目を開ける。
すぐ近くに、理久の顔があった。
まだ寝ているみたい。
しっかりと寝た時と同じように俺は抱きしめられていて、頭は優しく手が添えられている。
理久の体温が暖かい。理久の匂いが心地よい。
部屋はだいぶ薄暗くなってはいるが、灯りはまだ必要なさそう。
まだ理久の腕の中に居たいけれど、流石にやる事がある。
名残惜しくはあるが、そっと離れようとしたその時、理久が寝言を言った。
「いかないで…チハヤ……おにーちゃん、ひとりに…しないで………」
考えないように、していたこと。
理久の、願い事。
昔出会った『人型の迷魂』の名前はチハヤといった。
死んだ時期と原因、あと名前が分かれば現実でその事件を見つけるのは簡単だった。
『斉藤千隼』という名前の、生きていれば俺と同い歳の男の子。
理久のフルネームは『斉藤理久』だ。
時々、理久が俺に誰かを重ねている様子から何となく分かっていた。
理久のフルネームを聞いた時から、頭の隅にはあった。考えたくなかった。認めたくなかった。
そして今日、少しだけ賭けをした。理久の願い事を把握するために。
理久の願い事は恐らく《斉藤千隼を生き返らせたい》だ。
それなら今の砂の溜まり具合も納得だし、多分来年には叶う。叶ってしまう。
胸が苦しくなる。
理久にとって俺は、亡くなった弟の代わりなのかもしれない。
それでも、本気で心配してくれたり、優しくしてくれるのは代わりだからではないと思っている。
弟と重ねながらも、ちゃんと『峰岸優也』として、親友として見てくれていると思う。だから、それだけで十分なのだ。
たとえ、二度と訪れない幸せになろうとも。
このままもう一度寝てしまおうか、なんて思いながら理久の腕から抜け出し、白紙の本を開く。
他に『迷魂』が居ないかクリスに確認したが、居ないらしい。
どうやら物語は終盤のようで、僧侶アンナ含む主人公達がこの街に到着していた。それどころか問題も解決してしまっている。
だいぶ寝ていたみたいだ。
おかげで街全体がお祭りムード。ああ、ここを理久と一緒に歩きたい。
起きるまで待とう。
そして、おはようって声をかけるんだ。
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