本の中の聖剣士

旦夜治樹
旦夜治樹

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公開日時: 2024年12月8日(日) 10:00
文字数:2,281

 外出許可は貰ったから外へ着ていく服を考える。あれ?俺、ちゃんと出かけた事ってあったかな。

 7階で暮らすようになってから、用意して出かける事ってそういえばなかったような。

 色々と着替えては見るものの、ミザクラというらしい監視役は首を振る。

 「この院内は涼しいですが、優也君の格好は春か秋の気温で丁度いいような服装です。そんな格好で外に出たら汗びしょびしょになりますよ。この前お家に戻られた際、暑かったのでは?」

 確かに暑かったような気はするが、ずっと室内に居たからなぁ……

 「下に着ているシャツだけで十分ですよ」

 ミザクラの言う通りシャツ1枚になってみる。

 薄らと右腕に痣があるような気がする。

 この前のキラーとの戦闘、やっぱり折れてたのかも。これ隠した方がいいんじゃないかな。問題ないかな?

 あまりに俺が薄着ではないかと心配するものだから、ミザクラから少し外を散歩しないかと提案された。

 敷地内の庭園を軽く歩いたが凄まじく暑かった。

 もう、長袖なんて着てられないし上着なんてもってのほか。これでまだ木陰もあるし水場でもあるから涼しい方なのだという。

 外から来る人がぐったりしているのもよく分かった。

 「ミザクラ、俺もう干上がりそうだから戻っていいかな」

 恐らくミザクラは左手の端末が読み取ったデータを確認しているのだろう。板状の見慣れない端末を見ている。

 「もう少し外の気温に身体を慣らしましょうか。お出かけも出来なくなりますよ」

 「はぁい……」

 木陰のベンチに腰掛けながら暑さに耐える。こんなに暑いと昼寝も出来そうにない。いや、ここで寝たら死んじゃうから良いのかこれで。

 ミザクラが持ってきた保冷バッグの中には半分くらい凍ったスポーツドリンクが入っていた。首筋にあてられて冷たいのなんの。

 そして、さくさくとした中身がとても美味しい。

 「ミザクラ、飲める部分が無くなったらどうすればいい?」

 「また溶けるまで待ちましょう。首にあてたり、脇に挟んでも良いですね」

 「脈を冷やしながら溶かすってこと?」

 「え?あ、はい」

 言われた通り脇に挟んでみた。ひんやりして気持ちがいい。

 暫くのんびりしていると、病院着を着た俺と同じくらいの歳の子が建物の中から見ていることに気がついた。凄くじっと見られている気がする。顔まではよく見えない。

 「ねえミザクラ。凄く見られてるよね、俺ら」

 「そうですね。そろそろ戻りますか?」

 「出来れば戻りたいかなぁ」

 ボトルをミザクラに渡し、振り返った時には既に人影は居なくなっていた。


 室内に入った瞬間、外から来た人がとても幸せそうな顔をするのがよく分かった。

 院内、めちゃくちゃ快適である。もう俺暫く外に出たくない。

 「さあ、お風呂に入って汗を流したら…素敵なものが待っていますよ」

 「素敵なもの?」

 「お楽しみです」

 ミザクラの後を追いながらエレベーターへ向かう。ふと視線を感じて振り返ったが、誰もいなかった。はて。

 びしょびしょになった服を脱ぎ、シャワーを浴びた。こんなにシャワーが心地よいとは。

 汗を流したらキッチンに来るようにと言われたのでその通りにする。キッチンじゃないんだけどなぁ。

 ミザクラが冷えたスイカを出してくれた。

 「これがお楽しみ?」

 「はい、夏っぽいと思いませんか?」

 食べてみる。切り方も同じだし、院内で用意したものだから同じスイカのはずなのに、朝食で食べたスイカとはなんだろう、何かが違う。

 「す、すごく美味しい」

 「これが夏の魔力です。覚えておいてくださいね」

 胸を張るミザクラ。なんで得意げなんだろう。

 読書をしていると、いつの間にかミザクラが何処かに行ってしまっていた。俺の監視はしなくていいのか。そうか、もう良いのか。

 そして昼食の時間少し前に、ミザクラは明らかに本では無さそうな箱を複数持ってきた。

 「優也君、届きましたよ!ランドセルと教科書とお道具!」

 「………ん?」

 ランドセルってなんだっけ。あ、教科書は本なの?ください読みます。

 「これに名前を書いて、ランドセルに入れて、学校に行くんです。良いでしょう?」

 ミザクラがランドセルと書かれた箱から鞄を取り出す。

 実物もといい箱の写真を見てやっと思い出した。これが背負って行くべきだとか、色の指定という謎の固定概念が生じているリュックか。

 色は父さんに任せたが、淡い緑色を基調とした全体的に明るい色でまとめられたものだった。父さんは固定概念に縛られないタイプらしい。

 まじまじとランドセルを見ていると「優也君、なんか難しそうなことを考えてませんか?こういう時は手に取って、喜んで、中を開けたりすればいいんですよ?」ミザクラから謎の指示を受ける。

 「別に検品はされてるでしょ?」

 「そういう意味では無いのですけど」

 「本は落丁がないか確認しないといけないので、その教科書をください。確認します」

 「絶対読む気ですね!いけません。それよりも先に名前を書きます!」

 積まれていく教科書たち。こんなにあるのに読めないなんて。…… あれ?

 「落丁を確認してから名前を書くべきじゃない?」

 ミザクラが明後日の方を向いていた。


 昼食を済ませたあと教科書を開いて落丁がないかを確認していく。

 小一時間程で全て見終えた。落丁はなかった。素晴らしい製本技術でございます。

 道具や教科書に全て名前を書き終えると、今日やることは終わり。

 携帯にメッセージが届いていることに気づいた。

 父さんからだった。

 内容に目を疑った。

 父さんが休みの日を教えてくれたのだ。

 懐かしいな。小さい頃は『起きている間』に合わせて父さんは休みを取ってくれたから、よく遊んでもらったっけ。

 どうやら明後日は休みらしい。

 返事を送った。








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