どうするかと聞かれても困る。
樹一の友達ということは、少なくともオレの同級生の可能性である可能性が高い。
しかもオレに確認してきたってことは顔見知りだと思う。
『え~っと、だれ?』
「あ~、愛称でいうなら『速足ピッグ』つって伝わるよな」
『あぁ、うん分かった』
ぷっくりとした容姿のオタクな友達だ。そう、樹一と仲の良い残念な悪友の一人。
昔の写真ではビックリするほどイケメンなのに、食欲旺盛なせいか、運動嫌いなせいか、周りからは『おデブ』と言われている。
速足というのは、運動嫌いなくせに運動神経は抜群という事で付いた名だ。
運動会や球技大会である意味では、学校の人気者であった。
「ボクは会ってみたいから別に良いよ~」
シュネーがお気楽に即答した。
オレの事を何一つ知らない友達というのは、心の準備とか距離感とか、色々と悩んでしまうし、無駄に想像しちゃうっていうのにな。
『オレは――』
【道の先にいる人達告ぐ~~、すまないが道を開けてく――、いやまって、出来れば助けてくれぇ~】
情けない大声を出しながら、遠くからこちらに向かって走ってくる人影が見えた。
道沿いに居るのは自分達だけ、遠くから聞こえてくる声の主はオレ達に語り掛けているのだろう。
「あら、良いシャウトね」
エフケリアさんは苦笑いを浮かべながらも、声音は何処か楽しそうに言う。
「あれ、なに?」
ティフォがエフケリアさんに尋ねた。
『……タイヤ?』
「大きなボールじゃない?」
オレとシュネーの見立ては、似通っている様で違うようだ。
転がっているというのは、同じだけど。
段々に見えてきた男の後ろには、タイヤの様に転がりながらも綺麗に列をなして、砂煙を巻き上げている物体が幾つも見えた。
「ん~、この森の奥にいる『エキーノス』ってモンスターね。まぁ、簡単に言っちゃえばハリネズミよ。主な攻撃方法はああやってまーるくなって体当たり……当たる時にトゲトゲになって串刺しにしてくるから用心なさい」
何とも軽く説明してくれるけど、それって怖くないですかと突っ込みたくなる。
話を聞いて想像してしまったオレとシュネーは顔を青くし、さっとティフォを盾にする様にし隠れる。
「まてまて、俺を盾にするんじゃない!」
リアルな冒険を楽しむゲームだけど、下手したらトラウマになったりしないのだろうか。
「大丈夫よ、戦ってれば慣れるわ」
何か悟った顔をして語るエフケリアさんは、物凄く、
『エフケリアさん、すいませんが男らし過ぎます』
貫禄たっぷりです。
もう、手を組んでポキポキとした音が聞こえてきて、やる気満々ですね。
「ふふ、そういうのも楽しむ要素よ」
「え、ヤル気ですか? アレを?」
「多数はワタシが引き受けて上げるから、あの戦士ちゃんと一匹ぐらい何とかしなさいな」
「え、奥に居るヤツって事は強いんじゃないの? こっちは動けるの俺だけ」
「エキーノスは集団だから強いのよ、一体だけなら初期の戦士で事足りるわよん」
ウィンクをティフォに向けて放つと、颯爽とモンスター集団に飛び込んでいく。
「ちょっとアンタ、後ろの子達と共闘して一匹ぐらい片付けなさい」
「ぬっ⁉ 承知! 助太刀感謝感激なんだな」
…………あれ、どっかで見たことあるような顔と体型だ。
ティフォナも気付いたのか、少し驚いた様子で目を見開いていた。
「その装備を見るに初心者と見る、我が敵を引き付けるから攻撃を頼むぞい」
喋り方も聞いたことがある。
「あ、あぁ。分かった」
あっちは気付いてないようだけど、何度かティフォナをチラ見している。
エフケリアさんは、転がってくるモンスターにラリアットをかましていく。
「我はトラン、女子を前に敵に背は見せない」
大楯を構えて一撃を受け止め、一匹の攻撃を引き付ける様に小突いて挑発をする。
