僕の初恋の超絶美少女が僕のストーカーだった件。

和橋
和橋

第6話 本当の彼女。

公開日時: 2020年9月5日(土) 21:54
文字数:3,593

体が怠い。頭がズキズキと痛む。何かが自分のおでこに触れている。


あぁ、そうか。確か、コンビニで倒れて、倒れて……そっからどうしたんだっけ。


というか、ここはどこだ。


ふと気になり重い瞼を開く。


目の前には揺れるやわらかそうな布越しの双丘が自分の視界を覆っている。何だこれ。


さっきからおでこに乗っかってその圧で、もう一段階頭が痛くなるような感じがした。邪魔だ。


その目の前で揺れる双丘を掴み、退かそうとする。


モニュッ。


なんだこれ。柔らか。


途端に悲鳴が聞こえてくる。


「キャァァァァァ」


「うぐっ」


それから飛んできた硬い何かによって、完全に意識は覚醒する。


周りをよく見るといつもの自分の部屋だった。


しかしいつもと違う点が一点。


「……なんで佐山さんがいるのかな」


そこには涙目になり、頬を朱色に染めながら恥ずかしがっている佐山さんが居た。


「……それよりも謝ることがあるんじゃないでしょうか」


「へ?」


「あ・や・ま・る・こ・と!」


少ない今までの記憶を手繰り寄せる。まず、目を開けて、何か目の前にあって、それを邪魔だったからどかして。モニュ。


……先ほどまで目の前にあった布と佐山さんのシャツを見比べる。


完全に一致した。


途端に体を起こし佐山さんに向けて土下座という最高位の謝罪をする。


「誠に申し訳ございませぇんでし……ゴホッ!ゴホッ!」


しかし、体を無理に動かしてしまったためそのままベットにごろんと倒れる。


「あぁ!ちょっと無理しないでください!」


「……ごめん」


「もぅ。とりあえず、栄養を取って休むことが一番!おかゆ用意したので食べてくださいね!」


しかし、ここでいくつかの疑問が再び浮かぶ。


「……改めてもう一度聞くけど、なんでいるの?」


「たまたま天根川君を拾っちゃって…」


……まぁ、言い方は悪いが助けてもらったことには違いないのだろう。


「その、助けてくれてありがとう」


「いえいえ!たまたまですから!」


「そっか、ありがと」


だが、このセリフを言った途端あることに気が付く。時計の針が12時を指している、という事に。


「……佐山さん学校は?」


「もちろん休みましたよ?」


「いや、ダメでしょ」


「いいんです」


「いや、学校が許してくれないでしょ!?」


「あ、それなら大丈夫です。さっき電話して、『倒れた人がいるからその人を助けるために今日は学校を休みます』って言ったら大丈夫でしたよ?」


「……そっか」


これに対しては何も言えない。なぜなら自分も同じような理由で休んだ事が昔あったからだ。


まぁ、なんやかんや助けてくれたんだし感謝しなくちゃな。


「改めてありがとう」


誠意が伝わるように佐山さんの目を見て言うと、


「ふぇっ!?あ、あの、その、ど、どういたしまして!」


と、途端に彼女は頬を朱色に染め直した。


そして、三つ目の質問。なぜ家が分かったのか、という質問をしようと口に出そうとしたが、ここで思い出す。


佐山さんは僕のストーカーなのだと。


普通ならばこの状況は恐怖でしかないだろう。しかし、相手が相手なのだ。一度振られているのに幸せすら感じてしまうのは仕方のないことだろう。


そうして質問を切り替える。


「それと、おかゆ作ったって言ったけど食料はどうしたの?」


「あぁ、それはですね。一度キッチンを拝見させていただいたんですけど、本当に何にもなくて一度近くのスーパーに買い物に行ったんです」


「……すまない」


「いえいえ、お安い御用です!」


いつも学校で見ている佐山さんの笑顔ではなく、本当に心の底から笑っているような感じがしていた。


「いつもの佐山さんよりもいい笑顔だね」


なんて柄にもないことを言ってしまうのは風邪のせいだろう。


「そ、そうですかぁ?」


「うん」


と、頷くと彼女は照れを隠すようにベットの下にある何かを取り出す。


それは本格的な土鍋に入ったおかゆに梅干しが添えられている、質素だが良い匂いが食欲をそそり朝からバーしか食べていない腹がそれを求める。


(ぐぅぅぅぅぎゅるぎゅるぎゅる)


