「まさか沙苗がなー」
おにぎりを頬張りながら遠くを見つめて、佑斗は呟いた。その様子を見て匠と圭吾は苦笑いする。
「これからずっと男だけの昼飯かよ」
そういって大きくため息をついた佑斗を圭吾は慰める。
「しょうがねえじゃん。あいつらがそうしたいって言ってんだから。何も一生口聞くなって言われたわけじゃないんだから、そんなに落ち込むなよ」
あれから沙苗は葉月と加恋に匠とのことを話し、これまでのことを謝った。葉月と加恋はそれを受け入れて、また3人で一緒に過ごす事になった。だが、沙苗の中には今までのように匠たちとは一緒にいられないという気持ちがあり、それを葉月と加恋が理解し、結果匠たちとはお昼を一緒に食べることをやめるということになったのだ。
「なんか、悪いな」
匠は申し訳なさそうに佑斗と圭吾の顔を見た。
「まあ、お前が謝ることじゃねえよ。沙苗もお前も正直に自分の気持ちを伝えた結果なんだから」
そう言ってフォローする圭吾の言葉に、口ではあんな風に言っていた佑斗も隣でウンウンと頷いている。そんな2人を見て匠は微笑んだ。
「でさ、匠はいつその気持ちを間宮さん本人に言うの?」
佑斗の突然の問いに匠は飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「なんだよ、急に」
「いや、単純に気になって。そこまで本気なら早く言えばいいのに」
ケロッと言い放つ佑斗の肩に手を置いて圭吾は首を横に振った。そして、匠の方を見る。
「本気だからこそだよ。な?」
圭吾の言うとおりだったが、匠はすんなり認めるのが恥ずかしくなり、わざと視線をそらして何も答えなかった。佑斗は「ふーん」と言いつつもなんだか納得できない顔をしている。
「ちなみにさ、匠は間宮さんのどういうところが好きなの?」
「お前、なんか今日グイグイ来るな」
やたらと質問を浴びせてくる佑斗に匠は苦笑いをした。
「だってさ、彼女なんか暇つぶしとか女なんて簡単とか恋愛なんて遊びとか……」
佑斗は匠が過去にした発言を次々と並べ始める。匠は顔をしかめながら手で制しつつ佑斗を止めた。
「……ちょっ、やめてくれ」
我ながらなんてことを言っていたのかと、匠は恥ずかしくなった。でも、確かにほんの少し前までは心からそう思っていた。だが、今はとてもじゃないがそんな風には考えられない。こんなにも人の心は変わるのかと自分でも驚いている。
「自分でもさ、よくわかんねえんだよ。何で間宮さんに本気になってんのか……正直タイプではないし、特別気が合うわけでもないし……好きになる理由なんかないはずなんだけどな」
じっくりと考えて言葉を選びながら匠は話している。
「でも、なんか気づいたら目で追ってるし、他の男と話してるとムカつくし、俺と話す時に笑ってくれるとすげー嬉しいし……」
匠はそこまで話した時、佑斗と圭吾がニヤニヤとこちらに視線を送っているのに気がつく。そして、無意識に真面目に語っている自分のことが急に恥ずかしくなった。
「何、ニヤニヤしてんだよ!」
佑斗と圭吾に向かってそう言った匠の顔は真っ赤だった。
「匠の気持ちはよーく分かったよ。すっげぇ本気なんだな」
佑斗は少しからかうように言いながら匠の背中をポンポンと叩いた。匠は「うるせえよ」としか言い返せなかった。そんな匠を佑斗はさらにからかって、2人のちょっとした言い合いが始まる。そんな様子を見て笑いながら圭吾は匠に声を掛けた。
「でもさ、匠」
ちょっと真面目トーンの圭吾の声に、匠と佑斗は言い合いをやめて不思議そうに圭吾の方を見た。
「客観的に見て、間宮さんの中でお前は恋愛対象の候補にすら入ってないぞ」
急な圭吾の指摘に匠は軽くショックを受けたが、それに関しては自分でも気づいていることだったので「分かってるよ」とだけ返した。
「ならいいんだけど、多分今のままだと間宮さんと蓮見がくっつくのは時間の問題」
「なんだよ、急に」
「この先お前が努力したとしても間宮さんと蓮見がくっつく可能性は高いかもしれないけどさ……せっかく本気で好きになれる相手見つけたんだったら後悔しないようになってことだよ……同じ振られるにしても、少しくらい間宮さんの心動かすようなことしろよ」
なぜ圭吾がそんなことを突然言い出したのかはわからなかったが、確かに言う通りだなと思った。淳人に対して強気でライバル宣言した割に、今のところ匠はこれといって何もできていない。菜緒の心が蓮見の方にあるのに気づいているからこそ、怖くて何もできないというのが正しいのかもしれない。だけど、圭吾が言うように、せっかく本気で好きだと思える相手が見つかったのに本気でぶつからないままでいたら、きっと後悔が残るだけだ。
「……そうだな……やれるだけやってみるわ」
そういって匠は大きく伸びをしながら微笑んだ。
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