「わー!すごい!」
「これ1人で作ったの?」
「天才!」
愛華が作ったクリスマスケーキを見て、菜緒、玲、かおりは次々と驚きの声をあげた。
「うん、ネットに上がってた動画を観ながらだけど」
愛華はちょっぴりテレくさそうに微笑んだ。
今日はクリスマスイブ。クリスマス当日は、かおりが正紀とデートなので、4人はクリスマスイブである今日、愛華の家に集まって女子だけのパーティーをすることになった。そして、そのパーティーのためのケーキを愛華が手作りしてくれたのだ。そのクオリティは高く、お店で売っていてもおかしくないくらいの出来栄えだった。
「愛華が作ってくれるお菓子っていつもすごいけど、これは特にすごい」
かおりは感心しきりだった。菜緒と玲もその言葉に同意した。これまでも愛華はお菓子を作っては時々菜緒たちにプレゼントしてくれていた。それらも高クオリティだったのだが、今回のケーキはさらにその上を行っている。3人が喜んでいる様子を見て愛華は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。喜んでもらえて良かった」
愛華のケーキを中心にその他の料理やお菓子、飲み物をテーブルに並べてパーティーは開始された。始めのうちは他愛もない会話だったが、話題は自然と恋バナになっていた。
「えー!蓮見と連絡先交換したの?」
菜緒の話を聞いてかおりは驚いていた。愛華と玲も初めて聞く話だったのでビックリした様子だ。さらに、それが淳人から言い出したことだと知って3人は余計に驚いていた。
「いい感じじゃん!」
かおりが嬉しそうに笑うと菜緒もテレながら微笑んだ。
「せっかくだから冬休み中に誘っちゃえば?初詣とかさ!あ、なんなら明日のクリスマスとか!」
ワクワクした様子で愛華が提案してきたが、菜緒は首を思いっきり横に振った。
「え!いや、それはちょっとハードル高い……電話で話せるだけでも十分だし」
「えー、もったいない。誘っちゃえばいいのに。クリスマスに好きな人と過ごせるなんて幸せだよ」
そう言った愛華は明らかに頭の中に誰かを浮かべている表情をしていた。それをかおりは見逃さなかった。
「愛華……今誰を思い浮かべたの?」
かおりの鋭い質問に愛華はあかさらまに動揺した。菜緒と玲は何のことだか分からないといった顔で2人の様子を見ている。
「最近気になってたんだけどさ、愛華かわいくなったよね。いや、元からかわいいよ?でも、より外見とかに気を使うようになった気がする。少しメイクの感じも変えたりしてない?」
かおりからの指摘に愛華は困ったような表情を浮かべて「そうかなぁ」と誤魔化そうとしている。そんな愛華をかおりはじっと見ていた。
「ほら、もうすぐ年も明けるしさ、新しい年に向けてちょっぴりイメチェンしようかなー、なんて」
ドギマギした様子でそう答える愛華は何かを隠している。菜緒と玲もそんな風に感じ始めて、愛華の方に視線を注いだ。愛華は3人の自然に耐えられず目を逸らして目の前にあるジュースを飲んで、とりあえずその場を凌ごうとした。
「……誰のこと好きなの?」
そんな愛華を逃すまいと、かおりはついに核心に触れる質問をした。その質問を聞いて、薄々何かを気づき始めていた菜緒と玲も、やはりそういうことかと納得した表情を浮かべている。
「え?わたし、そんなこと言った?」
顔を赤くしながら愛華はとぼけて見せた。3人は少し笑みを浮かべながら愛華の方を黙って見ている。愛華は3人の圧に耐えきれなくなり、顔にテーブルを伏せて観念した。
「わかった……言うから。そんなにじっと見ないで……」
そして愛華はゆっくりと顔を上げて小さな声でその名前を明らかにした。
「……藤山くんのことが好きなの」
藤山くん……圭吾のことが好きだという愛華の言葉が意外すぎて3人は何も言えなかった。
「ちょっと、何か言ってよ!」
