昔から、全く知らない人から告白されることは当たり前だった。
それが当たり前だと思っていた。
しかし違った。
それに気が付いたのは小学生の頃だった。
ある日仲が良かった子から、突然悪口を言われるようになった。
その日は何かイライラしていたんだろうな、くらいにしか思っていなかった。
しかし日に日にエスカレートしていった。上靴に画びょうが入っていることはもはや当たり前。
今でも靴を履くときは靴の中と靴の裏を確認する。
給食中に私のご飯だけ配られない。
先生も気が弱そうな女性の先生。
誰もが気が付いている。しかし、だれも何も言わない。先生すらも。
後々先生はこの状況に耐えられなくなり、休職。
事情が何となく伝わったのか、別の元気な男の体育会系の先生になってからは、表ではある程度仲良くしている風だったが、裏ではまだ続いていた。
クラスでは女子は私に話しかけないことが暗黙のルールになっているようだった。仲が良かった由美ちゃんも、桜ちゃんも、みんな。そのルールに従っていた。
話しかけられることはあっても色目を使う男子や、先生ばかり。
私に対する嫉妬や憎悪、なぜそれらが送られてくるのかは、今だからこそわかるが、あの頃は理解しきれなかった。
「なんでそんなことを私にするの?」
と、聞いても無視される。もっとひどい人なら返事の代わりに暴力が返ってくる。
このころになると、裏での嫌がらせも続いていたが、殴る、蹴る、などの暴力も増えていった。
だんだん増えていく痣。
それに両親は気が付いたのか、私の両親は別の町へ引っ越して、私を転校させてくれた。顔見知りはもちろんいるはずない。
それで両親はもう一度学校に行ってくれると考えていたのだろう。
でも私は行きたくなかった。
別に新しい学校に不安はなかった。
前の学校の事情を知ってか、毎日私が学校に来なくても先生が家を訪ねてきたりしてくれていた。
だけど、それよりも、私は。
前の学校のお友達に裏切られたくなかった。信じたかった。
だけど信じたいと思うには今までの行為は酷過ぎた。
だけど、私にとって初めてできたお友達。初めてできた親友。認めたくなかった。
こんな幼稚な考えが常日頃グルグルグルグル頭の中をかき乱していた。
今では、馬鹿馬鹿しいと自分でも感じるが、この時はいろんなことが説明しきれないくらい私の中でグチャグチャになっていた。
私は新学年に上がってから転校生として学校に入学することになった。
ある程度頭の中の考えは落ち着いていた。
それからの学校は懐かしいような気持ちになっただけで、特段変わったこともなく過ごした。
ただ、一つだけ変わったことがある。
私は仮面を被った。もう誰とも仲良くなることはやめよう。簡単に言えば広く浅くの友人関係を作った。
そうすれば失望することもないから。
相変わらず男子からの告白は減ることはなかった。
私はこの行為を恨んでいた。この行為がなくなればあんなことにはならなかったのに。
だから私は考えた。
その結果、呼び出されれるたび、気持ち悪いからやめて、と言い放ち、手紙を渡されればその中身は日の光を浴びることなく、一律渡した本人の目の前でごみ箱へ。
そうすることによって男子からの告白は減っていった。
しかし、ここで広く浅く作ってきた友人関係を後悔した。
「誰とでも佐山さんは仲良くなってくれる」と、悪気はないのだろうがそんな噂が流れた。そうすると、下心丸見えの男子が仲良くなってあわよくばを狙ってくる。
自意識過剰だ、なんて言われれば私は認めることしかできない。
だけど、そうもしなければ自分の心を守ることができない。
いつしか私の仮面は自分の心を守るための、唯一の道具になっていた。
中学にも上がると否応なしに体は成長していった。私はかなり早い方だったと思う。それに大きさもほかの女子比べれば大きかった。
男子からの視線は増える。顔だけではなく体への。気持ちが悪い。不快。
中学を卒業し、高校はこのあたりの地域ではそこそこな進学校に進んだ。
高校ではそういう視線にさらされることが苦痛だったので、胸にさらしを巻くようになった。
ただ、思った以上に苦しく一度はやめようか考えたが、体に視線を送ってくる男子はかなり減ったから続けることにした。
減ったとはいえ、一年の頃はまだかなり多かった。だが、同じように手紙は捨て、呼び出しも本当に大切な用事と分かるもの以外断った。
次第にそういった物も減り、かなり快適な学校生活ができるようになってきた。まぁ、相変わらず広く浅くの友人関係を保っていたので、下心丸出しの男子が近づいてきたりしたが、仲の良い友人もおらず、ほとんど一人で過ごしていた。
そんな時に出会ったのが天根川君だった。私が何か困ったことがあるたびに助けてくれて、やけに私を狙うことに熱心な男子だなぁ、なんて思ったりした。
正直この頃は私を狙ってくる男子の一人くらいだとしか思っていなかった。
しかし、そんな自意識過剰な考えはすぐになくなった。
なぜなら彼は手当たり次第に助けていた。自分の目の前で起こったこと、「ちょっと手伝って!」と声をかけられたもの、本当に手当たり次第に、だ。
基本男子なんて、手伝ってくれて、一応こっちもしてもらったので「ありがとう」と微笑んだら落ちるもの、なんて考えをしていた。
だって微笑んだ男子はことごとく私に告白してくるんだから。
だけど彼は告白もしてこなった。私だけではなくいろんな人を助けていた。
私はそんな彼を見ていて、なぜか自分がとてつもなく恥ずかしくなってきた。
それと同時に私は彼を少し好意的に見るようになっていた。
私の体の成長はなかなか止まらず、大きくなっていく一方で、日に日に胸に巻いているさらしもきつくなっていた。
そんなある日私は倒れた。帰宅している途中で、さらしがきつく呼吸がうまくできなくなり歩道でバタッ、と。
周りの人たちは急いでいるのか、見て見ぬふり。
私は段々と意識が薄くなっていくことを感じた。
そんな中、一人の男の子が勢い良く、心配そうに、私に声をかけた。
「だっ大丈夫!?どうしたの!?」
私は声を振り絞り言った。
「たす…けて…」と
そのあと彼が何と言ったのかわからない。ただ分かっていることは一つ。
彼が天根川君だった、という事だけだった。
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私は目を覚ますと見知らぬベットで寝ていた。
なんとなくわかった。ここは病院のベットなのだと。
目の前には両親と、女性の先生が立っていた。
胸に巻いていたさらしは取られていて、呼吸がかなり楽だ。
両親は今にも泣きそうな顔で心配してくれていた。
そんな時、先生は笑いながら言った。
「いやーここまで連れてきた男の子はすごかったねぇ。タクシーや救急車を呼ぶのよりも自分で運んだほうが速いって判断して、汗だくになりながらここまで走って君を運んでくれたんだよぉ。名前を聞いても『いえいえ、そんな大したことはしてませんよ』だってさ」
私って、思ったよりもちょろいな。
その時私は恋、というものを知った。彼のことを考えると胸の奥底がぎゅっとなる感覚がした。
両親はぜひお礼がしたかったようで私にも「だれだかわかるか?」と聞いてきたが、わかんない、とはぐらかした。
たぶん今後彼を目の前にしたら、好きすぎて平常でいられない、と感じたからだ。
これが私の「初恋」だった。
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