「ちょっと無理があったかな?」
カラオケ店を出た正紀とかおりは帰り道を歩いていた。かおりは自分たちの計らいが菜緒たちにバレているかもしれないと思いながら苦笑いした。正紀も「だな」と言って笑った。
「夏祭りの時のお礼だと思って……あいつらが協力してくれなきゃ俺らはこうなってないわけだし」
「そうだね……あの時はわたしが勝手に勘違いして菜緒と蓮見を2人きりにして、そしたらなんか正紀が告白してきてかなりビックリした」
かおりは懐かしそうに振り返りながら楽しそうに笑った。正紀も「そうそう」と頷きながら笑顔になる。
「嬉しかったなぁ、あの時。まさか正紀と両思いだなんて思わなかったもん」
「俺も。かおりがOKしてくれてあまりにも嬉しくて、その夜すぐに菜緒に報告しに行ったもんな」
「そうだよ!まさかそんなにすぐ話してると思わなくて、その後わたし超緊張しながら菜緒に報告しに行ったんだから!」
その時のことを思い出して話しながらかおりと正紀は楽しい気持ちになっていた。かおりは正紀とこんな風に笑い合って話す時間が好きだった。ただ、こういうノリが続けばいいなと思う反面、少し進んだ関係にもなりたいなと思う自分もいた。
正紀とはキスをすることはあるが、それも別に毎回ではないし、抱き締められたりすることも少ない。最近だとあまり手を繋いでいない。これが自分たちなりの付き合い方だとあまり気にはしていなかったのだが、愛華のことがあってから何だか急に気になり出したのだ。
色々考えているうちに、関係が進んでいくことの怖さもだけでなく、何より正紀にとって自分は女子としての魅力のようなものがあるのだろうかという不安も沸いてきた。
愛華と玲の板挟みのストレスもあるが、そんな不安も抱えてかおりはモヤモヤした気持ちでここ最近過ごしている。周りには気づかれないようにしていたが、正紀には出来るだけ隠し事をしたくないので、思い切って気持ちを吐き出してみることにした。
一瞬2人の間に沈黙が流れた時、かおりは真面目なトーンで正紀に尋ねる。
「あのさ、正紀……そのこれからのわたしとのことどう考えてる?」
正紀は急にかおりのトーンが変わったことと少しぼんやりとした質問に対して、ポカンとした顔をしている。
「え、どうした?急に……」
「その……わたしってほら、菜緒みたいに優しくないし、愛華みたいに可愛らしくもないし、玲みたいに落ち着いてもいないし……なんか、その魅力ないなぁって、女子としての?……いや、この時代にそういう考えもどうなのかと思うけど……」
かおりは気持ちをぶつけようといざ話し始めたが、これけら自分が聞こうとしていることを考えるとだんだんと恥ずかしくなってきて、話がまとまらなくなってきた。
「かおり、どうしたんだよ」
正紀は少し困ったように笑いながら尋ねる。そして、とりあえず落ち着いて話せるようにと、ちょうど通りがかった公園のベンチに座ることを提案した。
「焦んなくていいからさ、落ち着いて、言ってみ?」
優しく笑って正紀はかおりの顔を見た。
「……その、だからね……最近あんまり手も繋いでないしギュッてすることもないし……あと、そのキスも少ないし……いや、いいんだよ?別に毎回毎回大変だし……でも、ちょっと不安になってね……わたしってそういう魅力みたいなのないのかなーって……」
かおりは笑顔で話していたが涙目になっているのに正紀は気がつく。その表情を見て、正紀は自分がかおりを悩ませていたことを深く反省した。実は正紀なりの理由で意識的にそういうことを減らしていたのだ。できるだけかおりに気づかれないようにと思っていたのだが、かおりは気づいているどころか不安になって傷ついていた。
「ごめん……かおり。不安にさせて……」
そう言って正紀は頭を下げた。
「え、いや、謝らないで……わたしが勝手に……」
「いや、勝手なのは俺のほうだ」
かおりの言葉を遮って正紀はキッパリと言った。
「実は、意識的にそういうこと減らしてたんだ……」
「え……なんで?やっぱり……わたしじゃ、そういう魅力……」
「違う!」
正紀は強い口調で否定した。そして、一つ息を吐いて恥ずかしそうに話し出した。
「その逆っていうか……なんかさ日に日にかおりのこと好きになってさ……なんか、あんまり、その……触れたりすると……止められなくなりそうでさ……」
かおりは思わぬ正紀からの言葉に驚いた。正紀は耳まで真っ赤にしている。
「その……うん、あの……正直言って、先に進みたい気持ちはある……だけど、まだ怖いというか勇気が出なくて……ごめんな、なんか情けないよな」
そう言って正紀は自嘲気味に笑った。
「ううん、そんなことない……それよりも、正紀がそんな風に思っててくれたなんて嬉しいし安心した」
かおりは目から溢れそうになっていたものを擦って拭いながら笑顔を見せた。
「不安にさせてごめん」
「もういいよ。こっちこそ勝手に不安になってごめんね……ありがとう、話してくれて」
「……俺がもっとしっかりしてさ、何があってもちゃんと責任取れるって勇気が出たら、その……先に進んでもいいかな?」
真面目なトーンでそう話しながら正紀はまっすぐにかおりを見つめた。かおりはゆっくり頷き微笑んだ。そして、唇が触れるだけの優しいキスをした。不意打ちのキスに正紀が驚いていると、かおりはベンチから立ち上がりイタズラっぽく笑った。
「でも、それより先にわたしがもっといい女になって、その気にさせちゃうかもよ?」
「………!」
かおりの言葉に、やっと赤みが引いてきた正紀の顔は再び赤くなる。そんな正紀の反応を見たかおりは楽しそうに笑っていた。
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