3月に入ってもまだ愛華と玲の冷戦状態は続いていた。今日は菜緒と愛華、かおりと玲という組み合わせで過ごしていて今は昼休みだ。
「そろそろ玲と話さないとね……」
お弁当の卵焼きを見つめながら愛華がポツリと呟いた。
「菜緒とかおりにも迷惑かけてるし、部活のメンバーたちにも気遣わせちゃってるし……はあ、でも勇気が出ない」
そう言いながら愛華はガックリとうなだれた。そんな愛華を菜緒は優しく見つめる。
「もう言いたいことまとまってるの?」
菜緒の問いに愛華はコクリと頷いた。
「じゃあ、あとは勇気だね」
そう言って菜緒が愛華に笑いかけた時、2人の方に誰かが近づいてくる気配がした。菜緒と愛華がそちらに目を向けるとやって来たのは、笑顔のかおりと済まなそうな顔をしている玲だった。
「……愛華、ちょっと話さない?」
玲は愛華から少し視線を逸らしながら尋ねた。愛華も気まずそうに少し顔を下に向けながら「いいよ」と返事をした。そんな2人を横目にかおりは目と口パクで菜緒に合図を送る。菜緒はその意図を汲み取り急いで自分のお弁当をまとめた。
「じゃあ、2人でゆっくりね」
菜緒がそう言ってかおりとその場を立ち去ろうとすると、愛華と玲は戸惑いの表情を浮かべて2人を止める。
「2人のことなんだからさ、とことん2人で話しなよ。あ、でもほどほどにね」
かおりは不安そうな愛華と玲にそう言って笑いかけた。菜緒もそれに続いて2人に声をかける。
「どうなったかだけ後で教えてね」
気まずい2人を残して菜緒とかおりは去っていってしまった。残された愛華と玲の間にはなんとも言えない静かな時間が流れている。
「あのさ……まずは、ごめんね」
最初に口を開いたのは玲だった。それを聞いて愛華もすかさず口を開く。
「ううん、わたしの方こそ……ごめん」
そして、また2人の間には気まずい空気が流れた。次は愛華が話を切り出す。
「玲の気持ち考えないで勝手に怒って傷つけるようなこと言って……本当幼稚だった……玲が心配してくれる気持ちを無下にして……本当にごめん」
愛華はそう言って頭を下げた。玲はそれを聞いて首をブンブンと横に振る。
「ううん、わたしの方こそさ、愛華と藤山くんのことに口出して……大きなお世話だよね、あんな心配して……2人が決めることなのにね……わたしは2人の親でも何でもないのに……あんなお節介っていうか口うるさくして……本当にごめんなさい」
玲も頭を下げて謝った。そして、顔を上げると愛華は玲の顔を見て笑っていた。つられて玲も笑顔を見せる。
「話に来てくれてありがとね、玲。わたしも話さなくちゃって思ってて、色々言いたいことはまとまってたんだけど、あと一歩勇気がなくて」
「ううん、わたしも同じだから。本当はもっと早く謝りたかったし話したかった」
2人は顔を見合わせて少し自分自身に呆れるように笑った。すると愛華は言いにくそうに話し始める。
「あの、せっかく仲直りしておいてこんなこと言うと、また玲に嫌な思いさせるかもしれないんだけど……」
玲は不思議そうな顔をして愛華を見ている。
「さっき謝った気持ちはもちろん本当なんだけど、あと言いたかったことがあって……」
次の言葉を躊躇っている愛華を見て玲は笑う。
「何でも言って大丈夫だよ。その後、わたしも言いたいこと言うから」
「……ありがとう。じゃあ、言うね」
玲の言葉に安心して愛華は笑顔を見せながらそう言って、一つ息を吸った。
「圭吾とはちゃんと真剣だから。あんまり口出さないで欲しい」
愛華の言葉を聞いて玲はプッと吹き出した。そんな玲を見て愛華は「え?」とポカンとした表情を浮かべている。
「何だ、そんなことか。全然嫌な思いしないよ……当たり前のことだもん。本当に反省したんだ、わたしすごい口うるさかったし変に突っかかってたなって……」
そう言いながら玲はどこか悲しそうな顔をして何かを思い返していた。
「……ありがとう。そんな風に言ってくれて……でも、本当にわたしが間違ったことしてたりしたらそれは教えてね」
「うん、分かった。でも、それが迷惑だったらちゃんと愛華も教えてね」
玲の言葉に愛華は大きく頷いた。
「で、玲の他に何か言いたいことは?」
愛華の問いかけに玲は少し考え込むような表情を浮かべながら、ゆっくりと話し始めた。
「わたしが、あそこまで愛華たちのことに口うるさくしたのって、ちょっと理由があって……うん、まあ自分勝手な理由なんだけどね……わたしが男嫌いになった理由でもあるんだけど……」
玲が言いたいことを言い終わったら思い切って聞こうと思っていた内容を玲自ら切り出したので、愛華は驚いてしまったが黙って玲の話に耳を傾けた。
「うちの親が離婚してるのは知ってるでしょ?その原因がさ、ちょっと、いやだいぶトラウマになってて……」
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴っていたが、2人はそんなのを気に留めず座ったままだった。そして、玲は静かに話し始めた。
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