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第68話 隠していた気持ち

公開日時: 2022年7月3日(日) 15:00
文字数:2,653

「楽しかったなぁ……」


佑斗はしみじみと呟いた。匠と圭吾はそんな佑斗を見て呆れたように笑う。


「何回目だよ、それ言うの」


「いや、何回だって言うよ。だって楽しかったんだから」


圭吾からのツッコミに佑斗は嬉しそうに答える。そして、匠と圭吾の方に顔を向けた。


「え?お前らは楽しくなかったのかよ?特に匠!間宮さんと飯食えたんだぞ」

 

「何だよ、急に」


匠は急に菜緒の名前を出されて恥ずかしくなってしまった。


「楽しくないわけないだろ。な?」


顔を赤くしている匠を見て、圭吾はからかうように言った。匠はなんだかそれが悔しくて、言わないようにしていたことを思わず言ってしまう。


「そういうお前もだろ、広瀬さんと一緒で嬉しかったんじゃねえの?」


匠の言葉に圭吾の表情が固まった。そして、佑斗は目が点になっている。


「は?どういうこと?え?何?圭吾、お前……」


佑斗は匠と圭吾の顔を交互に見ながら軽くパニックになっていた。


「……ちょっと待て、俺も聞きたい、どういうことだよ」


圭吾はおでこに手を当てて考え込むポーズをしながら匠に尋ねた。本当に匠の言っている意味が分からないのか、それともバレてないと思ってたことがバレて焦っているのか、その表情からはまだ読み取れない。匠は今までのお返しとばかりに圭吾の本音を聞き出そうと言葉を並べる。


「あの勉強会の時、完全にちょっかい出してたよな。かわいいって言ったり、密かにアイコンタクトしたり……」 


「は?そんなことしてたの?お前」


匠の言葉を聞いて、佑斗はビックリした顔で圭吾を見た。


「今日もちょいちょい口説きモードに入ってたよな……色々邪魔が入ってなかなか上手くいってなかったみたいだけど」


「お前は間宮さんに集中してろよ……何で俺を追っかけてんだよ」


圭吾は匠の言うことを否定も肯定もしない言い方をした。


「いや、自然と見えるし聞こえてきたんだよ……お前が普段と違うから余計にな」


佑斗は匠と圭吾のやり取りを聞きながら、どうしてこいつらは人の微妙な変化に敏感なんだと疑問を感じていた。それとも自分が気づかなすぎなのだろうか……そんなことを考えていると、2人の話は次の段階に進んでいた。


「……お前にあれだけ言ったんだから、俺だって頑張んないといけないなって思ったんだよ」


観念したように圭吾がそう言うと、匠は少し驚いた顔をした。圭吾が愛華を気になりだしのは最近のことかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。そんな口ぶりだった。


「え?お前いつから?」


「……入試の時から」


テレくさそうに答えた圭吾の言葉に匠と佑斗は口を開けてポカンとしている。


「たぶん、あっちは覚えてないだろうけど、隣だったんだよ、入試で」 


「で?そこで何か恋に落ちるきっかけが?」


佑斗の質問に圭吾は首を横に振った。


「ない。一目惚れだから……“おはよう”ってたった一言笑顔で言われただけ」


次から次へと予想外の言葉が出てきて、自分から話を仕掛けたはずの匠はどうしたらいいか分からなくなってしまった。


「よく今まで黙ってたな、っていうか態度に出さなかったな」


感心しているような驚いているような声のトーンで佑斗は圭吾に言った。


「まあ、先に進む気もなかったからな。特に何かしようとも思わなかったし」


「何で?」


「いや、明らかに住む世界が違うっつーか、広瀬さんみたいな子は俺みたいなタイプ好きにならないだろうなって思って。所詮一目惚れだし、どっかで俺の気持ちも冷めるかなくらいに思ってたんだよ。だから他の女の子に手出したりもしたし」


匠ほどではないが、入学してから圭吾は短いスパンで彼女を変えていてそれが途切れることはなかった。それが、文化祭前に彼女と別れてから彼女を作っていなかったのだ。バイトを初めて忙しくなったからと思っていたが、実は違っていたようだ。


「それがさ、どういうわけか気持ちが冷めなかったんだよな」


圭吾は自分でもわけが分からないという表情をしていた。


「広瀬さんみたいな顔がすげータイプだったとか?」


佑斗の問いに圭吾は首を横に振った。


「かわいいとは思うけど、元々タイプかって言われたら別にそういうわけでもないんだよ……でもさ、気がつくと目で追っててさ……広瀬さんの笑顔が何かすげー好きで」


圭吾はそう話しながら困ったように笑っている。でも何だか幸せそうに見えた。


「……でさ、今荒牧さんの隣の席だろ、俺。それで、広瀬さんが荒牧さんの席に遊びに来た時に話すことがちょこちょこ増えて、話してるうちになんか中身もいいなーって思い始めちゃってな……何がってわけじゃないんだけど、なんか好きなんだよ」


今まで黙っていた分の想いを全て吐き出すかのように圭吾は愛華への気持ちを話した。どうして好きなのかという理由はハッキリしないものだったが、不思議とその強い思いは匠と佑斗にも伝わってきた。


「それで、これ俺相当ハマってんなーって思って、匠も頑張ってるし俺も頑張ってみるかって気になって、最近色々行動してるってわけ」


そう言いながら圭吾は匠の方に視線を送った。匠は少し驚いた顔をしている。


「俺、関係あんの?」


「大アリだよ。今までの恋愛観覆してさ、本気で間宮さんのこと好きになって、必死になって心動かそうとしてんじゃん。そりゃ刺激受けるよ」


圭吾はそう言って微笑んだ。匠は圭吾からの思わぬ言葉に何だか気恥ずかしくなってしまった。


「ちょっと前にさ、お前に色々偉そうなこと言ったけど、あれ自分自身にも言えることだったんだよ」


「……なるほどな」


圭吾に言われたことを振り返りながら匠は納得しながら笑った。


「悪かったな、自分のこと棚に上げてあんな偉そうなこと言って」


「謝んなよ。あれのおかげで、今頑張れてんだからさ」


申し訳なさそうにする圭吾に対して匠は笑顔で言葉を返した。そんな2人を見ながら佑斗は羨ましそうな顔をしている。


「なんだよ、お前ら2人で青春して」


「別に青春してねーよ」


佑斗の言葉に対して匠は恥ずかしそうに言い返した。


「いや、十分青春だろ……あー!いいなあ!!俺もそういう恋愛してーよ」


佑斗がそう大声で叫ぶと、匠と圭吾は顔を見合わせて笑った。


「まあ、とりあえず、お前ら頑張れよ。俺に何かできることあればいつでも言えよ」


なぜか自信満々の顔をしながら、佑斗は自分の胸を軽く叩いて匠と圭吾に向かって言った。


「ああ、ありがとう」


「何かあったら頼むわ。ありがとな」


そんな佑斗の様子がおかしかったが、妙に頼もしく感じられた圭吾と匠は口々にお礼の言葉を伝えた。佑斗はそれを聞いて嬉しそうに笑っていた。

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