カチリッと小さな音がして、扉が開いた。
多分、この金庫は警察でも押収できなかったんじゃないかな?
金庫の中には、見たこともない。あるいは、これからも見ることのないほどの大金が入っていた。
古葉さんも俺も息を飲んだ。
しばらく、呆然としていると……。
大金の脇に一冊の黒い色のノートがあることに気が付いた。ノートを開けてみると、それは日記だった。
「なあ。この金庫ってさ。広部康介の個人の金庫なんだよ。きっとな」
そうか、この金庫は広部 康介の個人用金庫なんだ。そうとわかれば、早速。
俺は日記を開いて、目を皿のようにしてから、隅から隅まで読もうとした。
「あ、火端。広部の犯罪の方も読んでると、凹むぞ」
「……でも」
「あのなあ、ちょっと貸してみい」
古葉さんが、日記のページをパラパラと捲って行く。
「弥生ちゃんっていうんだよな。その……お前の妹さん。優しい子だったんだろ。なら。きっと、広部にとっても弥生ちゃんは弥生ちゃんだったんだよ」
「え?」
「あ、ほら。こっから違うこと書かれている。お、弥生ちゃんのことばかりになってきたぞ」
「あ!」
●月●日(月曜日)
火端 弥生という少女に初めて出会った。
ここのすぐ傍で、傘下の不良グループにからまれていたらしい。「凄く強い女の子が暴れている。良い動きをする。友達をかばっている時は特に良い動きだ。きっと、何か格闘技をしているんだよ」とスマホへ応援要請と報告の連絡が来た時は、正直。興味をすぐに持ったんだ。
●月●日(火曜日)
友達を無事に帰すという条件で、しばらくこのビルにいてもらった。また興味をすぐに持った。仕草が妹に似ている。横を向く時。怒る時。それと、笑い方だ。
●月●日(水曜日)
弥生が俺の仕事の邪魔をした。
部下や幹部が震え上がる中で、俺に向かって、怒鳴っていた。俺は微笑んで、弥生とある一つの約束をしてやった。
それは、今後麻薬には手を出さないことにする。だった。
●月●日(木曜日)
また、弥生が問題を起こした。
ビル内のタバコを全て捨てたのだそうだ。どおりで俺のタバコも今朝から無いわけだ。
●月●日(金曜日)
俺の妹が死んだ。殺したのは俺。本気で好きになってしまったんだと気が付いたんだ。だけど、それは、妹じゃないんだ。きっと、弥生だ。いつの間にか、弥生を好きになってしまっていた。この世の誰よりも。
●月●日(火曜日)
相棒の禿げ頭を付添にして、取引先の前に弥生と高級バーへとよった。弥生は前からどんな取引先でも、俺についてくるようになっていた。今回の取引は大規模な取引先で、ヤクを扱わざるを得なかった。だから、弥生がいると、何かとマズかった。
それを見越した禿げ頭が進言してきた。
ここで、酔い潰そうと。
いや、俺は……。
その時には、すでに……なあ。
弥生よ。
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