「荒牧さん!マジでありがとう!!」
佑斗は返ってきた答案用紙を握りしめながら玲に何度も頭を下げた。
「俺こんな点数取ったの初めてだよ」
「……何点だったの?」
「これ!」
佑斗が自信満々で見せた点数は50点だった。それを見て玲は苦笑いする。
「……良かったね」
「お前らは?」
佑斗は匠と圭吾に尋ねる。2人は少し気まずそうにしながら、自分の答案用紙を見せた。
「え……匠が85……圭吾は90!?」
2人が自分の点数より遥かに上の点数を取っていることに佑斗はショックを受けた。
「何で?お前らそんなに点数高いんだよ!」
「神戸くんさ、あの日わたしに教えてもらっただけで満足して家で何もしてないでしょ?それでも50点取れたんだから頑張ったんじゃない?ただ、もっと上は目指せたと思うけど」
ショックを隠し切れない佑斗に向かって玲は冷静に言い放った。
「……吉川くんは、家で少なからず復習したんだと思う。あとは、元々持ってる才能かな……授業中寝てたりサボってたりするから今まで結果が出てなかっただけでしょ」
匠は図星だったのか、少し恥ずかしそうにしているだけで何も言い返さなかった。
「……藤山くんはいつも授業真面目に聞いてるしノートもちゃんと取ってるしコツさえ掴めばこれくらいできると思ってた。今までちょっと要領が悪かっただけだから」
玲はまるで教師、いやそれ以上の観察力でそれぞれに寸評を与えていった。3人はそれを黙って素直に聞いている。菜緒は愛華とかおりと共に、その様子を見ながら笑っていた。
「完全に主従関係が出来上がってるね」
かおりの言葉に菜緒と愛華も同意して頷いた。
「……でも、荒牧さん。約束は約束だよね?」
黙って話を聞いていた、急に佑斗が強気な態度を取る。悠斗の言葉を聞いて圭吾と匠はハッとして何かを思い出したようだ。それは玲も同じだった。
「そんな約束したな……広瀬さんも覚えてるよね?」
圭吾はそう言いながら愛華に微笑みかける。愛華はその表情に自分の胸がドキッとするのを感じながら、「うん」と返事をした。菜緒とかおりは話についていけず顔を見合わせている。
「わかってる……でも今日だけだからね」
玲は諦めたようにため息をついた。その返事を聞いて佑斗は大喜びする。圭吾と匠も心なしか嬉しそうだ。
「約束って……?」
菜緒が不思議そうに尋ねると、匠が説明してくれた。みんなでテスト勉強をした日、菜緒とかおりが帰った後である約束を交わしていたらしい。3人が50点以上取れたら一緒にお昼を食べる、と。
「なるほど……確かに3人とも50点以上だ」
菜緒は納得して頷いた。佑斗は50点ピッタリだが、50点以上であることに間違いはない。玲は大きくため息をついて菜緒とかおりを見る。
「大丈夫……2人に迷惑はかけないから……わたしと愛華が犠牲になるから」
「玲……犠牲ってそんな……」
愛華はフォローを入れながら申し訳なさそうに3人の方を見る。3人も玲のこの感じには慣れてきたらしく、特に気にしていないという素振りを見せた。
「っていうか、わたしたちも一緒でよければ一緒に食べるし。ね、かおり?」
菜緒はこのままだと愛華が気疲れするだけの昼食になってしまうんじゃないかと思い、助け舟を出してみた。かおりも同じ気持ちだったようで大きく頷いた。菜緒の言葉とかおりの反応を見て佑斗は満面の笑みを見せる。匠も密かに嬉しそうな表情を浮かべている。
「じゃあ、決まり!みんなでお昼食べよう!」
佑斗は心の底から喜びを表現した。そんな様子を玲は呆れながら見つつ、菜緒たちの方にコソッと呟く。
「本当にいいの?無理してない?嫌なら断っていいんだよ。むしろわたしは断りたい。でも約束は約束だから」
菜緒とかおりは笑いながら「大丈夫、大丈夫」と答えた。浮かれている佑斗は気づいていないが、匠と圭吾には玲がコソッと言った言葉が全て聞こえていた。
「俺ら、親の仇かなんかなのかな」
「もう、そう思った方がいいかもな」
圭吾が苦笑いしながら言った言葉に匠は笑って同意した。そして、決して表には出せないが、匠は自分が佑斗以上の喜びで溢れているのを感じていた。菜緒と一緒の時間を過ごせる、そう思うだけでとてつもなく嬉しかった。
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