恋とか夢とか友情とか

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第44話 1つ1つ

公開日時: 2022年6月23日(木) 07:00
文字数:2,586

菜緒から話を聞いたかおりは唖然として言葉を失っていた。

 

「あんな人そうはいないと思うし、蓮見くんがそんな人だとは到底思えないんだけど」


菜緒は当時のことを思い出しながら悲しそうに言った。


「そうだよ!絶対違うよ!」


かおりは力強く言った。

 

「でもね、やっぱり怖くなるんだ。だってさ、その先輩だって、付き合う前も付き合ってからも……その瞬間まではそんな人じゃなかったんだから……」


悲しそうに話す菜緒に何と言葉を掛けるのが正解なのか、かおりには分からなかった。


「頑張って告白して付き合えてもそんな目に遭うんだったら、自分の気持ちを隠したまま仲の良い楽しい関係でいるのもありなのかなって……」


菜緒の目からは自然の涙が溢れてきた。自分でも全く予期していなかった。


「あ、ごめん……マサくんと両思いになったかおりにする話じゃなかったよね……ごめん……あの、もちろんマサくんは絶対そんな人じゃないから……かおりのこと大好きだし絶対大切にするし……」


流れてくる涙をどうにか止めようと明るく話を切り替えようとするが、涙は止まらなかった。かおりはそんな菜緒を黙って抱き締めた。


「菜緒、いいから。わたしと木村のことは今はいいから。自分の悲しい気持ちだけに向き合って……」


かおりの言葉を聞いて菜緒は思いっきり泣いた。思えば晃次のことでこんなに泣いたのは初めてだった。あの後、正紀や当時の友人たちにも話をしたが、どちらかというと怒りを表に出して話をしていた。あんなやつのために泣くのは悔しいという思いもあり努めてそうした部分もある。だから、1人の時にも決して泣かなかった。悲しみをぎゅっと抑え込んでいたのだ。


ずっと我慢できていていたのに、なぜ今泣いたのかは分からなかった。ただただ涙が止まらなかった。菜緒の涙が止まるまでかおりは何も言わずに抱き締めていた。5分くらい経っただろうか。菜緒の涙がようやく収まってきた。


「……かおり、ごめんね。……ありがとう」


菜緒は息を整えながら、かおりの顔を見て笑顔を見せた。かおりは優しく笑って首を横に振る。


「こっちこそ、ごめんね。辛いこと話させちゃって……でも、話してくれてありがとう」


「こんなに泣くとは思わなかったよ」


恥ずかしそうに菜緒は涙を拭きながら笑った。


「わたしも菜緒がこんなに泣くなんてビックリした」


かおりは菜緒の頭をそっと撫でた。


「我慢してたんだね……ずっと抱えてたんだね……」


かおりの優しい言葉に菜緒の涙腺はまた緩みそうになる。


「……ちょっとまた泣きそうになるから」


「いいじゃん、いいじゃん。泣きたい時に泣いときなよ」


かおりはいたずらっぽく笑う。菜緒もそれにつられて笑った。


「……ついでにもう一個話していい?」


「いいよ。言いたい時に言っちゃいな」


何でも受け止めるよ、という雰囲気でかおりは頼もしく返事をした。菜緒は「ありがとう」と言って話を始めた。


「……その後さ、恋なんてしばらくいいやって思ってたんだけど、中3に入ってから好きな人が出来たんだ」


意外な展開に少し驚きながらも、かおりは相槌を打ちながら菜緒の話を聞いている。


「……正確に言うと、その人と会えなくなってから好きだったって自分の中で認めたって話なんだけど」


菜緒はそう言いながら苦笑いをする。


「あのことがあってから、告白とか付き合うとか以前に、人を好きになるってことを自覚するのが怖くなってて、その人のことが好きだって認めなかったんだ。気づかないふりをしてた……この好きっていう気持ちは、他の人たちに対する気持ちと同じって」


話を聞いてかおりはどこかで聞いたことあるような内容だなと感じた。


「……蓮見の時も最初そうだったよね?」


菜緒は大きく頷いた。


「そう。本当は好きだったのに、その人に対しての感情を認めないままで、その人は急に転校することになって、しかも海外に……それで会えなくなってから恋愛感情として好きだったってやっと認めて……もう会う機会もなくなるし傷つく可能性も低くなってから認めるなんてズルいんだけどさ……しかも、そのあと結局後悔して……」


自嘲気味に笑う菜緒にかおりは笑顔で返す。


「でも、しょうがないよ、そうなるのも。辛いこと経験してるんだもん。そんな中でさ、たとえ認めるのが遅くなったとしてもさ、人をまた好きになれただけでも進歩じゃん」


明るくそう言ってくれるかおりの言葉に菜緒は救われる気がした。


「菜緒はちゃんと1つ1つ克服できてるよ。ほら、蓮見の場合は恋愛感情として好きって気持ちを認めるところまで来たじゃん。また一歩進んでる」


笑顔を見せるかおりに菜緒も笑顔で返す。かおりの前向きな言葉が本当に嬉しくて勇気づけられた。


「そっか、一応進めてるのか。わたし」


「そうだよ。だから大丈夫!焦らなくていいんだよ……って散々急かしてたのはわたしだけど……」


申し訳なさそうなかおりに対して菜緒は優しく微笑む。


「かおりは何も知らなかったんだし。きっとわたしがかおりの立場でわたしを見てたら同じようにしてたと思うよ……友達の恋の話聞くのって楽しいし」


「そうなんだよね……でも、ちょっと気をつける。人それぞれ色んな事情があるんだから、自分の勝手な感情だけで走らないようにしないと……もう少し大人しくしよう」


「でもかおりが大人しくなったら、それはかおりじゃない……」


菜緒の言葉に対してかおりは「どういう意味?」と冗談っぽくツッコむ。


「気遣いは大切だと思うけど、かおりはそのままでいいよ。かおりのそういう明るさっていうかグイグイいけるところ好きだし……それに大人しいかおりのイメージが湧かない」


「だから、それ!」


菜緒の言葉にかおりがツッコむと2人は声を出して笑い合った。


「かおり、今日はありがとう。なんかスッキリした」


「それなら良かった……」


「よしっ!じゃあ、マサくんとのこともっと詳しく教えてもらおうかな」

 

菜緒はわざと大きな声を出して話を切り替えようとした。


「え、いいよ。わたしたちの話は……そんな面白い話ないし!」


「え、マサくんは1時間以上かおりの話していったけど」


からかうように菜緒が言うと、かおりは「あいつめ」と言いながら顔を赤らめた。そんなかおりを見て菜緒は心の底から楽しそうに笑った。かおりはそんな菜緒の表情を見て安心すると同時に、次の恋、できれば淳人との恋が幸せなものになるように願うばかりだった。

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