「あ、そういえば葉月からメッセージ来てた。3人に見せてって」
そう言って菜緒はスマホの画面を匠たち3人に見せた。そこにはそれぞれへのメッセージが書かれていた。
『佑斗、くれぐれも品のない会話をしないこと』
『圭吾、すぐに口説かないこと』
『匠、感情を表に出しすぎないこと』
3人はそれらを見て言葉を失っていた。特に佑斗はその内容に不満そうにしている。
「……あいつ、誤解を招くようなことを」
「でも、そういう会話してなかったからわざわざこんなこと言わないでしょ。こんな風に言うってことはよっぽどだったってことだよ」
悔しそうに呟いた佑斗に対して玲は冷たく言い放つ。図星だった佑斗はそれ以上何も言えず落ち込む。
「ま、確かに葉月の言う通りだよ。それぞれ気をつけよーぜ」
圭吾は佑斗の肩を叩きながら笑った。
「っていうか、いつの間に葉月とそんなに仲良くなったの?」
匠は菜緒に問い掛けた。圭吾と佑斗もそれは気になっていたようで、興味津々で菜緒の方を見た。文化祭の係が一緒で色々と話しているのは見かけていたが、下の名前で呼び合うほど親しくなっていたのは驚きだった。
「文化祭の係で一緒になって色々話すようになって、そしたら通ってる英語の塾が一緒だってわかって……」
「英語の塾!?」
「あいつ、そんなの通ってたの?」
菜緒から発せられた葉月の知られざる情報に佑斗と匠は驚きの声を上げる。圭吾も意外だという顔をしていた。
「うん、コースが違うから曜日とかは被ってないんだけど。それで、英語の話とかもするようになって、メッセージ交換したり……」
3人は改めて「知らなかった」と呟いた。すると、玲がそんな3人に鋭い視線と言葉を浴びせる。
「あんたたちに話してもしょうがないと思ったんじゃない?それか、あんたたちが耳を傾けようとしなかったとか……どーせしょうもない話とか上っ面だけの会話してたんでしょ」
玲の言葉に3人はハッとした。言われてみれば、葉月も含めて沙苗や加恋とあまり深い話をしたことはなかったかもしれない。いつも自分たちが好き勝手に話して、それに3人がリアクションして盛り上げてくれていた。3人から話を振ることは少なかった、というより自分たちが聞こうとしていなかったのだろう。玲に言われて、3人はそれぞれに考え込んでいた。
「3人ってさ、女子にモテるし女子のこと好きなんだろうけど、ちゃんと向き合おうっていう気はないよね?」
さらに玲は指摘を続ける。3人は玲の言うことを全く否定できなくて黙り込んでしまった。菜緒、かおり、愛華はどう言葉を挟めばいいか分からず、気まずそうにしていた。さすがの玲も自分が雰囲気を悪くしていることに気がつき、申し訳ない気持ちになった。
「……ごめん、ちょっと言い過ぎたね」
玲はチラリと3人の方を見た。すると、圭吾が微笑みながら話し始めた。
「いや、荒牧さんの言うとおりだよ……あの3人と俺らが一緒に行動しなくなった直接的な理由はあるんだけど……もしかしたら、ちゃんと3人の深い部分を見ようとしない俺らに嫌気がさしてて少し離れるきっかけを探してたのかもしれないなって思った」
「そうだな……俺らだけが勝手に楽しんでて3人は本当の意味では楽しんでなかったのかもしれないな」
佑斗は少し寂しそうな表情を浮かべながら圭吾の言葉に同意した。
「……今の方が楽しそうに笑ってるもんな、あいつら」
行動を共にしなくなってからの葉月、沙苗、加恋のことを思い浮かべながら、匠はしみじみと呟いた。
しんみりとした様子の男子3人を見て、玲はチクチクと心が痛む気がした。自分は間違ったことを言ったつもりはないし、媚びて嘘も付きたくはなかったが、ここまで落ち込んだ様子を見せられるとさすがに悪い気がしてきた。ただ、何て言葉を掛けたらいいのか分からない。
「……あ、でも」
その場に流れている気まずい空気を破ったのは菜緒だった。
「今気づけたなら良かったんじゃないかな」
全員が菜緒の言葉に耳を傾けながらじっと菜緒を見た。みんなが自分の顔を真剣に見ているので、妙な緊張感を感じて焦ってしまったが、菜緒は丁寧に言葉を続けた。
「3人の中で何か感じることがあってそれを反省したり後悔したりする気持ちがあって、直したいとか変えていきたいって思ったなら、それをこれから行動に移していけばいいと思う……これから3人がどうやって葉月たちと接していきたいのかっていうのが大切なんだから」
菜緒はそう言って3人に向かって笑顔を見せた。そして、玲の方に視線を向ける。
「玲にハッキリ言ってもらえて良かったね」
その言葉に匠、圭吾、佑斗は笑顔で頷いた。玲は自分が悪くしてしまった空気を菜緒が和らげてくれたことに感謝の気持ちでいっぱいだった。
「荒牧さん、ありがとね」
「ハッキリ言ってくれてありがたかったよ」
「かなり耳が痛かったけど、その通りだった」
圭吾、佑斗、匠の順で玲に感謝の気持ちを伝えると、玲はテレくさそうに「別に」と返した。
「……キツイ言い方してごめん。でも、こういう言い方しかできないから、わたし」
玲の言葉に3人は顔を見合わせて「知ってる」と答えた。
「あの勉強会の時点でそれは嫌というほど感じたよ」
佑斗がからかうように言うと、玲は「うるさいな」と言いつつも少し嬉しそうに笑っていた。菜緒はその様子を見てホッとしたように笑い、愛華とかおりも顔を見合わせて微笑んだ。
その後は穏やかな時が流れ、今日限りの7人での昼食はとても楽しいものになった。
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