攻撃を仕掛けてきた瞬間に楯を突き出して敵のバランスを崩した。
「いま、なんだぞ」
「オーケー、任せて」
ティフォナは長い棒を装備して、すかさず敵に向かっていく。
思い切り振ると長棒がしなって、風を切る音が聞こえたかと思うとハリネズミの胴に一撃を入れて続けて足払いしてから、顎のあたりに鋭い突きを連撃で打ち込んだ。
「へへん、どうわぁっ――」
そこまではカッコ良かったんだけど、最後の最後に長棒が自分の足に当たり、モンスターに倒れこむ。
チュッとオデコにキスをする感じで。
仲間になるモンスターはゆっくり起き上がってくる。
仲間になりたそうな瞳をしながら甘える様にティフォナすり寄ってくるのだ。
「くぅ! こ、こんなのを断れとっ!」
そして多分、オレ達には見えていないけど。
ティフォナの目には【仲間にしますか?】という画面が、手前辺りに浮いて見えているのだろうと思う。
もちろん拒否の選択をして、別のモンスターを探すことも出来るのだろうけど。
「あの様子を見るに、絶対に仲間にするよね」
『オレも、そう思う』
オレ達はもう温かい目で見てやる事しかできない。
「ピュピュピッ」
もう甘える様にすり寄っては、ティフォナの周りをクルクル回る。
ゲームのモンスターだからか、かなり可愛いぬいぐるみ見たいな見た目になっている。
つぶらな瞳で、体はバスケットボールくらいの大きさだ。
最初であったモンスターの時は軽自動車のタイヤくらいはあったと思うけど。
しばらく悩んでから、観念した様子で仲間にすることを決めたようだ。
――あぁ、丸まっている姿が可愛い。
な、撫でたい。
だけど、ちょっとでもオレが近づこうとすると。
ティフォの頭上に逃げてしまう。
「そう、落ち込むなって」
しょんぼりしているオレの頭をティフォが撫でてくれる。
『慰めるな』
「いや~、すまん」
そう言いながらも撫でる手は止めないんだよな。
「相変わらず逃げるのね~」
ケリアさんがハリネズミに腕を出すと、そこからトトッと伝って顔を擦りつける動作なんてしだすのに、オレからは出来るだけ離れようとする。
『む~む~、くそぉ、こんなデバフ要らないよ~』
小さいのと戯れたいのに。あんな、ぬいぐるみ見たいなの滅茶苦茶に撫でまわしたい。
一緒に遊びたい。
「あ~、えっと。助太刀、感謝なんだな」
フルプレートのアーマーを着た、ぽっちゃり君が丁重なお辞儀をした。
兜とは逃亡中に壊れて、装備が出来なくなったらしい。
「いいえ、大丈夫だった?」
「はい、お陰様で」
「あぁ、自己紹介がまだでした。ガブと言います」
「アタシはエフケリアよ。ケリアんとかケリアとでも呼んでちょうだい」
「あ、はい。あの~、先行攻略組のケリアさん、でしょうか?」
「今は違うけれどね。そのケリアで間違いないわ」
「お会いできて嬉しいです」
そんなやり取りをしている横で、ティフォだけは気まずそうにしている。
しばらくして、オレの後ろになんとか隠れようとしてくる。
身長的にも無理があると思う。
「で、レディ達のお名前は?」
ニコニコと笑みを浮かべながらも、その瞳はティフォを見ているようだった。
『スノーです』
オレの肩にひょっこりと小さい妖精が座る。
「ボクはシュネー」
シュネーを見て、かなり驚いた表情で一瞬だけこちらに視線が移った。
「……そう、よろしくなんだな」
オレと軽く握手をして、その手を今度はティフォの方へと伸ばす。
「さて、お嬢さんは……いや、貴方はティフォナスさんで、よろし?」
ちょっと低い声で、ガウはティフォの名前を当てた。
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