愛華はその沈黙に耐えられず思わず大きな声を出した。その声に3人はハッとする。
「あ、ごめん……ちょっとビックリして」
かおりは申し訳ないという表情を浮かべていた。
「愛華のタイプって藤山くんと真逆の感じじゃなかった?爽やか王子様タイプって……藤山くんはどちらかというとワイルド系というか」
菜緒の言葉にかおりと玲も頷いている。
「うん、まあそうなんだけど……好きになったら関係ないよね」
愛華は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑っていた。
「……ちょっとチャラいけど、まあ悪いやつじゃないと思うよ」
男嫌いの玲が男子を認めるような発言をしたので、愛華は驚いた顔をしている。
「席隣になるまでは分かんなかったけど、結構しっかりしてるし真面目なところあるし」
「確かに。すごく周りのことよく見てて気遣いもできるよね」
玲の言葉に菜緒も頷きながら言葉を加えた。愛華はそれを聞いて嬉しそうにしている。
「そうなの!それで結構優しいところもあって考え方も大人っぽくて、でもちょっと冗談言ったり子供っぽい感じもあって……」
嬉しくなった愛華は勢いよく圭吾の良いところを話し始めたが、途中でハッとする。気がつくと、3人がニヤニヤしながら愛華のことを見ていた。
「そっか、そっか。いつの間にかそんなに好きになってたなんて……」
そう言いながらかおりは何だか満足げに頷いていた。愛華は火が出そうなくらいに顔を赤くしていた。
「で?愛華は藤山くんを明日誘うの?」
「え?いや、それは……実は……もう……誘われてて……」
かおりの質問に愛華は言いづらそうに答えた。3人は一瞬言葉を失った後、一斉に「えー!」と声を上げた。
「え?待って、展開早くない?」
かおりは焦った様子で愛華を見た。菜緒もそれに激しく同意をしながら、少し落ち込んだ様子だ。
「わたしなんか、最近になってやっと連絡先交換できたというのに……」
「いや、菜緒、友達としてはそれくらいのペースの方が見てて安心できる……」
落ち込む菜緒に玲は声を掛けながら愛華を心配そうに見ている。愛華はそんな玲の気持ちを感じ取ったようで、少し慌てて話し始めた。
「玲が心配する気持ちは分かるよ。でもね、わたしの場合はこのタイミングなのかなって思って……どうなるか分からないし、展開が早すぎるとも思うけど、とにかく今はクリスマスを藤山くんと過ごしたいって気持ちだけなんだ……後のことはまた後で考えればいいのかな……って、余計心配させるようなこと言ってるね」
愛華は自分の気持ちを一気に述べた後、自分の話が何のフォローにもなってないということに気がつき苦笑いをした。
「正直、すごく心配……でも愛華が決めることだもんね。……もし、藤山君が愛華を傷つけるようなことしたら、わたしが藤山くんを懲らしめるから、すぐに言ってね!」
玲は不安もありつつも愛華の気持ちを尊重しようと、冗談っぽく言いながら愛華に笑いかけた。
「ま、良いんじゃない?恋愛のペースは人それぞれだし。菜緒みたいにじっくり進むのも愛華みたいに急展開で進むのもアリなんだよ……わたしみたいにその中間くらいでもいいし」
かおりの言葉に菜緒も愛華も顔を見合わせて笑った。
「愛華が後悔しないような選択をしたんだもんね。わたしはやっぱり誘うのは無理だけど、わたしなりに後悔しないように行動してみるよ」
菜緒がそう言って微笑むと愛華も笑顔を見せて頷いた。
「さて、ここからはもっとじっくり掘り下げていくよ!」
かおりはニヤッと笑って愛華を見た。菜緒と玲も楽しそうに笑いながらそれに同調した。愛華は何とか逃れようとしたが、そうはいかず、パーティーが終わるまで愛華の恋に対する質問攻めは続いたのだった。
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