本の中の聖剣士

旦夜治樹
旦夜治樹

012頁

公開日時: 2025年4月26日(土) 10:00
文字数:1,410

 理久が願いを叶えた日から、俺はなんだかおかしくなったみたい。

 お腹か空いても何かを食べようという気持ちになれないし、食べてもすぐに戻してしまったりと体調があまり良くない。

 殆ど本が読めていないし、きちんと眠れてもいないと思う。短時間で目が覚めてしまうというか。


 俺の異変はチョーカーの端末情報を確認すると明確に数値として現れていたらしい。

 ハセガワが父さんを呼んだ。

 俺の両方の足首に枷が付けられ、ベッドに繋がれた。

 針が腕に付けられ、下半身にも無理やり管を通された。気持ち悪い。

 ゆっくりと落ちていく透明な液体と、真っ赤な液体を眺める。

 理久とペアを組んでからの体調がとても良かっただけで、虚弱体質とまではいかないが同年齢の平均的な男子と比べれば体が弱い方だったな、なんて思い出す。ベッドで寝てばかりいるのだから当然か。

 新しく作られた記憶を確認すれば、すぐに集中治療室に連れていこうとする程の過保護っぷりを父さんは発揮している模様。

 何かあれば必ず呼ぶようにと、左手首に端末を付けられた。

 薬を飲まされて、酸素マスクを付けられた。

 時々眠気には襲われるが、眠りそうになるだけで眠れない。

 時間だけが過ぎていき、気が付けば夕方になっていた。

 「優也君……何か、食べますか?」

 「うん、そうだね」

 ハセガワが消化に良さそうなご飯を持ってきてくれた。

 食べたあと、吐き戻してしまった。

 

 睡眠導入剤は既に2粒飲んでいるが、眠ることが出来ない。俺、やっぱり変だ。

 3粒は流石に量が多すぎて危険だからとハセガワに止められた。

 俺を眠らずに診ていてくれたハセガワがカウンセリングを行ってくれた。

 そこで初めて知ったのだが、ハセガワは父さんの秘書になる前は精神科医だったらしい。

 家政婦に虐待されていたことが発覚してから、メンタルケアの為に俺の専属医師と執事になってくれていたらしい。

 だから薬も出してくれて、秘書ではやらないような仕事もしていたのかと聞くと、静かに頷かれた。


 ハセガワの診察からは『眠る前』に誘拐された事が影響しているのでは無いか、と診断された。

 誘拐された事に関しては確かに怖かった。けれど、殆ど眠らされていたから覚えていないというのが正直正しい。

 思い出そうとすれば笑っている男の人が居たような気がするけれど。

 それよりも、理久と過ごした1年間が無かったことになったことが辛くて、悲しい。

 理久のことはどう話していいのか分からないし、そもそも『出会ってもいない人の話』は、すべきでは無い。

 全く眠れないまま、数日が経った。




 体力的にもかなり限界。

 本も読めなくて、ご飯も食べられなくて、水も飲めない。

 早く学校に行って、千隼君と仲良くならなきゃいけないのに、どうしちゃったんだろ。

 体を起こすのも辛い。点滴の中に眠る為の薬も混ぜてもらっているが、眠れる気配はない。

 酸素マスクから送られる空気なければ多分死んでしまうくらいに、自分で呼吸もできていないことはわかるが眠れない。

 何度も目を閉じては開けて、また閉じてを繰り返していると来客があった。

 やってきてくれたのは、琹音だった。

 「優也、大丈夫?」

 「あんまり大丈夫じゃないかも」

 琹音が頭を撫でてくれる。

 「なにか怖い思い、したの?」

 「怖い、のかな。悲しいのかな。わかんないや」

 「そう」

 琹音に頭を撫でられると、まるで理久に撫でられている様に気持ちがいい。目を瞑る。あれ、なんだか意識が遠くなる?

 いつの間にか、夢の世界に吸い込まれていた。








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