「だーれだ?」
背後からぬッと手が伸びてきて、視界が突然塞がれる。
柔らかい口調に、ほんのりと立つ甘い香り。
イタズラっぽく囁くその声を嗜めるように、私は軽く返事をした。
「何?」
「誰かわかってる??」
「咲でしょ?」
「あったりー!よくわかったね」
「他にいないでしょ?」
「えー、そうかなぁ。ハルちゃんとかしそうじゃない?」
「ハルは咲みたいに暇人じゃないし」
「あ、差別!いけないんだぁ」
ほっぺを膨らませながら、咲は顔を顰めていた。
今井咲。
同じクラスで、「パスタ研究会」の部活仲間。
パスタ研究会っていうのは私が創設した部で、顧問は数学のミッチー(※倖田美智子先生のあだ名)だ。
高校に入学した頃から、咲とは仲が良かった。
「買い出し行っとかなくていいかな、今日」
「成瀬が挑戦するって言ってたよ」
「挑戦するって??」
「一から麺を作るって」
「えええ!??」
パスタ研究会は、“究極のパスタを作る”という目的のもと、立ち上げられた部だった。
立ち上げられたっていうと、ちょっと語弊があるかも。
大学じゃないんだし、私立とはいえ、高校でそんな部活が存続できるなんて普通はあり得ない。
家庭科教室は私たちの溜まり場になってるし、パスタの材料とかその他諸々はみんなで折半。
…というか、学校のすぐそばでお店を開いてる。
資金繰りはそこで主に行なってるんだ。
お店はあくまで“貸してもらってる”っていうだけで、私たちが開いてるわけじゃない。
そんなお金も、時間もない。
じゃあどういうことかって言うと、話は長くなるんだけど
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