そうして迎えた月曜日。家で考えた結果、今日も池田君と帰るのなら、もう伝えなくてもいいのでは?なんて考えも浮かんだが、それではやはりだめだと、バツ印の烙印を脳内の考えに押した。
授業は終わり、放課後になる。部活動生は着替えるため更衣室へ。それ以外の生徒たちは帰宅するか、友達と、もしくは一人で寄り道をするか、だろう。
私はいつも通り彼を追う。ただ、いつもとは違う。今日こそ彼に伝える。
今日は池田君とは帰っていないので思う存分ストーキング……ではなく、今までの事を伝えることができる。
そう思って彼についていった。距離感がいつもよりも遠くなってしまうのは仕方がない。
しかし、100メートル後ろからではもちろん伝えることができない。
彼との距離を縮めていく。しかし、今日も少し違う道を通っていた。またバレたか?
いや、バレたとしても私のすることは同じ。彼に伝えること。
しかし、彼は歩くスピードを速め裏路地に入って行く。
私も追いつこうと自然と小走りになる。
曲がり角を曲がり、前を見ると、先に曲がったはずの彼がいない。
一週間前全く同じだった。だけど今日しかチャンスはない。そう思い彼を追いかけた。
はずだった。
「ちょっと君、待ってくれ」
聞こえるはずのない天根川君の声が聞こえた。
瞬時に行った行動は一つ。逃げた。いけないことだとわかっている。だけど、体が意志に反して逃げた。
しかし天根川君はそうはさせてくれなかった。
「そっちへ行っても交番だし、俺の友達が待ち伏せてるよ」
と。
私は理解する。なぜ今日池田君がいなかったか、を。
私は諦めて彼の方を向く。向きたくない意志と、向い合わなければいけないという意志が、混ざり合って、不自然に彼へと顔を向ける。
心臓は今までないほどにバクバクしていて、恥ずかしくて、でも申し訳なくて、いろんな感情が混ざり合っていた。
しかし、彼に顔を向けた途端、彼は奇声を発した。
なんと言ったのかわからず一瞬びっくりしたが、私は嫌われたな、と確信しながら彼に近づいて行く。私の初恋は終わったのだ。
しかし終わったとはいえ一歩ずつ、彼に近づくにつれて早まる鼓動。
今すぐ逃げたい。
彼と私の間が1メートル程になる。そうして言葉を発しようとするが、緊張しすぎて言葉を発することができない。
沈黙が続く。私は深呼吸をして、話を切り出す。
「あの、さy」
「あのっ!そのっ!ごめんなしゃぃぃぃぃぃ!悪気もっ手を出すつもりもなかったんですゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、わ、私はっ、ただ!天根川くんが好きで、遠くから見れたらそれだけでよかったんですぅぅぅぅ」
盛大にやらかしました。彼が何かを言おうとしていたみたいだったけど、私が話を切った上に噛みまくりだった。
だった?それだけ?
彼はなぜかふるふると震えている。
あ、そんなことより、、
あ、天根川君にしゅきっていっちゃったぁぁぁぁ
ヤバいヤバい、ヤバい。
天根川君は怒りに震えてか、ふるふると震えている。
そりゃ、ストーカーされた上にこんな場面で告白同然のことを私はしているのだから。
それに対し私は緊張と、羞恥でビクビクしている。
再び沈黙が始まる。
……気まずい。
色々な感情に渦巻かれていると、彼が少し重そうに口を開いた。
「その、正直、こういう風にこそこそついてこられたら、怖いし、やめてほしいと思う」
まぁ、わかっていた。頭の中では分かっていた。だけど、彼に…天根川君に直接言われると、もう何もかもが終わったように感じた。
ポロリと何かが頬を伝う。
自然と涙が出ていた。堪えることもできない。
あぁ、今更ながらになんて馬鹿なことをしてしまったのだろう。
あの時話しかけていれば、あの時メッセージを送れていれば。
後悔ばかりが頭を駆け回る。
しかし、彼の次に放った言葉は予想外の物だった。
「佐山さん、それはそれで置いておこう。佐山さん僕も好きだっ!付き合ってくれ!」
頭に今起こった状況が上手く伝わらず変な声が出る。
段々と状況を理解できるようになってくる。
あ、私、告白された?好きな人に?あれ?コクハクってなんだっけ?
