船の上にいると、空が近くに感じられた。
先の見えない水平線の向こうには、不確かな未来だけが横たわっていた。
不思議と不安はなかった。
水面の上には無数の光の粒がゆらめいていて、穏やかな波が、覚束ない足元を運ぶように動いていた。
想像の中でしかなかった。
日本という国のこと。
“社会”のこと。
自分が日本人であること自体に興味はなかった。
でも、「日本」という場所になにか繋がりみたいなものがないかは、想像してた。
血の繋がり。
人の繋がり。
それ以外に“自分”と繋がりのあるもの。
それが具体的に何かはわからなかった。
だけど、探してた。
憧れてた。
普通の生活に。
学校に通ったり、普通の人たちと一緒に過ごすことに。
森山学院高校。
太田区にある私立の学校で、羽田空港が見える場所にある。
見えるって言っても、屋上からだけど。
4階の教室の窓からは、東京スカイツリーも見える。
都心5区に比べれば少し田舎で、海沿いの工場からはもくもくと煙が上がっていた。
閑静な住宅街、賑やかな商業エリア、色んな表情が、大田区にはあった。
あんまりゴミゴミしたところは好きじゃなかった。
だから、ピッタリだったんだ。
初めての学校生活を送るには。
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