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第21話 何気ない時間

公開日時: 2022年6月13日(月) 23:59
文字数:1,394

球技会当日。実行委員の最終的な打ち合わせを終えて、菜緒と淳人は実行委員たちが待機するための教室で話をしていた。


「うちのクラスは……バレーAチームの第2試合目か……」


青楓高校の球技会は二日間にわたって実施され、1日目は体育館での競技であるバレーとバスケが行われる。かおりと愛華がいるチームだ。


「宮下さん、気合い入ってたよ。なんか、先輩も含めて野球部員とマネージャー全員に宣戦布告してた」


淳人は昨日の部活でのかおりの様子を思い出していた。菜緒はそれを聞いて何となく想像がついておかしくなった。


「かおり、相当気合い入ってたからなー」


「でも、うちのクラスは比較的みんな積極的だよね、球技会に……まあ、約1名危なかったけど……」


菜緒はすぐにそれが誰のことなのかわかった。


「吉川くん、結局あれからちゃんと練習参加してくれてるもんね」


匠はあの日以来きちんと練習に参加するようになった。元々運動神経がいいので、すぐにBチームにも溶け込み、ちゃっかり今日はスタメンで出る予定らしい。タイミングがないだけなのかもしれないが、菜緒や淳人にも全く絡んでこない。


ちなみに、あの日以来淳人に対するクラスメイトたちの接し方は日に日に好意的になっていた。ただ、一向に淳人から積極的に話しかける様子はなく、表情も変わらないままで、周りと壁を築いたままだった。


菜緒はそんな淳人を見ていて、自分と話す時は表情が変わるし色々話してくれるから心を許してくれているのかな、と嬉しく思いつつも、どうしてそこまで頑なに周りと壁を作り続けるのかと疑問でもあった。


中学の部活での出来事がきっかけなんだろうなとは思う。淳人が野球部を見捨てた、そんな噂があることを愛華から聞いたことはある。だけど、所詮噂でしかない。噂に惑わされず自分で淳人のことを知っていこうと決めている。だけど、やっぱり気になってしまう。


菜緒はそんなことを考えながら、隣で今日のスケジュール表を確認している淳人の方をチラリと見た。すると、淳人も菜緒の方をチラリと見た。急に目が合って驚いてしまい、菜緒は慌てて目を逸らして自分が持ってるスケジュール表に視線を移した。ちょっと目が合っただけなのに、菜緒は自分の顔が熱くなるのを感じていた。


「蓮見くんはバスケの3試合目に出るんだよね」


目を逸らしてしまった気まずさを掻き消そうと菜緒は話題を振った。淳人は菜緒の反応に一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、特に気にする素振りもなく「そうだね」と返事をした。


「がんばってね。すごく応援するから」


菜緒は顔の熱さを誤魔化そうと、思いっきりの笑顔で淳人の方を見た。すると、今度は淳人の方が目を逸らしてしまう。手で口を抑えながら「うん」と頷いた。


「……ありがと」


なんだかテレくさそうに淳人は菜緒の方をチラリと見てお礼を言った。


「あ、じゃあ、俺そろそろ係の番が来るから行ってくるね」


淳人はそう言ってそそくさと教室から出て行ってしまった。淳人の様子を見て、何かまずいこと言ったかな、と菜緒は考えたが、さすがに今の言葉はどう考えても気を悪くするようなものでもないし淳人もお礼を言っていたし、多分それはないだろうと思った。じゃあ、なぜ?と疑問は消えなかったが、考えても仕方ないなと自分を納得させた。


バレーの試合の時間まで暇だな、と思いながら、なんとなくスマホをいじっていると「あの……」と突然声をかけられた。

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