匠と圭吾はあのまま屋上で1時間近く話し込み、昇降口を出る頃には5時近くになっていた。
「悪かったな、圭吾」
「何言ってんだよ。友達だろ」
自分達には合わない青くさいことを言った圭吾に匠は「気持ち悪りぃよ」と言い放つ。
「……まあ、でも、ありがとな」
改めて素直にお礼を言う匠に対して、今度は圭吾が「気持ち悪りぃよ」と言い返した。
「あ……」
昇降口を出たところで圭吾は少し前にいる2人の人物に気がつく。匠がその視線の先に目をやると、そこには菜緒と淳人がいた。実行委員会の集まりを終えて、菜緒は家に帰るため校門へ、淳人は部活のためグラウンドへ向かう分岐点で立ち話をしているところだった。
「天敵1と2がセットだな」
圭吾がからかうように匠の方を見ると、匠は黙って2人の方を見ていた。距離があるため、2人は匠と圭吾には気がついていないようだ。少しすると、菜緒と淳人は挨拶を交わしそれぞれの道へと別れていった。
「行くか」
その様子を確認して圭吾は匠に声を掛ける。また少し匠が不機嫌になっているような気がしたが、いっそのこと気になっているもう1つのことを聞いてしまおうと思った。
「なあ、なんで天敵1のことは目の敵にしてんの?」
「誰のことだよ」
わざと名前を濁されて匠は少しイラっとした。
「蓮見の方だよ。間宮さんより先にお前の中で天敵認定してるだろ。だから、天敵1」
「……前も言っただろ」
圭吾にはその理由を話したことを覚えているので、匠は面倒に感じて少し投げやりに返事をした。
「でもさ……」
「なんだよ」
なかなか食い下がらない圭吾に、匠は「これ以上聞くな」と言わんばかりの鋭い視線を浴びせる。圭吾はそれにあえて気づかないふりをして話を続ける。
「お前とはさ、まだ浅い付き合いだけど、“なんかムカつく”って単純な理由だけで誰かを目の敵にするようなやつには思えねぇんだけど。いい人間ではないかもしれないけど、そこまで悪い人間でもないだろ」
自分に対する正直な圭吾の評価に匠は思わず笑った。そして自嘲気味に言い放つ。
「そういうやつだよ、俺は」
圭吾は黙って聞きながら、漠然と匠が何かを隠しているなと感じていた。
「単純な理由で人を目の敵にするし、それでそいつに対してくだらないこともするし……悪い人間なんだよ。」
どこか悲しそうな匠をさすがにこれ以上問い詰められないと思い、圭吾は「そっか」とだけ返事をした。
「……ま、ムカつく理由を強いてあげるなら……」
匠は何か考え込みながら一つ息を吐いた。そして、こう言い放った。
「ずるいんだよ……あいつは」
「ずるい?」
圭吾は言葉の意図を探ろうと聞き返したが、匠はそれ以上何も言わなかった。さすがの圭吾もそれ以上は追求する気にはなれなかった。
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