ここにも、これだけの罪人がいるんだなあ。
罪人は死んでも苦しむんだ。
でも、確か地獄へ落ちた魂には唯一の救いがあるんだったな……。
それは……。
そうか、転生だ!
でも、今度はどうやって、弥生を転生させられるんだろうな?
確か、輪廻転生というのがある。その中に五戒というのがあって、それを守らないと人間は死んだら再び人間には生まれ変われないんだそうだ。
「あの。火端さん? 凄い汗ですが……一旦、八天街へ戻りましょう。それに現世では、もう夜のはずですし」
「兄貴? 一体、何を考えてるんだ?」
「ニャー……」
音星と弥生とシロの声が聞こえたが……。
うー、そうだなあ。
五戒って、不殺生《ふせっしょう》。不偸盗《ふちゅうとう》。不邪淫《ふじゃいん》。不妄語《ふもうご》 。不飲酒《ふおんじゅ》というお坊さんが守らないといけない5つの戒めのことだったっけ?
俺の妹の弥生はお坊さんや尼さんではないにしろ。
実際に地獄へ落ちているから、この際は参考になるかもな。
それと、それぞれの行いによって、殺生は等活地獄。偸盗は黒縄地獄。邪淫は衆合地獄。妄語は叫喚地獄。飲酒は大叫喚地獄へ行くことになっているみたいだ。
「火端さん……こんなに汗をお掻きになって……」
「ごめん。巫女さん。兄貴は少し考えるのが苦手なんだ。少しじっとしていようよ」
輪廻転生でも六道輪廻というのがあって……。確か輪廻を絶つ方法を解脱することって本で読んだ時があったっけ?
うーん……と。
六道輪廻の六道とは、魂は不滅だから、生前の善悪で地獄界。餓鬼界。畜生界。修羅界。人間界。天上界と、これらの世界へと輪廻することだったはず。
あ、でも。
解脱って……確か……。
極楽浄土へ行くことだったはず。
地獄から解脱して、極楽浄土へ?
そんなことって?
……。
うん……。とりあえずは、妹の罪を全部知ってからにしてみようか。
「音星。これから閻魔丁へ行こうよ」
「はい。浄玻璃の鏡ですね」
「ああ……。でも、少し違うかもな……」
「はい?」
「?」
「ニャ―?」
俺は妹の弥生の顔をまじまじと見つめた。
すると、弥生が首を傾げた。
多分な……。
きっと……。
「クーラーバッグの中の冷たい飲み物とかは、まだ持つだろうし。だけど、下の階層。大叫喚地獄の入り口まで行ったら、また補給に一旦。八天街へ戻ろうか?」
「ええ……。でも……火端さん。その前に大叫喚地獄の入り口を見つけたら、一旦八天街の民宿で休みましょうよ。とても残念ですけど。もう、現世は夜遅いのですし、火端さんの頭の火傷がとても気になりますし……」
「……そういえば、もう八天街は夜になるんだな……」
「ええ。火端さんのリュックサックも心配ですし……」
急に、叫喚地獄全体の悲鳴が一段と激しくなった。
上空を見ると、灰色の空からまた大量の煮え湯が降り注いできそうだった。何故なら、巨大な青色の腕が手酌を振り上げていたからだ。
ああ、こうやって。
煮え湯が巻かれていたんだな。
「う、うわ!!」
「火端さん!! 弥生さん!! 早くあっちの火のついていない釜土へ!!」
「兄貴!! 走るぞ!! また頭焦がしたいか!!」
「ニャ―!!」
真っ赤な地面に手酌からの水滴が落ちてきた。水滴が落ちたところから、真っ赤な地面は大量の煙を発した。巨大な腕の手酌が目一杯振り上げられたのだ。その次は、当然。空の腕が勢いよく手酌を振り下ろしてしまった。爆発音に近い風の音共に、手酌から大量の煮え湯が地面へと注がれる。
俺は頭を両腕で守って、みんなのしんがりを大急ぎで走った。
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