二人の間に沈黙が流れる。


「あ、あの、食べますか?」


「う、うん」


彼女は艶やかな黒色の髪の毛を耳に掛けて、土鍋に入ったおかゆを小皿に取り分けスプーンですくい、ふぅ、ふぅと息を吹きかける。


その表情があまりに可愛すぎてしばらく見惚れていたが彼女が声を掛けてきて我に戻る。


「はい、アーン」


「はい、アーン、ってなるか!ゴホッゴホッ」


「あ、また無理するからぁー、素直にアーンされてください!」


この時、全く体力が無く、目の前にあるおかゆを体が求めていたこともあり、自分が取れる行動は一つしかなかった。


「……あ、アーン」


パクリ。モグモグ。ゴクン。


「…おいしい」


「よかったぁ」と彼女は少し体をへにゃっとさせながら言った。


そのまま食べさせてもらいながら感じる。路地裏でストーカーとバレた時とは違う。何かが彼女の中で吹っ切れているような気がした。


結局最後までアーンで食べさせてもらい、完食。


そのままなんとなく静かな雰囲気が部屋を包む。


そこで彼女は口を開く。


「……昨日は返事をせずに帰ってしまってごめんなさい」


先ほどまでの佐山さんではなく|いつもの《・・・・》佐山さんだった。


「私、昨日はいろんなことがありすぎて理解しきれなかった。天根川君の告白を無視しちゃうなんて、私嫌われたよね。あはは」


違う。


「私もう付きまとったりしないから」


いつもと違う。いや、僕は気が付いた。いつもの佐山さんがそもそも彼女じゃないんだ。


「ごめんなさい。さようなら」


「……なんでそんなに仮面を被るの?」


「え?」


まるで彼女は何かがばれてしまう事におびえているような、そんな感じがしていた。


「そんなもの被ってませんよ。あはは」


まただ。僕は確信した。


「僕も佐山さんとずっと一緒に居た訳じゃないからいつもの佐山さんしか知らない。でも、僕だっていつも佐山さんを見てきたんだ。」


「……」


仮定かもしれない。だけど、あの笑顔無邪気な笑顔を見てしまえば、仮定だったとしても伝えなければいけない気がした。


「……いつもクールに見えていたのは、いつも苦しかったからじゃないのか。これ以上傷つかないように苦しまないように、自分を何かから守るために『仮面』を作った。そうじゃないのか?」


完全なる予想だ。あてずっぽうだ。だけど、これが一番しっくりきた。


彼女は何度も口を開け、そうするたび再び閉じることを繰り返しを行い、ついに声を発した。


最初は唐突に話されていただけだったが自然と過去の話だと分かった。


辛く今の佐山さんの仮面を作った過去を。




五分ほど話っぱなしだったろうか。彼女はコップの水を口に含み、もう一度話始めた。


「嫌われたくなかった。いつもいつもいつも。そのことばかりを考えてしまう。だから楽な方法を考え付いた。自分を演じるの。仮面を被って。そうすれば傷ついても私じゃない。だから傷つかない。もう、傷つくのはいやなの」


この時彼女は仮面を被っていなかった。そう分かるほど彼女の目はまっすぐとした、素直な目だった。 この世の物とは思えないほど美しく儚げな彼女を、僕は自然と自分の懐の中に引き込んでいた。






数日後

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今日は土曜日。


風邪も治り快調だ。


いつもなら家に引きこもるところなのだが、今日はとある用事があって家を出ることにしていた。


身支度を済ませ軽く朝食を摂る。ミキサーにバナナをいれ、牛乳100cc。それからヨーグルトにはちみつ。隠し味にレモン汁を少し。


ミキサーでかき混ぜ完成。


今日の朝食はバナナスムージー。簡単に作れて栄養価も豊富。最近の一押しだ。


「うん。いつもどおり(又は漢字で<通り>)おいしい」


飲み終わった後、家を出て鍵がきちんとしまっているかを確認する。今日帰ってくるのは恐らく夕方になってしまうため、戸締りは万全にしておきたい。


そして、目的地に向かう道中少し買い物をし、電車に20分程揺られ向かう。三分ほどポカリと風邪薬が入った袋を持ちながら歩くと目的地に到着した。


そこそこ立派な洋風の一軒家。駅にも近いのでなかなかの値段がするんだろうなぁ、なんて思いつつ、インターホンを鳴らす。


鼻声とガラガラになった声が混ざったような、でも最近聞きなれている様な声が、インターホン越しに聞こえてくる。


「はぁぁぁい。どじらざまでずがぁ?」


そんな声に笑いをこらえながら返事をする。少しいたずらをするつもりで、


「佐山雫さんの彼氏の天根川でーす」と、返した。


佐山さんは「近所に知られるからやめてよ!」なんて言われるが気にしない。というか、そんな佐山さんもインターホン越しからでもわかるほどかわいいから、またやりたくなってしまう。


そんなことを考えている内に、ドアの鍵が開く。そして僕は彼女を介抱するために家に入って行く。


そう。僕と佐山さんは恋人になったのだ。



第一章は完結です!第二章もありますのでお楽しみに!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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