「圭吾……もう一回言って」
「うん、俺ももう一回説明してもらいたい」
匠と佑斗は頭を抱えて考え込みながら、圭吾に要求をした。そんな2人に対して圭吾は苦笑いした。
「いや、これで5回目だぞ。いい加減分かっただろ」
「いやいやいや!分かんねえよ!な、匠」
「うん、ちょっと理解が追いついてない」
佑斗と匠は納得してない様子で返した。
「……だから、愛華とクリスマスにデートして付き合うことになって初詣に一緒に行くことになったから、今のお前らからの誘いは断った。それだけだよ」
5回目となる説明をして圭吾は大きなため息をついた。匠と佑斗はガックリとうなだれた。
「お前さ、広瀬さんのことは今までの恋愛と違うって言ってたよな……かなり本気だって」
佑斗は圭吾の肩を掴んで問い詰める。圭吾は「そうだよ」とケロっとして答えた。
「じゃあ、なんでこんなに展開が早いんだよ。結局早々に手出してんじゃねえかよ」
佑斗に同調しながら、匠は呆れた顔をして圭吾を見た。
「でも、まだキスまでだぞ」
あっさりとさらなる事実を言い放つ圭吾に匠と佑斗は言葉を失った。
「お前さ……付き合うだけでも早いって言ってんのに、何をサラッとキスしたとか言ってんだよ……」
大きなため息をつきながら匠は圭吾を見た。佑斗はもう何も言う気力がないようで、匠にあとは頼んだというそぶりを見せて俯いてしまった。
「本気じゃなかったのかよ」
「いや、本気だって」
「じゃあ、なんで……」
「本気だからって早々に手出しちゃいけないってわけじゃないだろ?大事なのはそこにどんな気持ちがこもってるかってことと、あとはこれからどういう風に付き合っていくかってことだろ?」
匠からの問い掛けに圭吾は冷静に答えた。圭吾の妙に説得力のある言葉に対して匠は何も言えなくなってしまった。そして、自分は圭吾が羨ましいんだということに気がついた。自分の気持ちに正直に真っ直ぐに行動できた圭吾がとてつもなく羨ましかったのだ。
「……お前、すげえな」
匠はその一言に自分の思いを込めて呟いた。
「俺はダメだな、ヘタレで。本気だってことを言い訳にして、全然行動できてねえわ。本気だから慎重になるとか臆病になるのは仕方がないっていう言い訳作って逃げてるだけだな、俺は」
自嘲気味に話す匠に圭吾は「そんなことねえよ」と言葉を掛けた。
「お前の状況と俺の状況は違うんだから。お前が納得して後悔ないように行動できてるんなら、それでいいんだよ。それぞれの進み方があるんだからさ……俺がスゴいわけでもないし、お前がヘタレなわけでもねえよ」
圭吾は匠を見て微笑んだ。そんな圭吾の言葉と表情に、匠はこいつには敵わねえなと心の中で思った。色々と問い詰めるつもりが、結局自分が説得されて、しかも励まされてしまっている。
「今、お前が間宮さんに対して行動してることに後悔はないんだろ?」
そう圭吾に尋ねられた匠は「まあな」と頷いた。
「まあ、でも正直羨ましいし焦るわ。そんな話聞かされたら」
匠は笑いながらそう言ってうなだれた。すると、ずっと黙っていた佑斗が匠の肩を励ますようにポンポンと叩いた。
「頑張れよー、匠。圭吾はちょっと特殊だから気にするなよ。お前の感じでいいんだよ」
「サンキュ」
佑斗の言葉に匠は少し笑って答えた。軽くディスられた圭吾は笑って2人のやり取りを聞いている。佑斗は匠の肩に手を回した。
「初詣は2人で仲良くしような。濃い1日にしようぜ」
「なんかそういう言い方されると、気持ち悪りぃよ」
「ひどくね?俺なりの優しさなのに」
匠の言葉に佑斗はわざとらしく反応した後で、急に何かをひらめいた表情を見せる。
「初詣さ、間宮さんと荒牧さんも誘おうぜ」
佑斗の急な提案に匠は思わず「は?」と声を上げる。
「ほら、広瀬さんは圭吾と行くだろ?で、きっと宮下さんも彼氏と行くからさ……フリーなのは間宮さんと荒牧さんはじゃん」
「ま、そうだな」
「よし!じゃあ、決まりだ!さっそく、匠、連絡しろ」
「は?誰に?」
「いや、間宮さんに」
「連絡先知らねえし」
匠の言葉に佑斗は驚いている。仲良くなった女子や落とそうと思った女子の連絡先はすぐに聞けると豪語していた頃の匠を知っているので、匠が菜緒の連絡先を知らないということが信じられなかったのだ。
「圭吾、匠はヘタレかもしれない……」
「何だよ、悪りぃかよ!」
匠はバツが悪そうな顔をして反論する。圭吾は笑っていた。そして、匠をからかうように言った。
「確かにそれはヘタレかもしれない。お前らしくないじゃん、匠。さすがにそれはいくらでもチャンスあっただろ」
「うるせえな。しょうがねえだろ、なかなかいいタイミングがなかったんだよ」
匠は精一杯の言い訳をしたが、本当は勇気が出なかっただけだった。
「お前は間宮さんのことになると、女慣れしてた今までの自分を忘れちゃうんだな」
佑斗にからかわれた匠は何も言い返せずに黙り込むだけだった。
「じゃあ、しょうがねえな。偶然会えるっていう可能性にかけるしかねえな」
佑斗はそう言って笑いながら匠の肩を再び叩いた。匠は自分の情けなさに落ち込みつつも、心の中で生まれて初めて恋愛絡みの神頼みをした。
――初詣で菜緒に会えますように。
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