作り物の命だって、周りの人たちは言ってた。
「神を冒涜してる」って。
“蜂の巣”と呼ばれた巨大な地下空間も。
無機質な研究室の匂いも。
何が普通で、何が普通じゃないのか。
その境界線は曖昧で、答えはいつも出てこなかった。
普通なんてどこにもないんだ。
そう思うことが、たびたびあった。
考えようとしたわけじゃなかった。
ただ、どうしても…
普通の生活に憧れてた。
「日常」って何かを、探し求めてた。
研究所の人たちは、外の世界についてを教えてくれた。
私の母親がいた日本のこと、世界のこと。
それは絵本の中の「世界」だった。
どれだけ具体的な映像を見せられても、その映像の先に見える景色はどこか、——遠くて。
自由を追い求めて、私たちは海の外に出た。
船に乗って、太平洋の真ん中を進んだ。
行き先はわからなかった。
少なくとも、その時はまだ。
どうして逃げなきゃいけないのかわからなかった。
どうして、「バケモノ」と言われるのかわからなかった。
みんなそうだ。
望んでもないのにこの世界に生まれて、気がつけば、地図のない場所にいた。
“帰る場所はない”って、誰かが言ってた。
私たちはみんな、”望まれて生まれてきたわけじゃないから“って。
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