私には名前がない。
エイザにも。
他のデザイナーベビーたちにも。
与えられるのはシリアルコードのみで、そのコードは、「製品」として識別できる製造番号の役割を担っていた。
藍浦エイザという名前は、自分自身がつけた名前だった。
私の名前は、…そうだね。
いずれ話す時が来るとは思うけど、ちょっと照れくさいんだよね。
自分でつけた名前に違いはないんだけど、その理由がさ?
どうでもいいことだったんだ。
それだけは、確かなことだった。
これから先のことなんて考えてなかった。
日本に来て、誰の目にも止まらない場所で、朝を迎えて。
どうやって生きていけばいいか。
それだけだった。
それだけが、私たちの中での「問題」だった。
名前とか故郷とか、そんなのなんの役にも立たないでしょ?
どうせ誰にも望まれていないんだし、「自分」なんて、邪魔でしかない。
それはきっとみんなもわかってた。
同じ境遇に生まれた人たちはみんな、世界中のどこに行っても、決して光の中で生きていけないことは知っていた。
人と人。
街と街。
その影の中でしか生きていけないことを知っていたから、旅に出た。
海を渡り、東京という街に来たのも、——きっと。
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