放課後になっても戻ってこない匠を心配して圭吾は匠の荷物を持って屋上に様子を見に来た。匠は屋上にあるベンチに寝そべっている。
「おい、いつまでここにいるんだよ」
圭吾は寝そべっている匠の体の上に匠のバッグを載せた。匠は大きなあくびをしながら起き上がる。その様子を見て圭吾は呆れる。
「寝てたのかよ」
「……悪りぃかよ」
匠はフーッと大きく息を吐きながらベンチに座り直す。スペースが空いたのを見て圭吾は隣に座った。
「……なんか悪かったな」
圭吾は匠がどんな意図でその言葉を発したのか理解できたが、あえて「何が」と聞き返した。匠の深い部分の気持ちを知りたいのはもちろんだが、匠に話すタイミングを与えることで少しでも匠の気持ちがスッキリできればと思ったからだ。
「ずっとイライラしてただろ、俺。……自分でもよく分かんねえんだけどさ、あの女の態度が妙に癪に触るっつーか」
「……まあ、ぶっちゃけホームルームでの件はそこまで引きずるようなことでもないもんな」
圭吾は正直な意見を言った。匠は「そうなんだよ」と同意しながら両手を頭に当て天を仰ぐ。
「なのに、ムダにつっかかって言い負かされて、余計腹立って……」
考え込む匠に、圭吾は見透かしたような顔をして言葉を投げかける。
「思い通りにいかねえ女だからだろ?」
圭吾の言葉を聞いて匠は眉間にシワを寄せた。言っている意味がよく分からなかったからだ。
「どういう意味だよ」
「そのまんまだよ」
「それが分かんねえんだよ」
ムスッとした表情をする匠に対して圭吾は少し楽しそうに笑う。
「俺らみたいなやつらに対する女子の反応ってさ、大きく2つに分かれるじゃん。沙苗たちみたいな、ちょっと派手なタイプはさ、すげー仲良くしてくれんじゃん。……ぶっちゃけモテるっていうか、チヤホヤしてくれるっていうか」
中学時代に仲良くしてた女子たちのことを思い返しながら、匠は「確かにな」と頷く。
「で、真面目な女子とか大人しい女子は俺らのこと怖がって近寄らないし話しかけてこないし、面と向かって文句なんかも言ってこなかっただろ?」
匠は中学時代にいたそういうタイプの女子たちの反応を思い出しながら、再び「確かにな」と言って頷いた。
「それだけ分かりやすく違うとさ、女子への接し方って楽だし、反応が予想つくからある意味こっちの自由自在じゃん。……言葉悪いけど、女ってチョロいなって思ってるだろ」
「そうだな」
ちょっぴりふざけたドヤ顔をしながら放たれた圭吾の言葉に匠は少し苦笑いをして同意した。
「……でも」
そう言って圭吾は急に真面目な顔をする。そして、ニヤリと笑みを浮かべて匠の方を見た。
「間宮さんはどっちでもなかった」
その言葉に対して匠は少し考え込み納得した。
「“女ってこういうもんだろ”っていう枠から外れた反応をしてきたから、お前ん中で予想外すぎて、それがよく分かんなくてムカついたんじゃねえの。“なんで思い通りの反応しねえんだよ”って。ホームルームのときもそうだし、お前がつっかかっていた時の反応もそうだし」
「……確かにそうかもしれねえな」
妙に説得力のある圭吾の話に匠は笑うしかなかった。そして、本当にその通りだ、と心の底から思った。
「平気で刃向かってきたし、全然ひるまねえし、すげー言い返してきたし……確かにいなかったな、ああいうタイプは」
匠は菜緒の自分に対する態度を思い出しながら、また天を仰いだ。
「やっぱムカつくわ、あの女」
そう言いながらも、匠は面白そうに笑ってた。そんな匠の様子を見て圭吾はホッとしたように笑う。
「ま、しばらくはお前の天敵だな」
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