私は今、激情に身を委ねていた。依頼人である商人の荷物を複数人で強奪するただのクソ野郎どもだと思っていた。なのに…。
あの時味わった屈辱も一緒に晴らしてやろうと思った。依頼人の妻を殺した男を爆砕し、敵方の仲間も1人を除いて惨殺。ソイツから根城を聞いたところから記憶が曖昧だった。
部隊長の「やめろぉぉぉぉぉ!!!」という叫びを聞いて我を取り戻した時にはもう遅く、私は叫んでいた。
「『爆裂の断罪斧』!!!」
その直後、私の意識は途絶えた。
*
私が目を覚ましたのは、私の所属するアサシン教団『コントーレル』の医務室だった。ベッドの傍では、部隊長が難しい顔をしていた。
「すみません、部隊長。迷惑かけ…」
「もういい。お前には退団命令が出ている」
「しかし…」
「奴らはどう見ても『シュラフトゥン』の仲間だった。尻尾を掴む機会など滅多に無いというのに…。しかも、お前は隊長命令を破った上に貴重な魔導兵器を使って向こうの指示役のヤツも人質も全員死んだ。どう始末つけるつもりだ?」
「それは……、これから挽回して…」
「お前にはもう挽回の余地など無い。さっき言ったはずだ、退団命令が出ている。退院できるようになったらすぐに寮の荷物をまとめてここを出なさい」
「いいえ、怪我も大したものではないので今すぐに退団させていただきます。それに、上に報告せずに貴族へ高価なものを献上するのはご法度のはずですが」
「気に入らないからって口答えするつもりかい?そうか。ならさっさと出て行きな、無能。私の昇進に影響出たら殺してやるからな」
私の過去のことなんて知ろうともしなかったクセに…。もう、ここは私の居場所じゃない。
こうして、慣れ親しんだ教団であり故郷である『コントーレル』を私は後にした。
*
行き場もなく、私は冒険者ギルドの広場の机に突っ伏していた。
昔、1度アサシン教団を離れた者はスパイを疑われてどの教団に入ることもできない、もし入団できたとして酷い仕打ちを受けることになると聞いたことがある。ああ、私、どうなるんだろう…。
そんなことを考えていたら、少女のこんな声が聞こえてきた。
「誰かー、無所属のアサシンいませんかー?」
まさか、こんな都合よく入団勧誘なんかやってるわけないか。でも、その声は段々近づいてくるのが分かった。だから、愛用のローブに隠れてその声が遠ざかるのを待った。すると、さっきまで小さく聞こえていた声が急にやんだ。
「おやおや~?もしかしなくてもだけど君、退団すぐのアサシンちゃんだね?」
速い!?後ろに回り込まれたのに気づけなかった!?
「…私に何か用ですか?」
「いや、入団勧誘だよ?大丈夫大丈夫、悪いようになんか一切しないから」
「その言葉、信用して本当に大丈夫なんですか?」
「君、歳いくつ?」
「17ですけど」
「お!丁度同い年だ!実は…、私の教団なんだけどまだ私含めて2人しかいなくて。その上依頼もそれなりな数来るからアサシン足りないんだよね…。けど、私は他の教団を私の定める理不尽の範囲に入る理由で退団した人しか採用したくないから、君みたいな娘が欲しいんだよ」
「私の居場所を…、わざわざ作ってくれるんですか?」
「違う違う。君はきっと私の教団に入る運命だったんだよ」
「運命…」
それなら入ってみてもいいかもしれない、と思えたのは本当に何だったのか。
「分かった。ただし、条件を付けさせて」
「それなりの条件だったら何でもいいよ」
「1週間の仮入団にして、私があなたを気に入らないか、あなたが私を気に入らなければ正式な入団はしません」
「なるほど…。いいよ」
*
こうして私はやっとのことで2人目の仲間を作ることができた。
「君、名前は?」
「ユウナ・ダファンドルです」
「そっか。私の名前はねー、あ、聞いても驚きすぎないでね?」
「そんな驚くようなことはないと思いますが」
「私、あのフェリシエラ・ヘルダーだよ」
「…ほぼ初対面の相手にそのジョークはちょっと…」
「あれ!?驚かないんだ。え?だって私、死んだことになってるでしょ?」
「はい。確かにフェリシエラ・ヘルダーは3年前の大戦争で名誉の戦死を…」
「ホント酷い話だと思わない?それ誰かのでっち上げなんだよ?それに、あれ以降大きい国際問題とか国内紛争とか無いからあんまり私が生きてることが広まってないんだよね~。まぁ、気軽にシエラって呼んで。私は君のことはユウナって呼ぶからさ」
「は、はい」
少し堅い娘みたいだけど、入団してくれるだけいいとするかな。さて、着いたみたいだし…ってあれ!?堅物のユウナが、何か信じられないものでも見たような顔をしていた。
「どうしたの?何かあった?」
「えっと…、ここが私たちの教団の本拠地ですか?」
「うん。あ、ごめんね。説明してなかったけど、私たち国の許可貰わずに活動してるから、こうやって普段はただの一般人のフリしてるんだよ」
「それで、何で半地下?なんですか?」
「何でって、どう見てもこれは地下シェルターでしょ?」
「ちか……しぇるたー…?」
「まぁ、入って入って」
意外と世間は知らないみたいだし、堅いけど天然な娘なんて連れ帰ったらアイツはどんな反応するのかな?
「レゼ子、帰ったよー」
「お帰りッス。な、な、な……だ、誰ッス!?そこの美少女!?」
「どうも、これからお世話になるユウナ・ダファンドルです」
「まさか、新団員ッスか!?」
「そうだよ。これから仲良くしてあげて」
「是非とも、喜んでッス!」
「あの…、ここで生活するんですか?」
「ここっていうか、奥の部屋だね。ちゃんとお風呂とトイレもあるし、リビングは広いからそう心配することじゃないよ」
「それで、あの棚の上の物騒な物は…?」
「あー、あれ?暗殺の依頼の時に使う道具。あんまりお客さんとか来ないから、ああやってすぐに使えるようにしてあるの」
「見たことない物ばかりですが…?」
「うん。まぁ、レゼ子が調達してくるから私もどこで手に入るのかは知らないんだけどね…」
「シエラちゃん、そろそろ今日の依頼遂行の時間ッスよ」
「はーい。それじゃあ、いこうか」
「…はい」
続く
読み終わったら、ポイントを付けましょう!