「さって、下りるか」
アトラスタワーの屋上には、たまにくる。
東京タワーのてっぺんとか、スカイツリーにも。
スカイツリーは人が多いから夜が多かった。
高いところが好きだった。
できるだけ、空に近いところが。
ジジッ
——光学迷彩
体の周りに散りばめた電子を使って、擬似的な映像を作り出す。
ホログラフィーっていう技術だ。
人の目を誤魔化すためには、うってつけの技術だった。
バッ
地上への自由落下。
最初の1秒で約5メートルの距離を落下する。
アトラスタワーの褐色の壁が、ガラス張りの外観に連なるように続いていく。
視界に掠めていく重力の“流れ”が、髪を持ち上げながら迫ってきた。
超高層ビルから落下する時のスリルは快感だった。
下手なアトラクションに乗るより、断然。
ゴォッ
地面まで数十mまで迫ったタイミングで、エア・シュートのジェットエンジンを稼働させた。
空を飛ぶ時は、“磁力”も利用している。
磁力フィールドによってフォースフィールドを作り、空中に特殊な磁場を発生させる。
エア・シュートは超強力な磁力を持つ超伝導磁石で作られたボードだった。
“私専用のボード”って言ってもいい。
自在に操れるのは私だけで、東京のゴミゴミした地上も、これさえあれば何もない荒野も同然だった。
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