「かおりたち、どうなったかな……」
帰り道、菜緒は心配そうに呟く。淳人はその様子を見て優しく微笑む。
「上手くいくといいね」
菜緒は力強く頷いた。思わぬ形でかおりと2人きりになって正紀は大丈夫だったか、今日のことを自分と淳人の距離を近づけるためだと思い込んでるかおりが正紀から告白されたらどんな反応をするだろうか、とか色々なことを考えてしまう。自分が考えたところでどうにかなるものではないのだが、大事な存在である2人がどうか両思いであればといいという願いから心配が止まらなかった。
「告白って緊張するんだろうな」
「蓮見くんは告白したことないの……?」
「いや、なくはないけど……」
淳人は言いづらそうに返事をする。なくはないだろうなと思いつつも、淳人が誰かに告白したことがあると本人の口から聞いて、菜緒は軽くショックを受けた。勝手な話だが、淳人が誰かを好きになったことがあると知って、何だか妬けてしまったのだ。本当に勝手な話だけれど……。
「その時は緊張しなかったの?」
「いや、それが……幼稚園の時の先生と小1の時近所に住んでた中学生のお姉さん相手だったからさ……緊張とか関係なく告白してた」
淳人はみるみる顔を赤らめていた。暗くてその表情は菜緒からはよく分からなかったが、相当恥ずかしがっているのが伝わってくる。小さい頃の淳人が年上の女の人に告白してる様子を想像すると、菜緒はなんだか微笑ましい気持ちになって思わずクスッと笑ってしまった。
「年上が好みだったんだね」
「……なんか、すごく恥ずかしいんだけど……言わなきゃよかった……」
淳人はテレくさそうに頭を掻いた。そして、話題を自分から逸らすために菜緒に尋ねる。
「……間宮さんはある?告白したこと」
その質問に菜緒は言葉に詰まる。今までの人生で一度だけ告白したことはあるが、それは菜緒にとって触れたくないことだった。ただ、自分は淳人に質問しておいて、自分だけ答えないわけにもいかない。
「うん、一回だけ。中学生の時の先輩に……すごく緊張したのは覚えてる……」
菜緒は自分の声が震えてるのに気がついた。そのせいか不自然な間ができてしまっているのもわかった。
「そっか……頑張ったんだね……きっと、木村も今頃頑張ってるかもね」
菜緒の変化に気づいたのか、淳人は少しだけ話題を逸らすように正紀のことを心配した。
「うん。……きっとね」
淳人が気を遣ってくれているのが分かり、菜緒はありがたい気持ちになると同時に自分が情けなくなった。以前匠と話した時もだが、トラウマを克服できない自分の微妙な反応のせいで無駄に相手に気を遣わせてしまっていると感じていた。
「俺もいつか頑張る日が来るのかな」
ポツリと呟いた淳人の言葉に菜緒は「え?」と返した。
「ほら、さっき言った通り、俺の人生での告白って緊張と無縁の勢いだけのものしかないからさ……この先もし告白するってなったら、相当緊張するだろうし、相当頑張らないといけないんだろうなって思って」
蓮見くんが誰かに告白する。そのことを想像すると、菜緒は胸がチクッと痛むのを感じた。だけど、自分にそれをどうこういう権利はない。このままの距離感でいいと納得した上で淳人のことを好きになったんだから。
「その時は応援するよ。なんなら、今回みたいにお膳立てが必要だったら呼んで。この懐中時計のお礼も兼ねて」
菜緒は自分の気持ちを抑えて明るく言った。
「じゃあ、その時は間宮さんに相談する。間宮さんが応援してくれたら頑張れる気がするよ」
「任せておいて」
微笑みながら淳人にそう言われて、菜緒は複雑な気持ちだった。でも、仕方ない。自分がそうすると決めたことなんだから。トラウマも後悔も乗り越えられない自分は、これ以上の気持ちを淳人に望んではいけないんだ。菜緒は自分に言い聞かせた。
今年の夏祭りは、菜緒にとって色々な気持ちが渦巻いた1日になった。
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