「えっと、これから今回の依頼について説明するッス。今回の依頼人は、ギルド運営の銀行からで、黄色と緑の変な形のドクロマークの服を着た連中に3億ジェルド奪われたから、取り返してくれっていうことッス。既に消費された分のお金は諦めるし、手段は問わないらしいッス」
「待って!?それって殺せっていう依頼なの?」
「まあ、レンジャーじゃなくてアサシン教団に頼んで来るってことは、そう意も含んでるんッスね、きっと」
「お金を取り戻せばいいんでしょ!?なら、重症負わせるだけで済ませられないの?」
「一応、殺すべきだと思うんッスけどねぇ。何で殺したがらないんッスか?アサシンなのに」
「だって、私がここで掲げたい思想は『平和』だから…。無駄に人を殺したくないし、殺させたくないの」
「まぁ、好きなようにすればいいッスけど」
「じゃあ、行ってくる」
こうして、私とユウナは本拠地を後にした。
「シエラ、さっきレゼも言ってましたが、なぜアサシンなのにターゲットを殺そうとしないんですか?」
「…私、あの3年前の大戦争で色んな人が色んなことで傷付いてきたところを見てきたから。よっぽど国の偉い人とかからの命令じゃなかったら殺さないようにしてるの」
「それでは、アサシンの意味が…」
「アサシンは、誰かを殺すことで幸せを作っちゃダメなんだよ。誰かを傷つけることで平和を作っていく、少しでも幸せに近い、でも完全に幸せとは呼べないような平和を」
「しかし、それではアサシンとして生きてきた意味が…」
「もしかして、ユウナも孤児か奴隷出身?」
「…はい。“も”ということは、シエラもですか?」
「うーん、私はここ5年くらいの記憶しか無いから覚えてないや」
「そうですか。…あっ、シエラ。あの人たちが今回のターゲットでは?」
「あ、確かにあのマークはそうかも。じゃあ、声は小さくバレないようにね」
「はい。それで、奴らの根城まで乗り込むつもりですか?」
「もちろん。ここで尋問したって正直に答えてくれるほどバカじゃないだろうし」
その会話を皮切りに私とユウナは彼らを尾行し始めた。
すると、しばらくして彼らはとある廃墟に入っていき、私が屋根裏に滑り込んで下にいる奴らの会話を聞いた。
「さぁて、ギルドの銀行から3億も奪ったことだし、奴らも身代金は払えまい」
「ああ、後は奴らの絶望する顔を眺めながら地獄のショータイムだ!」
その会話でユウナも悟ったはず。この国、エンヴェルクのギルドには、パーティー無所属の冒険者が敵勢力に捕縛された場合、パーティーに所属させなかった責任を負う為に身代金を払うという制度があり、奴らは多くの人を絶望に落とそうとしていた。
しかし、すぐに1人の背中から血しぶきが上がった。
「おい、不法侵入の殺人鬼か?いや、アサシンだ!?」
「やばい、逃げ…ぐぁっ!!」
ユウナは私が自分以外で見たことのないような速さで敵の攻撃を回避しては壁や天井を使って仕留めて…って、見とれてる場合じゃない!!
「ユウナー、お金を取り戻すことが依頼達成の条件だし、そう無駄に殺さなくてもよくない?」
「私はアサシンです。いずれこのような残虐な愚行を働く下衆どもを排除して、二度と私のような思いを味わう民をなくしたいのです!」
「それは立派な志だけど…、いまここでこの人たちを殺してもそれにはきっと繋がらないよ」
「さっきから何をごちゃごちゃと!くたばれ!」
奥にいたボスらしき人に手榴弾をこちらに投げてきた。
「よっと」
私は如何にも余裕綽々なんて感じを出しながら飛び降りたけど、あと少し気づくのが遅かったら死んでたな…。
そんなことを思ってるうちにも敵の連中は襲い掛かってきた。
私はそれをうまいこと躱し、迷わずダガーの柄で何人かをみねうちし、気絶させた。
「お前ら、こんなことしてただで済むと思うなよ!?」
「それはコッチの台詞ですね。さあ、耳を揃えて3億ジェルドきっちり返してもらいますよ」
「そんなモンはここにはねぇ!!さっさと帰りやがれ!」
「シエラ、金庫がありましたよ。きっとあれです」
「ナイス、ユウナ!もうこれで言い逃れはできないね」
「くそがぁぁぁ!!」
「はい、逃げたって無駄だよ」
あんな残虐な計画をしていたヤツは殺さないにせよ、牢屋の中で少し大人しくしてもらわないと。
腕を掴んでも抵抗しようとする男は、横から急に現れたユウナに攻撃された。
まさか、切っちゃったのか…?
とは思ったけど、動かないだけで脈はあったし、血は出ていなかった。
「もしかして、気絶させた?」
「シ、シエラが殺すなと言ったからその通りにしたまでで…」
「私、初めてのパートナーがユウナでよかった。やっぱり正式に入団してほしいな」
「シエラ…」
なんか、変な空気になってきたような…?
「アタシは初めてのパートナーじゃないんッスか?」
「あ、レゼ子。もしかして、金庫の引き渡し?」
「いえ、ギルドから連絡があったッス。その金庫の中、全部報奨金扱いでいいらしいッス」
「え!?それホント!?」
「まあ、ソイツらを引き渡してからだけどな」
こうして、タッグでの初任務は無事?(人死んでるからなぁ…。)終わった。
*
「そういえば、まだ前の教団から抜けた理由とか聞いてなかったね」
「実は…」
そして私は、シエラに私が『コントーレル』所属だったこと、任務中に部隊長の指示を無視して敵を皆殺しにしたこと、国王に献上する為に部隊長がコッソリ持ってきていた魔導兵器を勝手に使ったこと、敵の捕らえていた人質まで殺してしまったこと、何故部隊長の指示を聞かなかったのか…。それらを包み隠さず全部話した。
「そっか…、『コントーレル』のメノカ・イチノミヤは生きていたのか。3年前に重体になったはずなのによく復帰できたなぁ。それで、自分に退団命令が出たのは理不尽だと思った?」
「いえ、そうは思いません。ただ、もう一度だけチャンスが欲しいのです。私はもっと、私を救い、育ててくれた『コントーレル』から脱退してしまったのは辛くはありましたが、私で…いえ、私とシエラで何かを成し遂げたいと思えました」
「それなら正式な入部ってことでいいね」
「はい。では、アサシン教団としてお互いが目指してる平和に関係した思想を考えましょう」
「そうだなぁ。なら、この世を平和にするってのはどう?」
「世界中から私たちも含めてアサシン教団が消えない限りそれは不可能では…?」
「その不可能を可能にするのが私の夢。ねぇ、手伝ってくれるでしょ?」
「はい、私でよければ喜んで」
私とシエラは、固く握手を交わしたのだった。
続く
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