう書かれたメール便が届いた。


「もうそんな時間か、とりあえず今日はお開きにするか」

「そうねぇ、結構長くやってたからね。起きたらちゃんとストレッチしときなさいよ」



 オレ達三人はきちんと返事を返し、ログアウトする。





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