涙で視界がぼやける。涙を拭い、彼を見る。
「……だめ、かな?」
「っっっ」
私はこの時何も考えることができなかった。
私の頭の処理速度、処理できる容量を超えていた。
そして私は一目散に逃げだした。この時、なぜ逃げ出したのかは分からない。
後ろから彼の声が聞こえたような気がしたが、頭に入ってこなかった。
そのあと、ボーとしながら家に入りベットに飛び込む。
今までの状況を整理する。少し時間が経ってすべてを理解する。
「あ、また私、やらかした」
「ん?何をやらかしたんだい?雫?」
「あ、いや、何でもない」
夕飯中だったことを忘れていたため親に独り言を聞かれたが、そんなことは問題ではない。
気が付いてしまった。私はストーカーをするほど好きな彼の告白を断った。
突如として自分に対する嫌悪感で吐きそうになってくる。
馬鹿だ。私はなんて馬鹿なんだろう。
死にたい。小さい頃のイジメでもこんな風には思わなかった。単純にこの頃は悪意に疎かった、ということもあるのだろうが、今回は本当に死のうか迷った。
だけど、彼に会って私の思いを伝えてからにしようと決めた。
なぜだか、そこからの私は何故か落ち着けていた。
そして私はいつもよりも落ち着いた気持ちで、いつもよりも早く床に就いた。
朝起きると時刻は朝の5時半。いつもは6時半頃に起きるので、一時間ほど早く支度ができ、6時半くらいに家を出ることができる。
そうして、学校の準備を済ませて学校へ、いや、彼の家へ行こうと玄関にから外に出ようとすると、ちょうど両親が起きてきた。
なぜこんなに早く出るのか聞かれたが、それっぽい理由で返事をして、家を出た。
私の家から天根川君の家まで電車で20分くらい。歩く時間も含めて30分くらいだろう。
そうして電車に乗り込み彼の家の最寄駅に到着する。
そこから歩いて彼の家へと向かう。彼の家の近くで待って、それで話しかけようと思った。
しかし、今日の昼食を両親に貰い忘れた事を思い出し、どうするか迷ったが、コンビニへと向かう。
コンビニに着くと、そこにはなぜか天根川君が今にも倒れそうになりながら立っていた。
倒れそうになっているのはすこし気になるが、ちょうど良いと思い、彼に話しかけようと近づいて行く。
彼はなぜか壁にもたれかかっていた。おなかが痛いのかな?なんて思いつつ彼の前に立ち、話しかける。
つもりだった。
天根川君が突如私に倒れ掛かってきた。
私はそれを受け止め、ハグするような形で彼を介抱する。
彼のラベンダーの良い香りが鼻腔をくすぐる。なんて良い匂いなんだろうと感心しながら私の鼓動は早まる。
「ちょ、ちょっと!?天根川君!?おーい?」
「……んん……」
そんな時私の手が彼の顔に触れる。なぜか普通ではありえないくらいに熱い。
もう一度彼のおでこに手を当てる。かなりの熱があることに気が付く。
なんとなく私のせいだと分かった。
それから私はとりあえずタクシーを呼び、彼を彼の自宅に連れていき休ませてあげることにした。
起こそうともしたが彼の辛そうな顔を見ていると、起こすことはできなかった。
彼の家はもちろん知っている。もし、ご両親がいらっしゃればそのまま彼を引き渡そうと思った。
しかし、彼の家のインターホンを何度押しても誰一人出る気配がなかった。
なので私は彼のカバンから鍵を探し、その鍵で彼の自宅のドアを開けた。この時私はただただ、彼を助けようと必死だった。
そして、彼の寝室らしき部屋まで運び彼をベットに横たわらせた。
そして、私は気が付く。あれ、私、ほぼ不法侵入した上に天根川君と二人っきりじゃん、と。
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