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第71話 電話越しの気持ち

公開日時: 2022年7月4日(月) 15:00
文字数:2,260

パーティーを終えて家に帰ってきた菜緒は、自分の部屋でスマホをじっと見つめている。


――ああは言ったけど、いざ行動するとなると緊張するな……


菜緒は自分なりに後悔しない行動を考えながら帰ってきた。考え抜いた結果、あまりにも急すぎるのでやはりクリスマスに誘うのはやめておこうという結論に至ったが、せめて声だけでも聞きたいから電話をしてみようと思った。


だが、いざスマホを目の前にして淳人の連絡先を表示する画面を開くと勇気が出なかった。本当にただ声が聞きたいという理由だけで電話なんかしていいものだろうか、と葛藤していた。


クリスマスだからという理由付けをしてみようかと思ったが、淳人がそんなにクリスマスに重きを置いていなくて、何を一人で浮かれているんだと思われたらどうしよう、とかネガティブなことを考えてしまい、どうしても発信のボタンを押すことができなかった。


頭を抱えながら悩んでいると、着信を知らせるスマホの音が鳴り響いた。菜緒が慌てて画面を確認すると、そこに表示されたのは“蓮見くん”の文字だった。その文字に菜緒は一瞬固まってしまったが、すぐに我に返って通話ボタンを押した。


「はい!」


焦りと緊張で思いのほか勢いのいい大きな声を出してしまった。


「……あ、えっと蓮見です」


淳人がその声に驚いている様子が伝わってきて菜緒は恥ずかしくなり、次に発する声は必要以上に小さくなった。


「はい……間宮です……」


「ごめんね、急に。忙しかった?」


「え?あ、全然大丈夫」


「なら良かった。なんか電話に出る声がすごい勢い良かったから」


電話の向こうで淳人がクスクス笑っているのが聞こえた。


「あ……それはちょっと慌てたのとビックリしちゃって……」


「そうだよね。初めて掛けたしね」


「うん、それと……ちょうどわたしも蓮見くんに電話しようか葛藤してたから余計に……」


「葛藤してたの?」


菜緒から出た少し固い言葉に、淳人は不思議そうなトーンで聞き返した。菜緒は葛藤していた本当の理由は伏せて、クリスマス云々の方を悩んでいた理由として伝えた。すると、淳人は「そっか」と言いながら笑っていた。


「そんなに悩まなくてもいいのに……確かにクリスマスだからってそんなにテンションあがるタイプじゃないけど、だからといって間宮さん浮かれてんなーなんて冷たいこと思わないよ……むしろ……」


そこまで言って淳人は少し黙り込んだ。電話越しにちょっと緊張しているような様子が伝わってくる。


「……間宮さんにとってクリスマスが特別で、そういう日に俺に電話を掛けようって思ってくれたなら嬉しいよ」


「そっか……そう言ってもらえて良かった……ちょっと考えすぎちゃったな、わたし」


淳人からの優しい言葉を聞いて、菜緒は恥ずかしそうに答えた。


「……ちなみに、蓮見くんはどうして電話掛けてきてくれたの?」


「え……あ……」


淳人は急に歯切れが悪くなる。そして、かなり声のトーンを落としてその理由を告げた。


「……声、聞きたくなったから」


その淳人の言葉を聞いて菜緒は胸の鼓動が一気に速くなるのを感じた。さらに顔全体も熱くなってきた。


「クリスマス……まだイブだけど、そういう風に思ったってことは、実はテンション上がってんのかな、俺」


淳人は恥ずかしさを打ち消すように自虐的に笑った。菜緒はドキドキが止まらず声を出せずにいた。


「……間宮さん?」


電話の向こうから一向に菜緒の反応が聞こえないので淳人は不安になって呼びかけた。


「なんか、困らせちゃったかな?」


「あ、違うの!……すごく嬉しくて……あと、ごめんね、1つ隠してたことがあって……」


菜緒は慌てて返事をした後で、申し訳なさそうな声で話を切り出した。


「実は電話しようと思った本当の理由は……蓮見くんの声が聞きたかったからなの……クリスマス云々は後から思ったことで……その、声が聞きたいってだけで電話しちゃっていいのかなって悩んじゃってなかなか電話できなくて……なんか、ずるいね、蓮見くんがそう言ってくれてから、こんな風に言うなんて……」


「うん、ずるいよ」


菜緒の言葉に淳人は落ち着いたトーンで返した。その反応を聞いて、嫌な気持ちにさせってしまったんだ、と菜緒が「ごめん」と言い掛けると、それを掻き消すかのように淳人が言葉を続けた。


「でも、そうやって悩む気持ちも分かる。俺も悩んだから……迷惑かもしれないって……だけど、間宮さんにはちゃんと正直でいたいって思ったから……電話したし、理由もちゃんと言った……だからさ、間宮さんも怖がらないで、俺にもっと正直でいていいよ。どんどん気持ち話して……俺もそうするから……その代わり、嫌な思いした時もきちんと言おう」


淳人の言葉を聞いて、菜緒の心の中にはドキドキや嬉しさとはまた違った感情が芽生えていた。そんな風に自分と向き合おうとしてくれていた淳人の真剣さに心をガシッと掴まれたようなそんな感覚だった。そして、自分が嫌われたくないがためにクヨクヨと考え込んでいたことがとてつもなく情けなくなった。


「……蓮見くん、ありがとう」


「いや、勝手な俺の思いだから……それこそ嫌だったら……」


「ううん、嫌じゃない……わたしも蓮見くんに対してちゃんと正直でいたい。感じたこと思ったこと、誤魔化さずにちゃんと伝えたい」


「……うん、ありがとう」


菜緒の答えに淳人は嬉しそうにお礼の言葉を伝えた。


それから2人は1時間近く話を続けた。正直に誤魔化さずに気持ちを伝えながら色々な話をした。ただ、2人とも1番伝えたい正直な気持ちを話す勇気はまだ出すことができなかった。

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